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9.休息

今回はクールなミチルも思わずキャラを崩してしまう甘々ぶり。あのミチルが……乙女です(やっちまったぜぇぇええ!)。それからお知らせなのですが、明日から大学が始まるので、今までのように更新できなくなると思います。しかし、なるだけ早く更新しますので、皆様どうかミチルと私を見捨てずにここにお越し下さいね。それでは前書きが長くなりましたが、本編へどうぞ。

 目を開けたら、僕はヒューの家らしき部屋に横たえられていた。誰かの声が聞こえる。


「……か? よろしい……」


「……そう。ええ」


 意識が戻りきってないから、会話の内容がわからない……ただ確実なのは、ヒューと僕の知らない女が会話しているらしいことだ。

 体は動く。上半身を起こしてみると、左胸に激しい痛みを感じる。


「く……!」


 痛みで意識がハッキリしてきた。


「彼女、起きたんじゃない?」


 知らない女がこちらを見ている。誰だろう。


「ミチル、まだ起きない方が良い!」


 再びベッドに崩れ落ちそうになるのを、ヒューに抱き留められた。


「くっ……離せっ」


「ミチル……!」


 寄せられた眉、切なげな目元。顔が顔だけに、様になっていて、僕は何故か赤面してしまった。急いで目をそらす。


「ミチル?」


「うるさ……くっ!」


「大きな声を出したらダメだ。傷が開く」


「うわ止めろ僕を見るな恥曝しだ本当見るな馬鹿!」


「はいはい、そこまで」


 突然、声が降ってきた。先程の女だ。


「誰?」


 栗色の髪は自由に広がっていて、緩くカールしている。目元は甘く、目は夕日色。


「こんにちは、ミチル・オオサワ。私は動けない貴女のかわりに仕事をしてあげるジャン・リー。コード・ネームは“トワイライト”」


 夕日色の目で上から見られると、見下された気分になる。僕よりも年上だろうか。


「悪く思わないで、ミチル。君は完治してなくても仕事に出るから、死にかねない。今日から完治するまで僕が監視するから」


 何だって? そ、そんなの!


「嫌だ!」


 大体、あの女何だ? 嫌み言いやがって、僕の嫌いなタイプだ! しかもソイツに僕の溜まった仕事をさせるなんて!


「私だって嫌よ。仕事が増えるんだから」


 夕日色の目が細まる。僕を子供扱いしているらしい。


「じゃあ僕が仕事する!」


「ミチル・オオサワ。雇い主の言い付けは守るべきよ。シェン、何でこんなに扱いにくい子を雇ったの? それにあまり使えなさそう」


「君に言われたくない!」


「それは違うな、ジャン。ミチルはウチの事務所一番の腕だよ」


「ヒュー!」


「わかった? ミチル。君は優秀なんだよ。だから早く完治させるんだ」


 うわ、何だこの嬉しさ。何この赤面。僕、母上を殺してしまって、おかしくなったのかな。いや、あれは僕が殺せて良かった。後悔は……してるけど、でも知らない誰か(例えばそこに立っているトワイライトさんとか、ジャン・リーさんとか。)に殺されるより、全然良い。


「わかった、わかった。全くシェンも彼女が好きね。良いわ、やるから。それじゃ、ミチル・オオサワ、また今度」


「え? あ、待て! ジャン・リー! 僕はまだ……」


 ジャン・リーは手をヒラヒラとさせて部屋を出て行った。


「ミチル」


「もう何だよ抱き締めるな離れろ恥ずかしいな!」


 ヒューの顔が近付いて来る。な、何だ?


「おやすみ」


 Chu

 額に唇。


「いやー! 何するんだよ!」


「おやすみのキス。何だい、ミチル。挨拶だろ?」


「僕の故郷じゃ挨拶じゃない!」


「そうなの? じゃ、どういう意味?」


「……」


 コイツ絶対楽しんでる。わざと聞いてるんだ。キスの意味なんて、挨拶じゃなきゃ1つしかないじゃないか。


「ミチル?」


 ち、近い。顔が近いって。何か別の事を考えないと!


