5.各々の役割
次の日、昼食の席に領主のトーティアの姿はなく、妻のイザベラさんの話だと、商売の取引で1週間は帰らないとのことだった。念のため、『後来の水晶』について聞いてみるが、イザベラさんは知らないようだった。
「こんな時に、トーティアさん居ないんだもんなぁ・・・参ったぜ」
「仕方ないよ。お仕事だっていうんだから。」
「三女のナーチスが絡んでるんじゃ、三姉妹に聞くわけにもいかねーしな。・・・ってか、本当なのか?」
チェルがソファに腰かける、ルーシーとティーナの方を振り向く。ティーナは頷き、ルーシーは紙に何かを書くとチェルに見せる。
”嘘なんかついてどーすんのよっ!”
「嘘だとは思ってねーけどよ。何かの間違いなんじゃないかと・・・悪い子には見えねーけど・・・」
「本当にあんた馬鹿ね。」
チェルの言葉に呆れて答えるのは、ルーシーの隣にいたイーリアだった。ルーシーにも同じような視線を向けられ、チェルはふて腐れてしまう。
「わざわざ、ルーシー達を呼び出しておいて、宝物庫に閉じ込めたんだ。計画的な犯行だろう。」
「でもどうしてだろ?」
カルムも呆れたようにチェルを見た。そこに、ライトが不思議そうな顔をカルムに向ける。
「何となく予想はつくが・・・」
「カルムがハッキリ言わないの珍しいね。」
ライトに言われると、カルムはチェルの方を見てため息をついて黙ってしまう。言わない方が良いと判断したのだろう。
「で、どうするよ?三姉妹に聞けないんじゃ、トーティアさんが帰ってくるまで待たなきゃいけないだろ?その間、ただここにいるってのもなぁ・・・」
チェルのぼやきにライトもうーん。と、唸って悩む。今はチェル達が使っている部屋に集まっている。そんな中、カルムは2人の話を聞いているのかいないのか、外套を羽織り出掛ける準備をひとり始める。
「カルム、どこに行くんだよ?」
「ギルドで依頼を受けてくる。所持金が心許ないからな。」
「おいおい、ひとりで行く気かよ。」
「お前達は、ルーシーとティーナと一緒にいてくれ。また、何かあると面倒だ。」
言って部屋を出ようとするカルムの外套を掴んで止めたのは、ルーシーだった。振り返るカルムは、ムッと睨み付ける小さな子供の姿をしたルーシーを見て2度目のため息をついた。
「お前達が来ても足手まといだ。」
カルムの言葉にソファに座っていたティーナが何故かビクッとなって身を小さくする。対してルーシーはぶんぶんと首を左右に振って、違うと否定する。
「1人じゃ、さすがに危ないって言いたいのよねー。」
イーリアがフォローしてくれ、ルーシーは縦に首を振る。
「だが、他に方法は・・・」
「私がいるじゃない。ルーシーとティーナは私が見るわよ。」
「良いのか?」
返ってきた言葉は、後ろにいたチェルからだった。振り返り、イーリアは頷く。
「だから、チェルとライトも、一緒にギルドの依頼を受けて来たら良いんじゃない?」
「足手まといだ。」
「おい、そりゃあないだろっ!?」
チェルが抗議するとカルムはフッと笑ってから、冗談だと言葉を続けた。あのカルムが冗談を言うようになったと、チェルはライトと顔を見合わせている。さっさと準備しろとカルムに叱咤されて、慌てて準備を始めたのだった。
男たちが出掛けて残された3人は、自分達の部屋へと戻ってきていた。
「さて、私たちはどうしようか?・・・って、ティーナどうしたの!?」
イーリアとルーシーはティーナの方を見てギョッとした。2人が驚いた理由は、ティーナの目から涙が溢れていたからだった。イーリアが理由を聞いても、ティーナはうつ向き涙を流すだけ。すると、ルーシーはイーリアだけに見えるように紙を渡した。
「なるほどね。・・・足手まといって言われたの気にしてるんだ。」
イーリアが言うとルーシーは慌てて彼女の服を引くと、首を左右に振ってダメだと伝えるが、イーリアは気にした様子もなく続ける。
「そりゃあ、魔法を使えない魔道師なんて足手まといも良いところよね。」
ルーシーが小さな手でイーリアを叩くがそれも無視される。ティーナの表情は見えなかった。
「でもさ、それでただ泣いて何もしなかったら、それまでじゃない?」
イーリアの言葉に、ルーシーは叩いていた手を止める。ティーナもまた顔を上げてイーリアを見た。
「今のあなたにも出きることを考えましょ?」
イーリアはティーナの頭をポンポンと軽く叩いて、彼女を元気付けるようにニッと笑うのだった。
「とは言ってもどうするかぁ・・・」
“図書館的な所ってないの?”
「あるわよ。」
“そこに行きたい!”
ルーシーから渡された紙を見て、イーリアはオッケーと言って出かける準備を始める。ルーシーはティーナの手を取ると、水晶のこと調べてみましょう!と、一緒に街へと出掛けるのだった。