第106話 ダメージ無効化の呪文
「ダメージ無効化の呪文っていうんだけどね。それをさっきの二人にかければ二人はもう安全だよ」
「ダメージ無効化?」
「そう。文字通りどんなダメージもゼロにしちゃうっていう呪文さ」
ドヤ顔を見せるあきら。
「すごいじゃないかっ。そんな反則みたいな呪文があるのかっ?」
「うん、まあね。といってもこの呪文は自分にはかけられないから、僕は普段使うことは滅多にないんだけどさ」
あきらは続ける。
「消費MPは100で、持続時間は確認のしようがないからわからないけど多分一生だと思う」
「一生っ!? 一生無敵になれるのかっ?」
「僕の勘だけどね」
ダメージ無効化の呪文。
初めて耳にしたがおそろしく強力な防御呪文のようだ。
その呪文を清水さんと美紗ちゃんに施せれば確かに俺は安心できる。
「そのダメージ無効化の呪文、あきらは使えるんだよな?」
「もちろん使えるよ」
「じゃあ今すぐ二人にかけてあげてくれ。頼むっ」
「うん、それは全然いいんだけどね。その代わりヤマトさんにちょっと協力してほしいことがあるんだ」
とあきら。
交換条件か。
まあ、どんな内容だろうと俺の返事はすでに決まっているが。
「なんだ? なんでも言ってくれ」
俺が訊ねるとあきらは俺の目を見てこう答えた。
「【銀の流星群】っていうチームの殺人者全員を皆殺しにするの、手伝って」
◇ ◇ ◇
「【銀の流星群】?」
「そう」
「なんだ、そのチームに恨みでもあるのか?」
「うん、かなり恨んでる」
いつになく怒りをあらわにするあきら。
大切な人を殺されたとか、大事なものを奪われたとかだろうか。
「あいつら、僕のお気に入りだった旅館を破壊したんだ」
「え……旅館?」
「そうだよ、あいつら僕を殺そうと旅館ごと潰したんだよ。ひどいと思わない?」
あきらは怒りが収まらないと言った様子で眉間にしわを寄せる。
「あ、ああ。そうだな……そ、それで何人くらいの人が亡くなったんだ?」
「ん、別に誰も死んでないよ。その日泊まってたお客は僕一人だけだったし、従業員さんも軽い怪我で済んだみたいだから」
「そうなのか……あきら、お前何に怒ってるんだ?」
「何って、言ってるじゃん、お気に入りだった旅館を壊されたって」
「それだけ? 誰かを殺されたとかじゃなくて?」
「ちょっとヤマトさん、何言ってるのっ。あの旅館は世界に一つだけの旅館だったんだよっ。僕の憩いの場だったんだよっ。唯一僕が常宿にしていた大好きな旅館だったんだよっ」
あきらは椅子から立ち上がると興奮状態で俺に顔を近寄せてきた。
……なんか怖い。
「わかった、わかったから落ち着け。それで【銀の流星群】っていうチームの殺人者たちは何人くらいで、今はどこにいるんだ?」
俺はあきらをなだめつつ出来る限り優しく訊いてみる。
「え~っとねぇ、チームの大半は僕が殺したから残りは七人だね。僕から逃げようとしてるのか今は日本各地にばらばらに散らばってるよ」
とあきらは答えた。
あきらのことだからきっと、俺が知らないような呪文で相手の人数や位置を探ることが出来るのだろう。
「僕が北日本に散らばってるメンバーを殺るから、ヤマトさんは南日本をお願い。それでいい? なんなら逆でもいいけど」
「いや、構わないよ。あきらの好きでいいさ」
「連絡はLINEで取り合お。僕の教えるからヤマトさんのも教えてっ」
「おう、ちょっと待ってろ」
俺はズボンのポケットからスマホを取り出す。
「……これでよしっと」
「じゃあ早速二手にわかれようか、ヤマトさん」
「こら待て。清水さんと美紗ちゃんにダメージ無効化の呪文をかけるのが先だろ」
「あーそっか。忘れるところだったよ。じゃまずはお姉さんたちのとこに行こっか」
「ああ。しっかり頼むぞ」
こうして俺とあきらは隣の清水さん母娘のもとへ行き、ダメージ無効化の呪文を二人にかけさせてもらった。
はじめこそ戸惑っていた二人だったが、俺が丁寧に説明をすると二人ともこころよく受け入れてくれたのだった。
そしてアパートの前であきらと再び二人きりになる。
「なあ、あきら。ちょっと思いついたんだが、ダメージ無効化の呪文を俺にもかけてくれないか。そうすれば俺はかなり無敵の存在になれるだろ」
清水さんたちに呪文を施していた時、俺はこの考えに思い至った。
だが、
「それはどうだろう」
とあきらはあまり乗り気ではない様子。
「なんだ? 駄目か?」
「う~ん駄目っていうかね、実はこの呪文をかけられた相手はレベルが1になっちゃうみたいなんだよね」
肩をすくめて言う。
「え、レベル1……?」
「うん。だからどうだろう、相手には負けなくなるけど勝つことも出来なくなっちゃうんじゃないかなぁ」
「そ、そうか……それだとまずいな」
殺人者相手にレベル1ではとても戦えそうにない。
それではあきらとの約束が守れなくなってしまう。
「そういうことなら仕方ないか……諦めよう」
「うん。じゃあ【銀の流星群】のメンバーの情報は逐一LINEで知らせるから」
「ああ。そうしてくれ」
「あ、それと一応言っておくけど、ヤマトさん死なないでよ」
「……ああ。お前もな」
俺とあきらはお互い顔を見合ってお互いににやりと笑った。
そして殺人者たちを狩る旅へとそれぞれ出発するのだった。
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