パニック
マグニチュード6クラスの地震が、数日おきに観測されるようになった。だれもが、巨大地震が間近に迫っていると感じていた。金持ちは日本を離れようとした。しかし、いまだコロリの影響で、簡単には渡航できない状況にあった。
「地中のガスを取り出せば、圧力が下り地震もおきません。ガスは売れば儲けがでます。」
うさんくさい連中が金を集め始めた。もとは、異界の膨張による空間の歪が岩盤を破壊しているのだ。人間の力でどうなるものでもない。
「うちは、総理大臣に『桜をめでる会』に招待されたこともある一流企業ですよ。信用してください。」
普段なら、こういって近づいてくる連中に人々は十分警戒しているだろうが、パニック状態では簡単にだまされる。さらに総理がらみの事件ということで、いまや官邸の門番・阿吽と揶揄されるようになった警察と検察も及び腰になっている。
もっともそんな連中も、儲けた金で豪遊し、コロリにかかっていては、笑い話にもならない。
「総理、国民に何かいうことは?」
「危機感を持って注視しています。」
首相は一言、発しただけで官邸に消えた。やがてこの状況に国会を開かないのは、ひそかに首相が入院したからだとのうわさが湧きあがり、そんな国のトップに健康を理由に政権を投げ出すんじゃないかという憶測が広がった。
人々は関東と関西から逃げ出し始めた。行き先は北海道と九州。本州に巨大地震が起これば陸続きは危険だ。かといって、小さい島では津波の危険もある。各地で小競り合いが起こった。
珠緒は混乱に乗じて青森に向かった。夫はすでに死別している。息子も立派になった。彼女にはもう思い残すことは無かった。
「新幹線は地震に影響で減便しているうえに、予約で一杯です。」
珠緒は東京で足止めにあった。
「おばさん、青森に行くんだろ。」
どこかで聞いたことのある声が、途方に暮れた珠緒の背後から聞こえた。




