フォッサマグナ
関東ならびに中部地方に次々と震度4から5の地震が相次いだ。
「南海トラフとの関係は?」
記者の質問に、気象庁からの発表は
「関連は無いと思われます。津波の心配もありません。一連の地震の震源は中央地溝帯、フォッサマグナに属する火山性のものと思われます。巨大地震よりも今後、火山の噴火に気をつけてください。」
というものだった。
そのころ、狐の群れが飛騨の山中を駆け抜けていった。時を同じくして、銀毛を先頭に狸の一族が富士の樹海に消えていった。
「若、大変です。奴の妖力が一気に強くなっています。」
年老いた狐が山奥の丸い石に向かって小声で告げた。
「このままでは、封印が解けてしまいます。」
別の若い狸が口早に叫ぶ。その声は甲高く、悲痛に満ちていた。
しかし、その石はピクリとも動かなかった。石の中央には棒が刺さっていた。先端には丸い金属の輪がいくつもぶら下がってる。それは、錆びて朽ち果てていたが、僧侶の錫杖のようだった。
一方狸たちは、樹海の中を駆け回っていたが、大きな声がすると、一目散に引き返していった。結局、目的のものは見つけられなかったようだった。
「随分と外が騒がしいな。」
長野と群馬の境の山奥にひっそりと建つ荒れ寺では、年老いた僧と若い僧が暮らしてた。
「猪が暴れているのでしょう。」
若い僧は夕飯の支度をしながら答えた。
「いや、この世のものではない気配がする。」
年老いた僧侶が外の茂みを睨みながらゆっくりと静かに口を開いた。
「そうですか?私には暗くて何も見えませんが。」
若者も茂みの奥をじっと見つめた。
「異界のものは、目で見えるとは限らん。」
「どうせ私は、師匠と違って、異界で暮らしたことはありませんから。」
若い僧は、出来たおかゆを椀に盛り付けると、薄い沢庵と湯でた青菜とともに老僧に差し出した。
「今夜は旅の支度をしておけ。」
運ばれた食事を口にしながら、老人は赤みを帯びた満月を見つめた。