第44話 団欒
小西和也を殺してから群馬の自宅に帰るとアパートの前で清水さん母娘と出くわした。
「鬼束さん、こんにちは」
「ああ、美紗ちゃんこんにちは」
「あら、ヤマトくんお出かけ?」
「はい。さっきまで仕事で東京に行っていました」
「そうなんだ~。新しい仕事順調そうみたいね」
清水さん母娘は俺が失業してしまったことを知ってそれをとても気にかけてくれていた。
だから清水さんも美紗ちゃんも俺の言葉を受けて嬉しそうな顔を見せた。
「二人は買い物ですか?」
「ううん、お昼ご飯を食べに行くところよ。あっそうだ、よかったらヤマトくんも一緒にどう?」
「そうですよ。鬼束さんも一緒に行きましょうよ」
二人が誘ってくる。
俺は瞬時に頭の中で考えを巡らせた。
殺人者の俺とあまり深く関わるのはこの母娘にとってよくないことなのではないかと。
この二人には幸せになってほしい。
だったら俺は距離をとるべきなのかもしれない。
そう結論付けて断ろうとした矢先、
「さっ、行きましょ鬼束さんっ」
美紗ちゃんが俺の腕に手を回した。
「え、ちょっと美紗ちゃんっ……」
美紗ちゃんは半ば強引に俺を連れて歩き出す。
助けを求めるように清水さんに目をやると、清水さんは可愛らしい小動物でも見るような眼差しで俺たちを見て微笑んでいた。
◇ ◇ ◇
近くのファミリーレストランに入った俺たちはそこで一時間半ほど同じ時間を過ごした。
会話の内容は美紗ちゃんの受験勉強のことや俺の新しい仕事のことなど。
二人は俺が殺人者であり毎週のように人を殺していることを知っているにもかかわらず、前と変わらず笑顔で接してくれていた。
食事も終わり席を立とうかという時、
「あ、ここはあたしにおごらせてね」
清水さんがテーブルの上に置かれた伝票を手に取る。
「え、そんな悪いですよ」
「いいのいいのっ。あたしたちが誘ったんだからこれくらいさせて」
太陽のような笑顔で返す清水さん。
俺は再度断ったのだが清水さんに押し切られる形で最後は結局ご馳走になることに。
ファミリーレストランをあとにした俺たちは徒歩でアパートへと帰る。
その道中、清水さん母娘は「あたしたちスーパーに寄ってから帰るからヤマトくんは先に帰ってて」と言った。
だが食事をおごってもらって何かお返しがしたかった俺は荷物持ちを買って出た。
「ほんとっ? いいのヤマトくん?」
「ええ。俺こう見えてかなり力あるんで沢山買っても大丈夫ですよ」
「お米とかも平気?」
「問題ないです」
レベルが13まで上がっている俺は一般男性の三、四倍の力がある。
米を持ち運ぶくらいわけはない。
◇ ◇ ◇
「ほんと助かっちゃうわ~」
「重くないですか? 鬼束さん」
「全然平気だよ」
俺は両手に米を抱えながら答える。
この日はスーパーの特売日だったらしく清水さんはかなりの量を買い込んだ。
手提げ袋二つ分の食料品とティッシュペーパーとトイレットペーパー、そして十キロの米を二袋。
「いつもは五キロのお米を一袋だけ買っているんだけど十キロの方が割安なのよね~」
「だからって二袋も買わなくてもいいのに」
「ヤマトくんが持ってくれるって言うんだから甘えてもいいでしょ」
「も~、お母さんってば」
それぞれ両手に荷物を持って歩く清水母娘。
俺はそんな二人の背中を眺めながらあとに続く。
「やっぱり男手があるといいわね~。あっ、ねぇヤマトくんって彼女いるの?」
清水さんは突然思い出したように振り返るとそんなことを訊いてきた。
「いえ、いないですけど」
「だったら美紗と付き合ってやってくれない? この娘、ヤマトくんのこと好きみたいだから」
「ち、ちょっとお母さんっ、何言ってるのよっ!」
「えーだって、美紗ったら晩ご飯の時いつもヤマトくんの話するじゃない」
「だ、だからって……」
美紗ちゃんは俺と目が合うと耳を赤くしてうつむいてしまう。
「それともこんなおばさんでよければあたしと付き合う?」
「え……?」
「な~んて、冗談冗談。ごめんねヤマトくん」
「は、はあ……」
こういう時冴木ならきっと面白おかしく返すのだろうが俺にはそんなアドリブ力はない。
自分のコミュニケーション能力の低さを恨めしく思いながら俺はただ苦笑いをすることに終始した。




