複写と取り寄せだけで十分
「何ここ?」
気がつくと、現実とは思えない場所に居た。
光に覆われ、回りがよく見えない。
「ここは、神の間です。貴方は事故で亡くなったのですよ」
どうやら、光の中に人、いや神様?がいるのかな?
え、事故、誰が?
「混乱するのも無理ありません。自分の死の瞬間なんて思い出したくないでしょうし、大半の方は同じような反応をされます」
「あの、死んだのはわかりました。それで、神様が何のご用でしょうか?」
理解するのを諦め、とりあえず今の状況を把握する事にした。神様なんて本当に居たんだ。声では性別がわからない。男神?女神?性別が無い?まぁどうでも良いや。
「貴方は、生前に(少し)善行を積んだので、全ての記憶を失い生まれ変わるか、別世界への転移を選べます。どちらを望みますか?」
あぁ、お約束の異世界転生か。もうそろそろ古い気もするけど。
「転移の場合、特典として2つほど能力を融通しますよ」
まだ高校生になったばかりで、生き足りないかな。まぁ、転移してもそのうち死ぬかもしれないし。
「じゃあ、転移でお願いします」
「わかりました。どの様な世界を希望しますか?」
「どんな世界がありますか?」
「この中から選んで下さい」
何か、図鑑のような物を取り出そうとしている。え、そんなに大量に選択肢があるの?面倒だなぁ。
「あの、お任せって可能ですか?」
「そうですね、では簡単な希望でもありますか?」
いけるんだ。とは言え、特に希望も無いし、どうしようか。あ、ゲームっぽいので良いや。
「ヨーロッパの中世をイメージした、良くゲームとかである感じのファンタジー世界とかありますか?」
「では、こちらで良いですか?」
提示されたのは、本当にゲームでよくある感じの世界。似たような希望の人が多いのか、慣れた感じで一瞬で提案される。それとも、神様なら何でもあり?
「じゃあ、それで」
「次に特典ですが、持ち物や特技など、この中から2つ選んで頂けます」
そう言いながら、また辞書みたいなのが。
「これもお任せ出来ますか?」
「流石にこればかりは」
ですよね。
「まだ試験運用中ですが、ランダム選択も一応可能ですが、試してみますか?おすすめは出来ませんが」
「では、それで」
あんな辞書みたいなもの、見てられない。
「では、このボタンをお渡しします。一回目で開始。二回押してそれぞれが確定。気に入らなければ、再抽選も可能ですので、もう一度押して下さい」
ガチャだ。リセマラ用の。でも、何がレアかとかわからないのでリセマラする意味が無いけど。
「では、どうぞ。だいたいこの辺りに結果と説明が出ますので」
神様の顔?の前辺りを指し示される。
「では、行きます」
一回目、開始ボタンを押す。文字が表示され、どんどん変わっていく。
二回目、「複写」で止まる。内容説明はまだ表示されていない。
三回目、「取り寄せ」で止まり、両方の内容が表示される。
【複写】
※出血大サービス中、異空間に数量制限無しで物が入るポーチ付き
触れている物を複写し、所有者を自分に書き替える事が可能。但し、一つの物を複写出来るのは一度まで。
複写された物は、自動的に希望する場所に送られる。
【取り寄せ】
自身の所有物を手元に取り寄せる。
「お、【複写】のおまけ付きとは、大当たりですね。おまけ付きは、ランダム選択のみのサービスでして、スキル使用に役立つ物が付いてきます」
神が、生き生きと説明してくれる。案外親しみ易いのかな?それともガチャ中毒か。
「後は【取り寄せ】か。こちらは人気が低いものの、使い道次第で化けると思うんですが」
急にテンションが下がる。神からすれば、どの様なものも等価であり、不人気なのが不憫なのかもしれない。それに、使い方次第と言うのは同意見だ。
「で、引き直しはどうします?両方リセットされますが」
「これで良いです」
他に何があるのかわからないので、引き直すべきかわからない。なのでこれで良いや。
「最後に、転移後の姿や年齢ですが、少しなら調整できますが、どうしますか?」
「調整?」
「髪や目の色、種族などですね」
今のセミロングの黒髪は気に入っているが、目立つかな?
「変えないと、悪目立ちしますか?」
「そんな事は無いですよ。ただ、折角の異世界なので、これまでのイメージを変えたいと思う人が多いですね」
夏休み明けの学生や、中二病を実現する感じかな?