「あっ、そういえば! 彼女、ジャン・リーが君の事を“シェン”と呼んでいたけど」


「あぁ、僕のファースト・ネームなんだ」


「え」


 僕は知らないのに? 何で? あれ、何で、別に良いじゃないか。今日の僕本当におかしい。


「ミチル、ヤキモチか?」


「ちがっ」


「嬉しいな。俺の事気にしてくれてるんだ」


「う、違うし。というか、シェンって“俺”って言うときあるよね。何で?」


 あ、ヤバい。何だその笑顔。


「シェンって呼んでくれるんだ」


「質問の答えになってないよ、シェン。それに僕は好意で君をシェンと呼ぶわけじゃあない。ヒュー家の者は分家も含めて沢山いるじゃないか」


「うん、そうだね。でも嬉しいよ俺は。元々はね、俺は僕なんて言ってなかったんだ。でも当主の言い付けで」


「僕と一緒だ」


「そうだろうね。ミチルは女性だから。さあ、早く寝なさい、傷に障るよ」


「眠くない」


「ミチル」


 あれ、確かシェンは僕に憎まれたいはずだよね。ならどうしてそんなに優しい声で呼ぶの?


「困惑しているね、ミチル。簡単な事さ。僕はミチルに憎まれたいけれど、憎んではいない」


 ああそうか。シェンが“僕”と言うときは、必ず謎解きみたいに僕にヒントをくれるとき。


「それもヒントなの?」


「まぁね。何のヒントかわかってるの?」


「うーんと、何て言えば良いかわかんないけど、君の正体とか、狙い?」


「わかってるんだ」


 話しつつも、押し倒されるような形でベッドに寝かされる。


「だからさっきから顔が近いってば」


「ミチル」


 またあの目だ。今更だけど、僕はこの目に弱いらしい。惚けて見せて、赤面しそうなのを誤魔化す。


「何」


「キスしていい?」


「なっ」


 耳元に囁かれた言葉に驚愕する前に唇が押し当てられる。


「んー!」


 あーファーストキスが自分を憎めとか言い出す意味わかんない雇い主だなんて最低だもう嫁に行けないああ殺し屋が嫁なんか行けるはずないかでもハリーよりはましかシェンの方が美形だってそんな問題じゃないかとか、色々な事が頭を駆け巡った。

 どの位キスしていたのかわからない。ようやく解放されて酸素の少なさに咳き込む。


「ゴホゴホ、な、に、してんの……」


 意味わかんない。本当、意図が読めない。


「僕がミチルになにかする目的・意図はただ1つ」


 あーまたか。でも何かその理由引っかかるんだよね。


「完治するまで逃がさないから。よろしくね、ミチル」


 気が重いって。


 シェンが微笑む。最近僕は、コイツを見ると本当に。




 ミチルが何かを言う前に、その唇を自分のそれで塞いでやる。見開かれた青い目は、世界中のどのダイヤモンドよりも美しい、とあのボティガードの男も言っていた。


「な、に、してんの?」


 めったに表情を変えない彼女が赤面しているらしい。もし、それが俺に向けられるものだとしたら、俺はもしかして、望みを捨てない方が良いのかも知れない。そう考えて、自分が自然に微笑んでいることに気付く。

 彼女が俺の腕の中にいる。キスをしてわかったが、むせていた所を見ると、ファーストキスだったようだ。

 彼女の左脇役に触れた。切りつけられたそこにまだ痛みが記憶されているのだろうか、少しだけ彼女の体が跳ねた。


「俺のミチルに傷を付けるなんて」


 思わず呟いてしまったことに、自分でも驚く。前々から本音が出てしまうことはあったが、ちょっと今回は口が滑りすぎた。


「え?」


 ミチルに怪しまれている。悟られてはいけない。今は、まだ。いつか訪れると信じているその時が来るまでは、俺の本当の狙いを知られてはいけない。ただ、いつかは知って欲しい。今はまだ、その時に相応しくはないのだ。


「僕の大切な商売道具兼玩具が使い物にならないんじゃあね」


 精一杯の憎まれ口を叩いて、誤魔化す。眼下には、彼女の呆れた顔。


「……」


「あ。不機嫌だ?」


「わからない」


 自分が不機嫌かもわからないなんて、彼女は何て不安定なんだろう。


「君の考えはわからないよ、シェン。急に優しい目をしたり、キスをしてきたりそのくせ憎まれ口を叩いて自分を憎めって言うんだもん」


 あぁ、彼女は俺が考えているよりもずっと頭の回転がはやいみたいだ。


「そこまできたなら、その疑問の答えはすぐそこだ。お願いだから眠って、ミチル」


「嫌だ」


「傷に障る」


「本当はそこじゃないだろ?」


 何て洞察力が鋭い。驚愕だ。


「何を言ってる?」


 今じゃないんだ。今じゃ。ミチルにはもっと俺を憎ませなくては。


「違う?」


「全くもって的外れだね。早く傷治さないと実力後肢で眠らせるけど」


 彼女の顔が青ざめた。俺だって気が重いんだ、こんな調子で君の傷が完治するまで自宅に置いとくなんてさ。




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