6.モンスター討伐
イーリアたちが図書館に着いたのはまだ陽も高い時間だった。身長の低くなったルーシーが建物を見上げると、首がつってしまうのではないかというくらい大きな建物。中はひんやりと涼しくなっており、汗ばんだ体には少し寒いくらいだった。この時間は空いているようで、あまり人はいない
。そして、何よりもルーシーが驚いたのはその本の数だった。こんな砂漠地帯にあるにもかかわらず、ずらりと本が並んでいる。この地域についての本や砂漠の環境についての本から、世界地図やモンスター図鑑、他国の歴史書まで何でもそろっているのではないだろうか。そう思うくらいたくさんの種類の本が置かれていた。
ルーシーはこの地域についての本を、適当にいくつかイーリアにそろえてもらい、椅子に座って読み始める。イーリアもその本の山を手にして読み始めようとして、ティーナに服の裾を引かれた。
「何か読みたい本でもあった?」
イーリアが聞くとティーナは頷き、彼女を引き連れて行く。ティーナが立ち止まったのは、世界の書物がそろったコーナーで、世界の歴史が書かれている本と魔道具についての本をイーリアに頼んで取ってもらう。そして、ティーナもまた適当な椅子を見つけると、その本を手に取り読み始める。彼女の瞳からは、戻るための手掛かりを探すんだという意気込みが見て取れ、イーリアは安心したのだった。
3人は時間も忘れて読書に没頭していた。昔から本をよく読んでいたルーシーはどんどんと読み進めて、山積みになっていた本を閉館時間前には読み終わっていた。ティーナも自分で選んだ2冊の本をちょうど読み終えて、顔を上げると向かい側にいるルーシーと目が合う。
“どうだった?”
“これという内容はなかったわ。ただ・・・”
“ただ?”
“この呪いは白銀の遺跡なら解けるみたい。”
ティーナから渡された筆談用のメモを見て、ルーシーは驚いた様子だった。
“つまり、最悪の場合はルヴェルディにお願いすれば解くことは可能って訳だね。”
“ただ、すごく時間がかかってしまうのと・・・”
“私が砂漠に耐えられるかってことだね。”
ティーナは申し訳なさそうな顔をして頷く。それに対してルーシーは気にしてないという様子で、ペンを走らせる。
“もっと調べてみたら色々分かりそうね。だけど・・・今日はもう終わりにしようかね。カルムたちも帰ってくるだろうし。”
ルーシーに言われて窓の外を見ると、沈む夕日に照らされてオレンジ色に輝いていた。そうね。と、ティーナは頷き、2人は隣の席で気持ち良さそうに眠るイーリアを起こしたのだった。
一方、カルムたちはギルドでちょうど良い依頼を見つけることができ、砂漠へと出てきていた。依頼はモンスターの討伐。今、カルムたちが歩いているエリアで巨大な鳥の形をしたモンスターが住み着いてしまったようで、商人たちの荷運びのルートが使えなくなってしまっているので何とかして欲しいという内容だった。
砂漠のどこに鳥が住み着くのかとライトは思っていたのだが、今いる砂漠には岩も混ざっていた。大きな岩山の上にでも巣があるのだろうと納得する。だが、手で翳して岩山を見上げるがモンスターの姿は見つからなかった。
岩山が出てくるということは、砂漠の終わりが近いという印なのだが、ライトにはそんなこと分かるはずもなく、舗装された道を歩きやすいなと感じる程度だった。
「本当にこの辺なの?」
「あぁ、依頼人の話ならちょうどこの辺りが、商人の交易ルートのはずだ。」
「いないねー。」
ライトの問いにカルムも辺りを見回すが、出てくる様子はなさそうだった。
「・・・鳥ってさキラキラするものを狙って来るっていうじゃん。だから、チェルの槍を振り回してたら出てくるんじゃない?」
「そんな簡単に出てくる訳ねーだろっ!」
「えー、やってみるだけやってみようよ。」
「やるなら離れてやれ。」
ライトとカルムに言われてチェルは渋々槍を手に取ると、彼らから少し距離を取り、刃の部分を上に向けて振り回して見せる。しばらく振り回してみるがやはり何も出てこない。
「ほら、やっぱり無理だろ?これ、結構しんどいんだぜ・・・」
そう2人の方を見て言ったチェルは、顔色を変えて手を大きく振るライトと、剣を構えるカルムの姿が見えた。先ほどまで一つも吹いてなかったのに風があることに気づいて、チェルは恐る恐る後ろを振り返った。
バサッ!!
