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4-2 外の世界 2


 狼の記憶をヒントに進む。

 狼の記憶だ……獣道が続く。背の低い木が多く、四つん這いで進んだり、全身が隠れるほど茂った草の中を進んだりと散々である。


 森に入ってから六日後の昼過ぎ、ようやく狼の記憶にあった集落に到着した。


 意外なことに、集落は森の中ではなく森から離れた、開けた平野にあった。

 木製と思しき城壁が集落の周りを囲んでいるが、高さも三メートル以下と心許なく、体の大きな種族を前にしたなら、こんな壁など一瞬で壊されてしまうだろう。

 何より、劣等種である人族が、目立つ平野に堂々と集落を築くなど、上位種である竜や巨人たちは何も言わないんだろうか?


 門に向かう。


 門の前では、緊張感もなく椅子に座りながら二人の男が談笑していた。

 あまりにも呑気な光景に思わず足を止めてしまう、この辺りは心優しい上位種が治める土地なのかもしれない。

 比較的温暖な気候のせいか、男たちは二人とも半袖で、全身をモコモコの毛皮に身を包んだボクに対し、何とも言えぬ視線を向ける。

 〝その格好、暑くないのか?〟と汗ひとつかかずにいるボクに、男は怪訝な顔をした。もちろん、暑さも寒さも自由自在に調整出来るので、問題はない。


 男たちの言葉も分かる……少しだけホッとした。


「坊主、どっから来たんだ?珍しい肌の色しているな、名は」


 名前……名前……ボクには昔エメルという名前があった。しかし、その名前は、人を辞め家畜に落ちた時点で、集落と家族に取り上げられてしまった。


「……エ……っと、フィヨルって言います。フィヨル・ランカスターです」


 フィヨルは集落で一番仲が良いと信じていた、ボクを悪魔と呼び拒絶した近所に暮らす幼馴染の名前だ。神樹の翁が人の記憶を呼び出したせいなのか、未練があるのか、その名前が真っ先に浮かんだ。


「フィヨルか……フィヨルは、この集落に何しに来たんだ?旅人にしては荷物もないし、この辺りでは滅多に見ない服装なんだが」


「その……ボクもどうしてここにいるのか分からないんです。北の大陸にある小さな集落の出で、新しく見つかった迷宮の中にいたんですが罠を踏んでしまって、気が付いたらそこの森の中にいました……転移系の罠を踏んだんだと思います」


 苦しかっただろうか……昔見た本の知識を頼りに、口から咄嗟に嘘が出た。迷宮にある転移の罠で消息を絶つ人は年々増えているって聞くし……。


「北の大陸……だから、そんなに色が白いのか。……転移ねーまー着いてこい」


 門番の一人はそう言うと門を開け集落の中に入っていく。後に続いた。旅人が珍しいのか、集落の住人たちは、ボクの方をじろじろと見てくる。

 表情を見る限りあまり歓迎はされていないようだ。

 この地域特有の肌色なんだろう、集落の中にいる人はみんな日に焼けたような赤銅色の肌をしている。エルフ族というよりは、特徴的にボクと同じ人族なんだと思う。


 視線は気にせず、門番の後をついていった。

 小屋の前に到着した。

 促されるまま中に入る。

 中には、フードで顔を隠す、ローブを着た男が一人座っていた。門番の男の態度を見る限り、この集落の偉い人なのかもしれない。


「この方は、この集落の真偽官様だ。坊主のようなよそ者が来た際に、嘘をついていないか確認するのが真偽官様のお役目だ」


 と門番は言う。

 ボクが暴れ出すと困るという理由から、門番の男もこの場に残った。

 真偽官と向かい合うようにテーブルを挟んで座る。

 テーブルの上には、魔法文字(ルーン)が浮かぶ奇妙な水晶玉が置かれていた。いまの状況からして噓発見器的な物なんだろう。


「では、これから幾つか質問をしますので、噓偽りなく答えてください」


「分かりました」


 真偽官の言葉に返事をすると、水晶玉が仄かに光りはじめる。


「あなたは、どこから来たんですか」


「遠い場所から来ました。自分がどうやってこの国に来たかは分かりません。転移門のようなものは通ったと思います。自分がいた国の名前も分かりません。育ったのは山間部にある小さな集落です」


 門番の男が真偽官になにやら耳打ちしている〝えっ、迷宮の罠で転移〟って部分だけは辛うじて聞こえてきた。


「嘘はついていないようですね……彼の証言は真実です」


 真偽官は、〝北の大陸には転移の罠があるんですか……この大陸では、数百年間確認されていない罠なので戸惑ってしまいました〟と慌てたことを謝罪する。


 話した内容には嘘はない。

 ボクが生まれた集落は、ここよりも遠い場所で、集落のあった国の名前すら知らないのだ。見世物小屋の男の物になってからは、移動の時には、いつも黒い布をかけられた小さな檻の中に閉じ込められていたし、馬車で移動していたのか、荷車のようなもので運ばれていたのかも不明である。

 世界の半分を壊して罪人として捕らえられた後も、自分がどうやってこの大陸に来たのかも分からない……要は何も知らないのだ。

 それに、罠では無いが転移門も何度か潜っている。嘘は言っていない。


「あなたは、この村を訪ねた理由を聞きたいのですが?」


 森を出て彷徨っていたら、この集落を見つけました……では、あの水晶が反応しそうだ。


「ボクはこの国のことを何も知りません。自分の生まれ故郷に戻るとしても、自分の国の名前どころか方角も分からないんです。集落への滞在許可と、何か仕事を紹介してもらえないでしょうか?それと……ボクの格好は目立ちすぎるようなので、交換できそうなものはこれしかありませんが、着替えを譲ってもらえたら嬉しいです」


 ボクはテーブルの上に、来る途中に『合成』で創った骨剣三本と、予備の毛皮のブーツ一足を置いた。


「変わった材質の剣ですね、見た感じ鉄ではないようですが」


「獣の骨で作った剣なんです」


「抜いてみてもいいですか?」


 〝どうぞ〟と答えると、真偽官の男は興味深そうに鞘から抜いた骨剣を眺める。


「切れ味はあまり良さそうではないですね。ただ、キミは運が良い。ちょうど集落に珍品集めが趣味の商人訪れていまして、よれば紹介しますよ。仕事に関しても、この国では迷宮漁りや狩り人や傭兵といった戦いで生計を立てる人間に、専用のライセンスカードを発行していますので、それを取得することをお薦めします」


「ありがとうございます。助かります」


「すぐに商人も来ると思いますので、この小屋で待っていてください」


 そういうとボクだけを残し、二人は小屋の外に出て行ってしまった。

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