決断
「このままでは、婆どもは地上に出るなり、くたばっちまうぞ。」
案内役の狸たちは頭を抱えた。
「予定よりずっと前の時代にいくしかあるまい。」
綾たちの老化は彼等の予想を超えて、あまりにも早かった。アヤカシである狸には人間の寿命を把握することはできなかった。
「仕方があるまい。啓徳殿には使いを出そう。」
狸たちあ新たな穴を掘り出した。幸い、留まっている間は歳をとることはない。時間は十分ある。
やがて、一行は地上へと出た。眼下には湖があった。やがて小さな神社の境内にたどり着いた。
「青森の白神山地にある鏡ヶ池じゃ。昭和という時代の終わりごろじゃろ。」
世の中はバブルの真っ盛り。だれも老人達のことは気にも留めない。
「この時代なら、紛れて生きていけよう。」
50年前の封印よりずっと前である。この時代はまだ白神山地にも観光客はきていない。老婆と稚児の集団は山の中でひっそりと暮らすことにした。国籍もないので万一の場合も病院に行くことはできない。自然の薬草をつみ、いわゆる民間療法で生きていくしかなかった。
やがて、ひとり、ふたりと寿命が尽きるに従い、九十九神の世話もままならなくなった。そこで、綾たちは、九十九神を岩木山を臨む鏡ヶ池へと沈めた。ここを彼等の安住の地とした。
一行の中に小さな赤子がいた。異界では珠と呼ばれていたが、おそらく生まれてすぐに贄となったのであろう。本来の贄が急逝したのか、はたまた意図的だったのかは不明だった。少しばかり大きくなるのを待って綾は珠を連れて、この地を離れた。この珠が珠緒である。幼くして一生籍もない身で隠れてかわいそうと、出生届けを出してくれる仮親を探した。籍を持たない綾と養子縁組はできないので、籍は仮親のもとにあったが、実質は綾が面倒を見た。バブルの時代、出生届けのできない赤子や、身寄りのない子は決してめずらしくなかった。




