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11.夕日

皆様毎回お待たせしてしまい、大変申し訳ないです。今回は更新に4日もかかってしまいました。ですが、なるだけ3日くらいで更新したいとは思っていますし、努力もいたしますので、なにぶん我慢してやって下され。では、長い前書きは良いから早く本編見せろ! というお声も聞こえるのでこの辺で。

 緩く巻いた栗色の毛、夕日色の瞳。


「で。今日の仕事、余程大仕事なんだ?」


「そのようねぇ」


 シェンが頷く。


「その通り」


 僕の傷は完璧に塞がった。今日が復活して初の仕事。でもそれにしては大仕事だ。


「事務所が誇るトップツーを組ませるなんてさ」


 そう。どうやら今回は、ジャン・リーもとい、コード・ネーム:トワイライトさんと僕、ダスクの夕方コンビの晴れ舞台のようだ。


「面倒くさいわね、ダスクだけじゃ駄目なの?」


 トワイライトさんは溜め息をついて、栗色の髪をクルクルといじっている。

 最近わかったけど、トワイライトさんは極度の面倒くさがりらしい。僕の代わりに仕事がたくさん入ったときは、怪我人の僕に八つ当たりして嫌みを言って来たくらいだ。


「はぁ」


 その扱いに、シェンでも苦戦してしまうときがあるらしい。頭を抱えて溜め息をついている。す、凄い。あの世界中のどの人間よりも神経が図太いシェンに溜め息をつかせてる。


「あ〜ら、シェン・チャールズ・ヒュー。貴方進歩がないわねぇ。大体弱気な癖して殺し屋の事務所なんてやってるのがいけないわ。そんなんじゃ、寿命縮むわよ?」


「わかってるよ、僕の夕日さん。いつもご忠告ありがとう。……ミチル、どうしたの?」


「えっと……」


 シェンが、もともと弱気? じゃあ僕の前でのあの態度は何? トワイライトさんには色んな表情見せるのかな。


「ダスク、困惑してるわね。当然かもね。彼、貴女の前では人が変わったみたいだもの」


「トワイライト!」


 人が変わったみたい? じゃ、僕が知ってるシェンは何?


「あらあら、フリーズしちゃダメよ、ダスク。大丈夫、シェンは貴女のものなのだから。あら、聞こえてないようね。ダスク、ダスク?」


「へ?」


「あら可愛い。貴女ってクールなイメージがあるけれど、端々に可愛い仕草が覗くのよねぇ」


 可愛い、ってどんな状態ですかね、トワイライトさん。


「はぁ」


「まぁ。無自覚ならなお可愛いわ」


 僕にはトワイライトさんが言っていることが良くわからなかったけれど、なんとなく誉めているようだったので反論はしなかった。


「それじゃあダスク、ミッション開始」


「オーケイ。じゃあ現地集合で」


 シェンの家のシャワーを借りた。





 そして今僕とトワイライトさんの前にある教会が、ベネチアの最も有名な教会、サン・マルコ大聖堂だ。サン・マルコ寺院とも言うけれど、大司教座があるから、大聖堂と言う方が正しい。ただ、昔から大司教座があったわけじゃなくて、約30年前にできたと言う、ちょっと珍しい大聖堂である。

 と言うか僕、外国での仕事多くない? ロンドンから飛行機って毎回疲れるんだよね。


「ターゲットは?」


 左耳のマイクロ・フォンに尋ねる。最新型のコイツはトワイライトさんは持っていない。


「と言うか、誰も持っちゃいないわ。そうね、やっぱりシェンの趣味かしら。あの人、貴女の仕事見るの、好きなのよ」


 らしい。で本題に戻るけど。


「今回はそこの司祭様を殺して欲しいんだ」


 あぁ、それで今回は僕達を組ませたんだ。相手が教会なら、僕やトワイライトさん1人じゃ、到底仕事にもならない。それにしても。


「うわ、罰当たり」


「大丈夫。僕達イギリス人はプロテスタントだから」


「宗派の問題じゃあないと思うけど」


「そうかな? でも僕達にとって司祭様は牧師様と言う職業だし、先生と呼ぶでしょ。全然違うよ」


「うーん。ま、殺し屋が神様信じちゃいけないか」


「その通りさ、ミチル」


 マイクロ・フォンの向こうのシェンが不敵な笑みを浮かべている気がした。

 そう。僕は別に自分が殺し屋として数多の人や、母上を殺したことを反省する気はない。何故ならそれが僕が生きて行くための唯一の術だったから。地獄に墜ちたって、炎に焼かれたって良い。寧ろ焼かれてなくなってしまった方が、楽になれるかもしれないのだから。