目の前を巨大な鳥が通り過ぎた。獲物を仕留め損ねた鳥のモンスターはそのまま空中へと舞い戻ると、旋回してチェルの方を睨み付ける。
チェルが屈んでいなかったら、爪でえぐられているところだったと分かり、彼はゾッとした。
「何で教えてくれねーんだッ!!」
「そんなもの気配で気づけ!馬鹿者が!」
チェルの怒鳴り声を一掃するカルムは、隣にいるライトに何かを告げると詠唱を始める。一方ライトはモンスターの前に出るとわざと目に付くように大きな動きをして、相手を挑発する。
ギエェェェ!!!
モンスターはライトの挑発に苛立ったのか耳を裂くような鳴き声を上げると、ライトに向かって急降下する。爪がライトを襲う寸前で、彼は転がって躱す。降りてきたところを反対側にいたチェルが攻撃を仕掛けるが、相手の方が早く急上昇して空へと逃げてしまう。上空でモンスターが一段と大きく羽ばたくと、無数の羽根の刃が2人へと降り注いだ。チェルが避けてしまうと、カルムに直撃してしまう。そう思ったチェルは前に躍り出て槍を回転させると、すべての羽根を叩き落とした。
『地に落ちよ!!』
カルムの魔法が完成し、力ある言葉とともに魔法を発動する。すると、飛んでいたモンスターが何か見えないものに押しつぶされるように、地面へと叩きつけられる。そこを狙うようにライトとチェルが攻撃をする。
「羽根を狙え!!」
カルムの叱咤が飛び、頭を狙っていた2人は慌ててカルムに習って同じ羽根を狙って攻撃する。だが、羽根を切り落とすことはできなかった。再びモンスターは空へと舞い戻ろうとして、その動きを止めた。カルムが一瞬何が起きたのか分からずに2人を見ると、チェルが槍を地面へと突き刺しモンスターの影を縫いとめていた。たった一つの武器を失ったチェルは、続けて何やら詠唱をしている。カルムとライトはこの好機を逃すものかと、モンスターの羽根を狙って再び攻撃をする。
そして、影縫いの魔法が切れる前に2人は羽根を切り落とすことに成功し、チェルは魔法を完成させていた。
『雷撃よ!』
チェルの言葉に中級魔法がモンスターを襲う。
羽根を失ったモンスターが倒れるのに、そう時間はかからなかった。
カルムはモンスターの一部を、灰になる前に特殊な魔道具の中へしまう。モンスターの討伐では本当に依頼内容のモンスターを倒したかを判断できるようにと、必ず専用の魔道具が支給されていた。それに、モンスターの一部を入れると、どういう原理なのかは分からないが灰にならず残るのだ。
「これ、どういう原理なんだろうな?」
「さあな。」
チェルがカルムの持つ袋を不思議そうに見ていると、カルムが自分を見ていることに気付く。
「なんだよ。」
「お前、魔法が使えたんだな。」
「当たり前だろっ!じゃなかったら、ウォータニンフの時の話はどうなるんだよっ?」
(※本編「13.霊獣 ウォルム」参照)
「魔力だけ持っているのかと・・・」
「そんな訳ねーだろっ!!」
本気でそう思っていたのだろう、カルムは驚いており、その後も帰る道すがらチェルに色々と質問をしたのだった。
カルムたちが街へと戻ってきたのは夕方。そのままの足でギルドに向かい、報酬を受け取ると、領主の屋敷へと戻ったのだった。