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第8話 コンビニ

会社から帰る途中、真っ暗な夜道を歩いていると女子高生だろうか、前方を歩く制服を着た女の子の姿が常夜灯の明かりで照らされて見えた。


時刻は夜七時。

「こんな遅くに一人で……怖くないのかな」

俺はまったく関係ないその女の子の心配をしていた。


「男の俺でもちょっと気味が悪いってのに……」


と俺の足音に気付いたのか前を歩く女の子がちらっとこっちを振り返った。

そしてすぐに前に向き直ると早足になった。


あれ?

もしかして俺、警戒されてる……?


たまたま帰る方向が同じというだけでまったく他意はないのだが、もしかしたらマスクをしているせいで不審者だと思われたのかもしれないな。

俺はあえて少し歩くスピードを落とすと女の子から距離をとった。


しばらくすると女の子の姿は見えなくなる。



誰もいないことを確認して、

「……あと六日の内に悪い奴をみつけて殺さないと……」

俺は暗闇の中ひとりごちた。


殺人者は一週間以内に誰かを殺さないと死んでしまう。

あきらが言っていた言葉を信じるなら俺の命は残り六日だ。

確かめようにも自分の死でもってしか確かめるすべはないのだからやはりやるしかない。


善人を殺すわけにはいかないのでやるなら悪人だろう。

そう考えて今日一日外回りをしながら他人を観察してみたのだが、死がふさわしい悪人などそうそういるはずもなかった。

歩きたばこをしているおじさんや電車内でシルバーシートに座っている若者などは目についたが、何も殺すほどの悪人ではない。


「どうするかなぁ……」


考え込んでいるといつしかアパートの近くのコンビニの前まで来ていた。

俺は考えを一時中断し弁当目当てに明かりに誘われるようにコンビニへと入っていく。



すると、

「なっ、なんなんですかっ!」

レジに並んでいた女の子が俺を見るなり声を上げた。


「……え? 俺?」

「そ、そうですっ。わ、わたしのあとつけてきてましたよねっ!」

おびえながらそう言う女の子の顔をよく見ると、その子は隣に住む清水さんの娘の美紗ちゃんだった。


「いや、ちょ、ちょっと待って。誤解だって。俺だよ俺っ、隣に住んでる鬼束っ」

俺は慌ててマスクを外すと自分の顔を指差して美紗ちゃんに説明する。

他の客の見てる前で痴漢扱いは困る。


「引っ越しの時会ったでしょ、このコンビニに入ったのも偶然だからっ」

「お、鬼束さん……!?」

美紗ちゃんは目を丸くしてそれから全身の力が抜けたようにへな~っと床にへたり込んでしまった。


「鬼束さんだったんですか……わたしてっきり変態さんだと……」

「お客さん、大丈夫ですかっ? 警察に連絡しますかっ?」

男の店員が美紗ちゃんのもとに駆け寄ってくる。

店員と他の客の俺を見る目は不審者を見る目そのものだった。

勘弁してくれ……俺このコンビニの常連客だぞ。


「あっ、すみません大丈夫ですっ。大声出してすみませんでした、わたしの勘違いでした、すみませんっ」

美紗ちゃんは腰を抜かしたのか床にぺたんと座ったまま周りの人たちに頭を下げる。

「この人はわたしの知っている人ですから大丈夫ですっ」

「そ、そうですか……」


美紗ちゃんにそう言われ店員は納得しているのかいないのか、どっちつかずの表情のままレジカウンターの中に戻っていった。

客たちは美紗ちゃんの説明を聞いてやっと不審者を見る目をやめてくれた。


「ほら、立てる?」

こうなった責任の一端は俺にもありそうなので俺は美紗ちゃんに手を差し出す。


「あ、すみません……」

美紗ちゃんは俺の手をぎゅっと握るとゆっくり立ち上がった。

そして、

「さっきはごめんなさい。びっくりしちゃって」

深々と頭を下げた。


「マスクをしてた俺も悪いんだけどさ、びっくりしたのはこっちの方だよ」

あやうく痴漢として警察の厄介になるところだった。

殺人がバレてないのに痴漢で捕まるなんて情けなさすぎる。


「本当に本当にすみませんでしたっ」

「いや、もう別にいいんだけどね」


こっちが恐縮するほど美紗ちゃんは頭をこれでもかと下げるので、さすがに申し訳なくなり俺は話題を変えることにした。


「そういえば昨日は水族館に行ったんでしょ、楽しかった?」

「あ、はい。お母さんに聞いたんですよね。水族館すっごく楽しかったです」

「そう。イルカショーとかもあったの?」

「はい。雨が止んだのでお母さんと観れましたよ」

「そっか、それはよかったね」


さっきまでの沈んだ表情が嘘のように、美紗ちゃんは水族館の話題になると目をきらきらさせて俺を見上げてきた。


この子、見た目はしっかりしてそうだけど中身は案外子どもっぽいのかもしれない。

俺は無邪気に話す美紗ちゃんを見ながらそう感じていた。

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