第101話 休日
俺とメアリは次の殺人までまだしばらく時間的猶予があったので、三日ほど殺人依頼を休むことにした。
とは言ってもメアリは俺の部屋に毎日やってきては自分の部屋のようにくつろいでいくのだが。
今日も今日とてメアリは朝から俺の部屋に上がり込むと俺のベッドを我が物顔で占領していた。
俺はそんなメアリに無関心を決め込み、朝ご飯のトーストをかじりながらテレビをなんとなしにただボーっと眺めていた。
とそこでふととある人物のことを思い出す。
「あっそういえば、わたべみほ千里眼で見るのすっかり忘れてた」
わたべみほというのは以前偽名で殺人依頼をしてきた女で、それを指摘した途端逃げ出した顔と名前以外正体不明の女だった。
「あ~、あの人なぁ~。なんやったんやろなぁ」
「ちょっと覗いてみるか」
そう思い俺は「ンガリンセ」とつぶやいた。
だが――
「あれ? おかしいな。何も見えないぞ」
目を閉じてまぶたの裏を見るも真っ暗で何も映らない。
「わたべみほで合ってるはずなんだけどな……」
千里眼の呪文を使うには顔と名前が一致している必要があるがそれはクリアしているはずだった。
「こんなこと今までなかったんだけど、どうしてだ……?」
するとメアリがあくびをしながら、
「その人もう死んどるんとちゃう?」
口を動かす。
「死んでる?」
「そうやぁ。死んどったら呪文発動できひんかもしれへんで」
「なるほど……」
メアリの言葉にハッとなった俺はスマホを手に取るとわたべみほで検索をかけた。
「……ほんとだ。死んでるわ」
その結果、四日前に渡部美穂という女が腹部をめった刺しにされた状態で用水路から発見されたという記事をみつける。
四日前ということは俺たちと会った次の日か……?
「ヤマトお兄ちゃん、そんなことよりお腹すいたわぁ。何か食べさせてぇ」
「お前な、うち来る前にホテルでなんか食べてから来いよ。お前のせいでうちの冷蔵庫にはろくなもんが残ってないんだからな」
「お腹すいたぁ~!」
「まったく……ちょっとコンビニに行って何か食べ物買ってくるから。お前も来るか?」
「ん~ん、それまで寝とる」
メアリは俺のベッドの上で寝返りをうってからそう返した。
「じゃあ俺行ってくるけど、何か欲しいものあるか? ついでだから買ってきてやるよ」
「せやったらうちアイスがええ! 一番高いのっ」
「はいはい、わかったよ」
これまでにメアリのおかげで四百万円以上も稼がせてもらってるんだ。
アイスくらいおごってやるさ。
俺は財布をズボンのポケットにねじ込むとアパートを出た。
◇ ◇ ◇
コンビニに着くとお客はまばらだった。
今は平日の午前八時三十分。登校途中や出勤途中の人たちの姿はほとんど見られない。
俺と同じく暇を待て余したようなラフな恰好をした若者が数人、漫画雑誌を立ち読みしているだけだ。
俺は彼らの後ろを通り過ぎてアイスの置かれたコーナーへと足を進める。
「一番高いアイスって……これかな?」
俺は四百五十円もするソフトクリームをみつけたのでそれを手にした。
せっかくだからと自分の分も合わせて二つ手に取るとカゴに入れる。
その後適当にパンやおにぎりもいくつか見繕って会計を済ませると俺はコンビニをあとにした。
◇ ◇ ◇
「メアリの奴、さすがに四百五十円のソフトクリームには驚くかな……うん、美味しいなこれ」
俺はアパートに帰る道すがら買ったばかりのソフトクリームを食べてみた。
値段が張るだけあってこれまで食べたどのソフトクリームよりも美味しい。
「ただいまっと」
ドアを開け部屋に入る俺。
寝てしまっているのだろう、メアリの返事はない。
テーブルにコンビニ袋を置くとソフトクリームを二つ持って近付く。
そしてベッドに横になっているメアリに、
「おい、一番高いアイス買ってきてやったぞ」
俺は声をかける。
「……」
「ん? おい、起きろメアリ」
メアリはいつでもどこでも寝ることが出来る体質らしくそれはうらやましい限りなのだが、一旦深い眠りに落ちるとてこでも起きないところがあった。
「メアリ、勘弁してくれ。アイス買ってきたんだぞ、おーい」
俺は片方のソフトクリームをそっとメアリの横顔に押し当てた。
「……」
だが反応はない。
「メアリ?」
とここでメアリから寝息が聞こえてこないことに気付く。
俺はうつ伏せになっているメアリを「おーい」と言いながら反転させた。
……っ!?
俺はあまりの衝撃に持っていたソフトクリームを床に落としてしまう。
「メアリっ!!」
仰向けにしたメアリのお腹には無数の刺し傷があって血が溢れ出ていたのだった。
さらによく見ると床には血を拭いた後のような痕跡もある。
「な、なんだよ。メアリっ、何があったっ? い、いや、ちょっと待ってろ、今すぐ救急車呼ぶからっ!」
俺は急いでスマホを取り出そうとすると、
「……ぅ……う、し、ろ……」
うつろな目をしたメアリが小さく口を動かし何事かを発した。
その言葉を俺が理解するより一瞬早く、
「うわあぁぁぁーっ!!」
「ぐはっ……!?」
俺は何者かによって背後から刃物で背中を一突きにされた。
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