コロリ
「コロリの次は地震かよ。」
「まったく、日本はどうなっちまうんだか。」
連続地震の少し前、世界中に謎の感染症が広まった。一年で死者数百万人という、前代未聞の病は、『新型コロリ』と名付けられた。人々は動物が感染源だとして『死んだら狐驢狸』と呼んだ。
「なんでも、年寄りはコロリと逝くらしいじゃないか。」
「年金が破綻しそうだから、ちょうどいいんじゃないか。」
「日本人は重症化しにくいらしいよ。」
「マスクしてれば安全だって。」
「それならプロレスは安全だな。」
謎のウィルスに怯えながらも、戻りつつあった人々の暮らしは、いつおこるかもしれない地震と火山の噴火に再び戦々恐々とした日々を送ることとなった。
「大地の怒りじゃ。病は使い魔による警告。地震は大地の踊り。噴火は祝砲。正しく恐れるのじゃ。やがてよみがえる神のために祈るのじゃ。」
怪しげな旅の僧侶が托鉢片手に街に現れては、そういい残して去っていく。SNSによって噂はたちまち広がった。
顔を黒い布で隠した彼等は、日本のあちこちに現れた。そして目撃者も日を追って増えていった。
「怪しい奴だ。俺等の縄張りに入ってきたのが運の尽きだ。」
ある日、一人の僧侶が街中でいく人かの若者に取り囲まれた。彼等の手には金属バットや鉄パイプなど思い思いの武器が握られている。先発の5名が層の周囲からじりじりと間合いを詰めてきた。そして、あと一メートルと今にも手の届きそうになった時、層は手に持った独鈷で鉢を軽く叩いた。
「ぐわん、ぐわん」
鉢の音は徐々に大きくなった。その音に、若者たちは平衡感覚を奪われ次々にその場に座り込んでいった。彼等が我に返った時には、すでに怪層は忽然と消え去った後だった。
当初はただの都市伝説だとバカにしていた人々も、地震が頻発するに従い、次第に恐怖を感じたのだろう。占いに走るものや、宗教にすがるものが後をたたなかった。
「コロリで死ぬか、災害で死ぬか。どっちにしてもこの国は終わりだ。」
老人の中には、国外へ移住するものも出始めた。