3-6 不死神の王の廃迷宮 6 成長の水
神竜の王は、ボクの中を覗いて驚きの声を上げる。
「成長の水を一度も使ったことがないとは、お前は馬鹿なのか」
この世界の生き物は、同族以外の生き物を殺すことや自らの技術を磨くことで、自身の成長を助ける『成長の水』を得ることが出来る。
手に入れた成長の水は、自分が持つ器に貯まり、水を別の器に移すことで、自分をより成長させることが出来るのだ。
話を聞くまで器は『基本能力の器』のひとつだけだと思っていた。
『基本能力の器』以外の器については、認識することで初めて見ることが出来るようになると二人は教えてくれた。
自分の能力を呪い世界に絶望したボクは、一度も成長の水を『基本能力の器』には注がず貯めっぱなしの状態だった。
痛みもなければ死ぬこともない、心を閉じたボクに成長は不要だったのだ。
ずっと檻の中に引き籠っていたボクの『成長の水』は、大した量ではないと思うんだけど……いままで一度も確認したことがないのだから、水の量など知る由もない。
神竜の王に促されるままボクは目を閉じる。
〝海だ!〟驚き過ぎて思わず叫んでしまった。
小さなボクがいる島を囲むように大海原が広がっていたのだ。この水すべてを使えば、ボクは正真正銘の怪物にもなれる。聞いたこともない量の『成長の水』がそこにはあった。
迷宮の中にいた万に及ぶ生き物を殺したからだろうか……それとも『神樹の翁』と『神竜の王』が混ざり合い産まれた怪物が奪った命すら、ボクが殺したとモノとして数えられていたのだろうか。
驚きは続く。
ずっと種の中にいた神樹の翁と神竜の王の方が、ボクよりも流れた年月を把握していたのである。
二人の肉体が死んでから、既に二千七十六年が経過しており、ボクは二千年以上あの牢獄の中にいたことになる。しかも二人は、ボクの記憶すら覗いていた。
「あの魔法使いが言った世界に恩を返すだったか、それをするなら力も必要なんじゃねーのか?なにより『合成』は上げた方がいいぜ、今のままじゃ生物どころか、物同士の『合成』すら失敗続きだろ」
「え、能力にも成長の水が使えるの?そんな器なかったような……」
「一度認識する必要があるからな。いまなら見えると思うぞ」
神竜の王の言葉通り、目を閉じると『合成の能力の器』があった。器にはレベル0と文字が書かれており、器の見え方も、能力についての説明もそれに関する知識の量によって変化するんだそうだ。
さしあたってボクが見ているのは、初心者用といったところか。
いままでは力など必要なかった。でも、これからは違うのかもしれない。外の世界に足を踏み出すのなら最低限の力は必要になる。
神竜の王曰く、ボクが『合成』でひとつにした生き物がすぐに死んでしまったのも、『合成の能力の器』に『成長の水』を注がなかったのが原因だそうだ。
試しに成長の水を新しくできた『合成の能力の器』に注いでみる。
■『合成』のレベルが1になりました。……望んだモノ同士を合わせてひとつにすることは可能ですが、望んだ形になることは稀でしょう。特に生物同士の合成はおススメしません。
……と、頭に浮かぶ。これがボクに合わせた説明文なんだろう。
能力は、すべてレベル0からはじまり、成長の水を器に注ぐことで能力も成長し場合によっては進化する。
個々の能力の器を認識できなかったとしても『基本能力の器』にさえ『成長の水』を注いでいれば、他の器にもほんの僅かではあるものの『成長の水』が流れるそうだ。
少しは『合成』が成長していたかもしれんぞと神樹の翁は語る。
ボクは、それすら一度もしなかったのだ。『合成』が役立たずの能力のままだったのも仕方がない。もちろん個々の器を認識できた方がより効率的に自分を成長させることが出来る。
アドバイス通り『合成』の能力のレベルが十に上がるまで『成長の水』を注いだ。
すると能力の進化が起こり名前が変わる。
『合成と改造』……合わせたモノを自分の描く形に改造する能力。
能力が進化したことで生物同士の合成の成功率も上がったみたいだ。
これにより、マトモナ寿命を持つ生物の創造が可能となった。
この能力を過去に手に入れていたなら『神樹の翁』と『神竜の王』を合成して産まれた怪物は、枯れることなく、この世界を完全に滅ぼしていたかもしれない。
更に『合成の能力の器』に成長の水を注ぐ『合成と改造』がレベル十に達すると次は『合成と改造と抽出』に名前が変わった。
『合成』の能力の進化はこれが限界のようで、レベル十まで上げると、それ以上水を注いでも、器から水が溢れるだけになってしまった。
能力は、それぞれ進化出来る回数もバラバラで、能力の成長は、進化だけでなく新しい能力の取得にも繋がることがあるそうだ。
■『合成と改造と抽出(最大値)』……失敗の確率:稀。
望んだモノ同士を合わせる能力。望んだ形への改造が可能で、その一部を抽出することもできる。合成後の改造も可能である。
尚レベルとは別に、合成で同じ種類のモノを何度も産み出すことで、モノの質も上がっていく。
といった感じに自分の能力を知ることが出来た。能力をより認識することで、頭に浮かぶ説明文も変化するのだろう。能力を知ることも成長にも繋がる。
新しい能力も増えた。
『合成』の対象が生物の場合、死後九日以内であれば記憶の抽出が可能で、ボクの中に新しくできた『記憶の書庫』と呼ばれる能力に並べられた、白紙の本と合成することで『知識の書』を作ることができるそうだ。
『知識の書』は、死んだ人間の記憶が丸ごと書き込まれた本であり、しかも、生前その生物が持っていた『能力』も一緒に保管される。
一度だけその『能力』を自分や他の生物に『合成』することが出来るが、『知識の書』から能力を『合成』した瞬間、成否に関わらず本は灰になって消えてしまう。
能力の合成は成功率が低いようだが、いままで『合成』で作ったものの十割が失敗作だったことを考えれば大きな前進である。
『合成』の進化で、物同士の合成であれば失敗することの方が稀になったのはありがたい。
それに、他人の記憶を本にする能力は、この時代の知識がないボクにとって便利な力だと思う。
問題は、相手を殺さずに、都合よく死後九日以内の死体が落ちているかどうかだが、その辺は、焦らずに追々考えていけばいいだろう。
不死神の王の廃迷宮6を最後まで読んでいただき、ありがとうございました。