「ではミチル、頑張って」


「うん」


 マイクロ・フォンが切れた。トワイライトさんにも仕事の内容を伝える。


「まぁ。愉しそうじゃない?」


 どうやら、トワイライトさんが殺る気を出したらしい。しかし、変なところで出すなぁ。


「さ、ダスク。さっさと済ませて早く帰るわよ!」


 あぁ。なんだそういうことね。面倒くさいから早く済ませたくて殺る気が出たのか。


「うん。礼拝者になりすまして入ろう」


「わかった。ところで貴女、その格好で入るの?」


 皆さんご存じの通り、僕は季節違いの黒いピーコートに真っ赤なマフラー、加えてギンガムチェックのロングスカートを自分への戒めとして着ている。でも別にトワイライトさんにそれを教える義理はないと思うんだ。


「トワイライトさん、僕が“ダスク”と名付けられた理由、知ってるよね? それにトワイライトさんだって、夕日色のベアドレスは派手だと思うよ?」


 トワイライトさんは髪をかきあげて溜め息をついた。


「はぁ。はいはいわかった、わかった。理由は知らないけれど、こだわりを否定されたくないのは皆同じね」


 僕とトワイライトさんは、仲間だとバレちゃいけないから、トワイライトさんが教会に入った10分後に僕が入った。



 司式が始まる。聖書の朗読が行われだした。司式者である司祭様は、教会のステージ上ド真ん中にいるため、迂闊に手を出せない。教会、しかも大聖堂で司祭様を殺すなんて、大罪になる。なんとかバレずにこの場を去る方法を考えなくちゃ。それでも、ピンチのときは、トワイライトさんに援護を頼むしかないだろう。



 そこまで考えて、思考を停止した。ダメだ。こんな確実性の無さ過ぎる計画は身を滅ぼすに決まってる。




to:トワイライト


作戦変更

この作戦は確実性に欠けている

身を滅ぼす可能性があるんだ

司式が終わったら、僕が司祭様に悩みを聞いてもらう振りをするから、君は上手くどこかに隠れていて




 マイクロ・フォンを操作してメールをトワイライトさんのマイクロ・オーエスに送信。(これは、やっぱりトワイライトさんの左耳に着いているんだけど、僕のマイクロ・フォンみたいに通信はできない)すぐにオーケイの返信があった。さすが実力者。確実性に欠けている計画がどれだけ恐ろしいか良くわかっている。

 司式は何事もなく、実にスムーズに進行した。ま、これは当たり前なのだけれど。



 そして今僕は、司式の礼拝者が全ていなくなった教会の聖壇の前で司祭様と対面していた。


「子羊よ、貴女は何か迷っておられますね」


 聖壇に飾られるキリストの像に祈りを捧げていた司祭様が突然こちらを振り返った。


「はい」


 僕は今、相談者なので素直に頷いておく。


「僕は何に迷っているのですか」


 でも次の瞬間、思ったことが口に出てしまった。ヤバい。でも司祭様は何も言わずに、慈悲深い微笑みを浮かべる。


「そのように警戒しなくてもよろしいのです」


「……」


「貴女は今のご自身を好きではありませんね」


「……!」


「ならば、早く変わらなければ。もっとご自身の気持ちに正直になって下さい。そして、辛いならば遠慮無く泣きなさい」


 何を言っているんだろう。とんだ大的外れだ。自分の事を好きな奴なんてめったにいないのだから。


「貴女は、人間がどんなに自分の事が嫌いでも心の大切な部分では、ちゃんと自分を好きでいることを知っていますか。貴女だって人間でしょう」


 あぁ、司祭様。それは違いますよ。


「僕は人間じゃあない」


 まただ。顔の力が抜けていく。そうだ、この瞬間だ。この瞬間の僕は人間とは思えない程冷たい表情をしているんだ。そしてこれこそが本当の僕の姿なんだ。


「僕はずっと前から奈落の底にいます。僕は闇の住人なんです」


 司祭様の優しさに溢れた目が見開かれた。


「貴女は……貴女ほど心が真っ暗な人は、はじめて見ました」


「ありがとう」


 司祭様が近づいてきた。そのまま大きな腕で優しく包まれる。


バン


 ズルズルと司祭様が崩れ落ちた。トワイライトさんだ。


「囮役お疲れ様、ダスク。さっそくだけど早く離脱するわよ。教会の銃声を聞いて、警察が知らない顔をするわけがないわ」


「わかった」


「ダスク、と、言うのか、君は……裏口を使いなさい」


 胸を撃たれた司祭様が、口から血を垂れ流しながら僕を見ていた。


「……」


「大丈夫。私は貴女方を憎みはしない。ただ、貴女にはもっと生きて欲しい。もっとご自身を好きになれるまで……」


 司祭様はそこで息絶えた。僕のコートには血がベッタリと付いていて少し重かったけれど、司祭様の言った裏口から上手く逃げ出せた。


 ただ、僕は帰り着くまで、自分をもっと好きになるという事がどういう事なのかを、ずっと考えていた。




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