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15.憎悪

 頭が真っ白なまま、僕は部屋に帰った。シェンにキスされてしまった。この前もされたけれど、意味が違うキスだった、と思う。だから不覚にもこうして、僕は真っ白になっている。

 ドレッサーを覗き、唇をなぞる。ここに、さっきまでシェンが触れていた。

「……」

 鏡の奥に、まるで殺し屋なんて顔をしていない、僕がいた。この顔はそう、女の顔だ。こんな顔じゃ、仕事なんてできなかっただろうな。

「ダッサ……」

 今の僕なら、ルナさんには勝てないだろうな、と妖精の姿を思い浮かべてみる。僕は何故か眠たくなり、そのままベッドに倒れ込んだ。

 深い闇に落ちていく。ああ、やっとhomeに帰れる。そう、暗闇こそが僕の居場所なんだ。王子様ルックの上司と恋愛ごっこしているような人間じゃない。僕は闇の世界の住人だ。いつだって心は真っ暗だったはずだ。

「さて、ミチル。仕事だ」

「うん」

 そうだ、僕はあの日誓ったんだ。誰よりも冷たい、美しい闇になる。心はなくて良い。そんなものいらない。愛なんて信じない。

「殺る気に満ち溢れているね」

「君のキスで目が覚めた。ありがとう」

 首を傾げたシェンは僕が自分を憎む気になったと勘違いしたらしい。

「そうか。間に合って良かった」

「憎まないよ」

「え、じゃあ……?」

「僕、不覚にも殺し屋として大切な事を忘れかけていたみたい」

「……ミチル。でもいいや、今回は絶対君が僕を憎むようになるはずだ」

「ふぅん」

 あまり関心を示さない僕にシェンはあの不敵な笑みを浮かべた。

「ミチル、父親に会いたくないか?」

「父上?」

「そう、君の父上」

「え、だってあの人は」

 母上が死体を持っていたはずだ。

「あれは君の父上じゃない」

「なに、言って」

 あまりの衝撃に言葉が出ない。あのミイラ化した死体は父上じゃない……?

「彼、ミチルの父上はオオサワ家の当主なんかじゃない。オオサワ氏は義理の父親だろう」

「確かに、そうだ」

 だとしたら、シェンの言う父上って。

「そう、今回のターゲットはミチル、君の本当の父親だよ。彼はイギリス人だったんだ」

 僕は思い出した。母上、僕の青い目が父上の目と同じ色だって言っていた。

「いったいどうやって?」

「ミチルの父親は男爵だとたんだ」

「男爵……?」

 イギリスの貴族と言うこと? じゃあ母上は米人に汚された訳じゃなくて?

「そう、君は男爵の隠し子だった」

「なっ!」

 そんな、そんなの信じられない。だとしたら、それが真実なら、辻褄が合う。僕の義理の父上がもし、このことを何らかの方法で知ったとしたら。確か、カンナギとか言う情報屋を雇っていた。

「ち、父上に会える?」

 脈が早くなり、ワクワクする。でもそれはシェンの次の言葉で掻き消された。

「ターゲットとして」

 頭の中がまるで墨汁を垂らしたみたいに真っ黒になった。ああヤバい。何かが崩れ落ちてしまう。今まで崩れまいとしていた何かが。

「シェン、僕が命令に逆らえない質だと言うこと、わかっているよね」

「わかっているさ」

 その言葉で全ては崩壊した。僕は、シェン・チャールズ・ヒューを憎いと思った。激しい憎悪。それが奴の狙いだとわかっていても、憎いと思った。


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