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最後の贄

 振り向くと、狂二が手招きしている。


「偶然ってあるんだね。ちょうど、見かけたから。」

 飛鳥の運転する車の中で、助手席の狂二が説明した。

「こいつがどうしても気になるっていうんで鏡ヶ池にいくことにしたんだ。」

「どのみち疎開しなきゃ危ないからね。」


 珠緒はこの二人は、何かの縁があるかもしれないと感じた。

「九十九神って信じる?」

 珠緒の突然の問いに

「昔の人は信じてたんでしょ。肯定する材料もないけど否定する材料もない。」

 飛鳥は科学者らしい答えだ。

「もったいないと同じじゃないかな。」

 狂二も信仰心はないようだ。


「この世界と別の世界がくっついてひとつになろうとしているというのは?」

「プレーン空間が重なったってことかな?」

 飛鳥の答えに今度は珠緒がついていけなかった。

「2つのシャボン玉のような世界がくっつこうとしているの。その衝撃で日本は真っ二つになるわ。それを避けようと戦っている人たちがいる。だけど力が足りないの。だから九十九神様にお願いしにいく。」

「おばさんは、巫女かなにかなの?」

 狂二は恐る恐る尋ねた。もしかしたら、ちょっとやばい人かもと思った。

「贄といって、厄災から村を守ってもらうために九十九神様のお世話をしていた。」

 にわかには信じがたい話ではあったが、二人とも彼女が嘘をついているとも思えなかった。

「私が、最後のその生き残り。」


 三人は青森に到着した。そこにはすでに啓鎮が待っていた。彼は、母の姿を見ると一礼して、岩木山に向かった。日本中がパニックで神社には参拝客の姿はない。珠緒は仮安置してある九十九神たちのもとに急いだ。

「よく来たね。待っておったよ。」

 道具たちは、小刻みに震えながら、まるで喜んでいるかのようだった。

「地震の揺れかな?」

 飛鳥と狂二には地震の小刻みな揺れが道具たちを振動させているようにしか見えなかった。


 夜の帳が下りるころ、異界の魔物が降りてくる。

 無垢な力は、悪魔か神か。

 鎮守の森での異界の宴。

 ひとつ、ふたつ、みっつ。

 今日も、消えてく命によって、われらの命がつながれる。


 5年に一度のにえの日に、村の娘は旅に出る。

 無垢な娘は天使か邪気か。

 鎮守の森では、大騒ぎ。

 よっつ、いつつと指折り数え。

 今年も、旅立つ命によって、われらの里は永らえる。

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