12.兄弟
スランプ……です。
頑張ります。
「シェンは素直じゃないわねぇ」
ロンドンへ帰る飛行機の中、トワイライトさんが突然僕がシェンに雇われた経緯を聞きたいと言うから、今まで全てのことを話た。
「素直?」
そういう問題でもない気がするけど。
「昔からそうなのよ」
「昔?」
「あら、言ってなかったかしら? 私とシェンは同じヒュー家の分家の出身なの。だからこぉんなに小さい頃から互いに顔見知りなのよ」
トワイライトさんが手で高さを表した。ちょうど僕の腰くらい。大体4、5歳かな。
「分家って、確かシェンは当主だよね」
「10年前くらいに、本家が誰かさんに滅ぼされたからね」
「……」
自分が原因でした。僕は基本的に殺した人間のことは忘れる主義だからなぁ。
そんなこんなでロンドンに帰って来た。
「人使い荒いなぁ」
激務から帰って早々、呼び出しだ。シェンの書斎は相変わらず豪勢だった。
「あは、ごめんミチル、早速だ。でも今回は殺さなくていいかも」
「“かも”? 言い切れないわけ? しかも僕、殺しの仕事じゃなかったらさ、必要なくない?」
シェンのニッコリな笑顔が僕に選択権は存在しないことを物語っているのだけれど。
「何、反抗期かな? 俺の夕闇さんは」
「反抗期だっ!」
嫌なものは嫌だからね。でも結局こうなる。
「ま、選択権なんてないけどね〜」
「やっぱりー!」
ま、いつものノリだ。ああ、僕の自由はどこへ? ミタニが雇い主の頃は……やっぱり、なかったです。
「しょうがないよ。君はどこに行っても優秀な殺し屋だろうしね。そうそう、今回はね、俺も同伴するよ」
シェンは最近、僕の前ではよく“俺”を使うようになった。
「僕何すればいいの」
「んーと、ボディガードと対決?」
何で。
「何でまた」
「俺の弟に会うから」
え、何言ってるか全然わかんない。助けて、もう嫌だコイツ!
「何で意味わからんわちゃんと説明しろ馬鹿張り倒すよあっ今押し倒すの間違いとかほざきやがったな殺してほしいのかな?」
シェンは何がおかしいのか、腹を押さえてクックックと笑っている。
「いや、殺して、ハッ欲しくはないよ」
まだ笑いが止まっていない。全く訳がわからないけれど、シェンのことは、彼自身を観察するよりも、トワイライトさんみたいな周囲の人間から情報を聞き出した方がわかると、最近学習した。
「でいつ? どこで?」
「今から、下の応接間で」
溜め息が出た。全く僕を殺す気か。
と言うわけで、僕とシェンは応接間で客人を待っていた。高級そうな絨毯が敷かれ、天井が無駄に高い。金の装飾も見える。シェンの家って豪華だけど、ここは一段と豪勢だ。
「あの、弟いたんだ?」
「いたよ」
うん、どんな奴かな。やっぱり王子様ルック? でもって、意味不明な自由人とか。
「ミチル今変な想像したでしょ」
「……別に」
「嘘。ミチルが嘘をつくときは必ずすぐ答えずに、間をおくんだ。知ってた?」
「えっ、そうなの?」
そんなことを話していると、応接間の兎に角無駄に大きな扉がノックされた。
「ごきげんよう、兄上」
ボディガードらしき人物にドアを開けられ、入って来たのは、銀髪の美しい青年だった。
「久しぶり、シュナ」
シュナと呼ばれた青年とシェンを見比べる。同じ色の目をしているけれど、こちらは王子様ルックなんかじゃない。どっちかと言うと、王子様をお守りする騎士だ。それに部下のようにくっついてるボディガードは、白髪で目が青く、妖精みたいな見た目をしている。
「兄上、先日は僕の事務所の一番の稼ぎ頭のハリーを殺してくれてありがとう」
ん? ハリーってあの、髭野郎のこと?
「ぇぇええ!? ハリーの上司さん?」
「そ。シュナ・クリスティン・ヒュー、よろしく。君がかの“ダスク”?」
「はい」
僕はどうやら、業界では有名らしい。ま、興味ないけど。
白髪の少女が口を開いた。
「私はシュナ様が経営なさっておられる事務所のボディガード、ルノアールです。皆様には“ルナ”と呼ばれております」
「よろしく。君が僕と対決?」
「はい」
ルナさんは、言うと同時に銃を構えた。もう殺る気だ。
「うん、ミチルのエンジンもかかったみたいだし、さっそく始めようか」
シェンは笑顔だ。全くどれ程自信があるのだろう。
「僕死ぬかもよ?」
ハリーは僕に情があったから、あるいみ隙だらけだった。でも、ルナさんは、違う。
「死ぬことなんて許されないってわかってる、ミチル」
シェンが笑顔で言った。