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九十九の子守唄

「そりゃ、九十九の子守唄じゃ。」


 老婆の話をまとめると、かつて山奥に九十九の里という小さな集落があった。女の子が生まれると、親はその歌を子守として聞かせてたという。


「このあたりは、災害の多い地域だったが、その里だけは災いは降りかからなかったのじゃ。それというのも、皆が九十九神を信じておって、数年ごとに若い娘を贄としてささげておったということじゃ。もっとも何百年も昔の話じゃが。それでも里がなくなるまでは家畜を贄にする風習が続いていたという噂はあったがの。」


 里は廃墟となったが、今でも鎮守の森は残っているという。村長につれられて、すでに使われなくなった山道を進むと、少し開けた森の中に小さな祠の跡があった。すでに朽ちて土台だけとなっている。


 老婆の話では、昔ここには神の世界に通じる入り口があったらしい。しかし、今ではすっかり荒れ果て、見る影もなかった。

 50年前、おばあの病気を治してくれた妖狐の玉緒のことを思い出しながら、ぼんやりと木々を見上げていた。


「無事に玉博に会えたのかしら。」

 啓徳のもとに預けた、わが子啓鎮に思いをはせていると、なぜか強い恐怖がわいてきた。寂しさと不安が混ざったような感情。

「初めてじゃない。」

 珠緒は直感的にそう思った。しかし、彼女はここに自ら来たこともない。つれて来られた覚えもない。なのにここから離れたいという衝動に見舞われた。


 珠緒は、結局、何の手がかりも得られずに自宅へ戻っていった。

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