「じゃ、今のままで」
容姿については、上の下と自負している。異世界の美人の基準は不明だが。
それに、顔くらいは両親からもらった物をそのままにしないと、私が私でなくなる気がする。
「最低限の資金や食糧、標準語はサービス、と言うよりそれさえ与えずに異世界に放り出すとか、無責任すぎます。なので、安心して異世界で生活してください。良い人生となる事を…」
「あ、ちょっと良いですか?」
後少しの所だが、ちょっとスキルを考慮し、相談したい事がある。
「ええ、どうぞ」
「開始位置ですが、高額な量産品を取り扱っている街や、勇者にしか抜けない剣が刺さった場所の近くの街とかにしていただく事は可能ですか?」
珍しく、神が即答してくれない。少し待つ。
「普通は比較的安全な街からスタートなのですが、【複写】持ちならそう考えますよね。気づかれた私の落ち度ですので、仕方がありません。前者なら許可します。後者は勘弁願います」
神様からお願いされてしまった。レアな経験なのでは!?
「それでお願いします」
「では気を取り直して、良い人生となる事を祈っています」
神の声が、意識が遠くなる。かくして、私の第二の人生が始まるのであった。
まずは、所持している物を一通り複写し、倍の量に。
お金については、シリアルナンバー等が無い事を確認した上で複写。
増やした物を売り、更にお金を増やす。
次は、本格的に情報収集だ。街の地形や安全な地域を把握し、少々お高くなるが安全な宿を確保。
何分、平和ボケと言われる国で育った一学生だ。安全第一。
高級品を取り扱う辺りも確認。
お金を増やせるとわかった時点で、高額貨幣に両替、複写、低額貨幣に両替、複写、の無限ループも考えたが、急に流通している貨幣が増えると国に目をつけられる可能性もあり、また両替ばかりしていると目立つので断念。
この過程で量産品や逸品など、触れる機会があった物は何でも複写しておき、量産品を中心に売却し、元手を増やす。
そして、高級衣料品店へ。
高級店に入っても怪しまれず、かつ目立たない衣装一式をオーダーメイドで作成。
店にある商品を複写すれば良いのでは?と思うのは元の世界でしか通用しない話。
安い衣服は複写で良いが、高級な衣料は基本オーダーメイド。出来上がった衣服も置いてはあるが、各自に合わせた調整が必須。自分で調整出来るような腕なんてあるはずも無し。
出来上がった衣服を身に付け、高級だが量産品を取り扱っている店へ。
そしてひたすら複写。
これまでに複写した物のうち、この街で売っても問題が無い物はどんどん換金。
そして、他の街で更に高く売れる商品を把握し、複写。
商人の仕入れが全て複写でまかなえるので、売値が全て利益となるのは有難い。そして、荷物もかさ張らず自前の馬車等も不要。
乗り合い馬車等を使い簡単に移動が可能なはずだが、経路により安全性が異なるのでまだ情報収集。
金銭については目星がついたので、次は身の安全を確保する方法を考える。
簡単に自分を強く出来るはずは無いので、物による補強を考える。だが、どう見ても素人の自分が不自然に高い装備をしていては、カモにされるだけだ。
ほどほどの防具を確保し、攻撃面に特化する方が良いだろう。
武具店を回りながら、忘れずに複写。
近接戦は避けたいので、飛び道具に絞る。取り寄せがあるので、投げて回避されてもすぐに手元に戻しまた投げられる。
弓矢等も矢の回収は可能ながら、再装填の手間で断念。投げ槍?扱える気がしない。
消去法で、まずは短剣投げに決定。
短剣投げを得意とし、信頼できる人を探す。
これが一番大変だった。
何とか見つけレクチャーを受けたものの、素人に毛が生えた程度の腕にしかならない。後は、実戦で磨くしか無い。
この過程で幸運だったのは、強力な武装や伝説の品を持つ人に接触出来た事だろう。何とかの一つ覚え、複写。
かくして、ひとまず完成した戦闘スタイルがこちら。
着弾すると電気を発する短剣をメインとし、当たるまで投げては回収する。スタンガンをひたすら投げるような感じかな。雷以外の短剣もあるが、殺したい訳ではない。あくまで、足止めして逃げるのが目的なので。
さぁ、ひとまずの準備は整ったので、行商をしながら、安全な街に移動しよう。
そこからが、私の旅の始まりだ。
<神様の視点>
やはり、始まりと終わりが逆転してしまった。
本人もある程度理解しており、自粛してくれているのが救いだろう。
変な事に巻き込まれず、本来のスタート地点に出来るだけ早くたどり着く事を祈ろう。
神が誰に祈るのかって?神の上にも神がいるのだ。上司、どうしようもなくなったらよろしくね。