狂二
「それ、啓徳様のお迎えの準備じゃ。」
関東からやってきた狸たちは、境内の目立たぬところに穴を掘りだした。
珠緒は東京に戻ると、国会図書館へ向かった。白神のこと、マタギのことなど少しでも調べようと思ったのだ。
「あ、あのときのおばさん。」
歴史書の棚をうろついていると、男の声がした。振り返ると群馬で出会った飛鳥がいた。すぐに狂二も美術書の棚からやってきた。
「伊香保の子たちね。」
「で、何かわかった?」
狂二は目を輝かせて尋ねた。
「白神山地にいったんだけど、いまひとつ鏡がねえ。」
珠緒の浮かない返事に、
「あのあたりまでは鏡が伝わらなかったようだね。」
珠緒が写した写真を見ながら、狂二は何かを描き始めた。そこには太古の人々が湖に映った岩木山を拝む光景が広がっていた。人々は手に様々なもの持っていた。おそらくそれは彼等にはそれぞれに大切なものなのだろう。
「馬が重要だった時代には山間部の北関東は都市だったに違いない。でも、毛の国の住人は大和に追い立てられ東北から北海道へと逃げていった。大和は農耕民族だ。農耕に適さない北関東は衰退していった。そしてそれより北の東北も古墳が造れるほどの力はなかった。古墳時代が急速に消えたのは中央集権によって国へ納める生産品が増え、古墳を作るだけの余力が各地になくなっていったのではないか。」
飛鳥は自分の考えを珠緒に話した。
「それって、消費税増税で遊ぶお金もなくなるってことよね。」
珠緒の言葉に、飛鳥は大笑いをしそうになったが、あたりを見て図書館だからと必死にこらえた。
「そ、そうだね。」
狂二の描く絵の中に複数の僧侶がいた。
「神社なのに僧侶?」
一同はいぶかった。
「見えたんだ。」
珠緒は自分の息子のことを話した。
「息子が僧侶の修行中なの。君たちを見ていると息子を思い出すわ。」
「昔のことのようにも思えるけど、現代のようにも感じる。きっと恐ろしいことが起きる。」
狂二の言葉に、珠緒は真実を話すべきか悩んだ。もし若者たちがこの戦いに必要なら、運命が導いてくれるはず。そう思って、あえて言葉をのみこんだ。




