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35 ボケとツッコミ

 前回話していた通り、今回はボケとツッコミのお話。

 といってもお笑いはあまり関係ありません。


 ここで言うボケとは、最初にアクションを起こす人のことです。

 物語の中で何かしらイベントを起こす必要があると思うのですが、そのイベントの中心人物となるひとですね。


 例えば悪役が現在の国を転覆させて、新しい国を作って自分が王になり、この国の支配者になる――なんて、ありふれた野望を抱いて悪い企み事をするわけです。

 その企みに対して、壮絶にツッコミを入れるのが主人公。

 お前のやろうとしてることは間違ってるぞ! とツッコムことで物語が成立するわけですね。


 ボケとツッコミと書くとかなり簡略化しているように感じますが、この表現は意外と重要だったりするのです。

 なぜならイベントを起こすキャラクターにはそれなりに思想が備わっていて、なにかしら主張したいことがあるわけです。


『今のこの国はダメだ。俺が新しい理想郷を作ってやる』


 と、悪役が主張するのに対して、主人公が――


『お前が新しい国を作っても国民を虐げるだけだ』とか説教を垂れながらぶん殴るわけですね。


 物語のイベントでは、主人公と悪役が対立するわけですから、それぞれのイデオロギーがぶつかるわけです。

 ボケとツッコミのような関係性が成立するのではないでしょうか。


 とまぁ、こんなのわざわざ文章にするまでもないようなことですけど、ボケとツッコミにすることでその関係性がハッキリします。

 間違ったことをする者(ボケ)とそれを正そうとするツッコミの関係ですね。


 まぁ、リアルの争いごとだとどっちが正義だか分からない状況というのが良くありますけど、これはあくまで創作のお話なので、小難しい話は抜きにしましょう。

 重要なのは、登場人物の役割をボケとツッコミに言い換えることで、その関係性をはっきりさせることです。


 でも、なんでこれが重要なのか。


 悪役に対して主人公が全力でツッコムのは当たり前のことですよね。

 別にわざわざ関係性を言い換える必要があるのかと、疑問に思われるかもしれません。


 でもね、あるんですよ。


 ここで言うツッコミというのは、悪役の行ったことの是非を問う行為ともいえます。

 『悪役君はこの罰を受けても仕方ないくらい悪い行いをしたよね』と、主人公の認識と読者の認識をすり合わせて初めてツッコミとして成立するわけです。


 ここで大きな乖離が生じていると、読者はモヤっとします。


 例えば万引きをした少年を捕らえて、その場で主人公が少年の腕を切り落としてしまったらどうでしょうか?

 確かに窃盗は悪いことですが、何も腕を切り落とすほどのことでもない、と感じる人は多いのではないでしょうか。

 犯した罪に対して過剰な罰を与えてしまうと、逆に主人公の方がボケ(悪役)になってしまうのです。


 気づかないうちにボケになってしまった主人公ですが、誰もツッコミを入れず、何をしてもただただ称賛されるような展開が続きます。

 どこかで目にしたことがある人も多いのではないでしょうか?


 大いなる力を手に入れた主人公が悪を断罪している(ツッコミを入れている)うちに、自分自身が悪(ボケ)になってしまった。

 しかし主人公にツッコミを入れる者は皆無なので、次から次へと敵をオーバーキルしつづけ、暴走が止まらない。

 読者は何も言わずにそっとブラウザを閉じる。

 考えただけでも寒気がしますねぇ。


 一般的に倫理観が欠如した主人公とその物語は人気が出ないと言われています。

 もちろん中にはダークヒーローもので人気を博した作品もありますけど、ダークヒーローと倫理観の欠如は別物な気もします。


 そうならないためにも、主人公にツッコミを入れる存在は必要不可欠。


 主人公が何か間違っていることをしたら、傍にいる仲間か、あるいはヒロインか、もしくは悪役か。

 誰かが盛大に突っ込むことで、主人公の暴走が抑えられる――というより、物語のバランスが保てると考えています。


 人気のある作品って、だいたい主人公に対してツッコミを入れるキャラがいるんですよね。

 辛辣なヒロインだとか、ウザいくらいに邪魔してくるライバルキャラとか、読者から嫌われまくっている悪役とか。

 こういうキャラクターにあえて正論を吐かせることで、主人公の行っている行為を客観的に見つめ直すことができます。

 また正論に対して主人公が暴論で返したとしても、悪役やライバルがしっかりとヘイトを引き受けてくれていれば、主人公から共感性が失われたり感情移入しにくくなったりもしません。


 人気作の悪役ってとてもよくできているなぁと感心することが多いのですが、ちゃんと悪いことをしながら主人公に対してツッコミを入れているんですよね。

 主人公のすることなすことを全部否定して戦いを挑むものの、最後は主人公からびしっとツッコミを入れられて敗北。

 情けない断末魔を上げながら退場する。


 うーん。美しい。

 こういうベタだけどきっちり役割をこなす悪役を見ていると、いい仕事してるなぁと心の底から感心してしまいます。

 悪役こそ物語の柱。



 ◇



 主人公の行いは、常に読者によってジャッジされています。

 独りよがりな行いを続けていたら、読者からは目を背けられてしまいます。


 こうした失敗は素人小説だけでなく、商業系の作品でも見られる光景だったります。

 制作側が想定のしていない形で、ヘイトがヒロインや主人公に集中してしまった例をいくつか目にしましたが、やはり大多数の読者の言い分を聞くと、なるほどなと頷くことが多いです。

 嫌われるには嫌われるだけの理由があるんですよね。


 どのキャラにどのような形で読者のヘイトが向かうか、明確には分かりません。

 たらこの場合も、書いている時は主人公が全面的に正しく思えても、読み返してみるとそうでもなかったりすることもありますからね。


 大切なのは主人公の行い(ヒロインとか仲間も含む)を客観的にみるということ。

 その行動に対するジャッジを常に忘れずに行うこと。

 ボケとツッコミのバランスがとれていれば、主人公が嫌われてしまう可能性は低くなると思います。


 主人公の一番近い場所で寄り添っているキャラクターは、もしかしたら悪役なのかもしれませんね。

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