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最強格闘家になろうシリーズ  作者: カカカカカ
真・最強格闘家になろう 第一部「最強強奪編」
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第二十一話「不死身の男」

炎山のタックルを加賀は読んでいた。自分の腰に激突する炎山の顔面に膝を合わせる。

 メキメキと音が鳴り、炎山が吹き飛んだ。

 が、その刹那、今度は前田が大振りの右ストレートを加賀の顔面に打ち込んでいく。

 タイミングはバッチリだ。

 プロレスラーとして、数多のタッグ戦を経験してきた前田は複数戦において相手が嫌がるタイミングが手に取る様に分かる。

 今回も、炎山のタックルを切り落とした一瞬の隙を狙ってのパンチであった。

 しかし、加賀はこれも読んでいた。首を微かに動かすだけですんでのところでかわす。

 加賀が読めなかったのは、前田の狙いである。前田の拳は微かに軌道を修正して、加賀のシャツの襟元を掴む事であった。

 襟元を掴んだ瞬間、前田は狂気の笑みを浮かべた。

 

 捕まえた♡


口には出さなかったが、前田は心の中でそう言った。こうなればもう終わりだ。


 前田はぐっと加賀を引っ張り、そのまま彼の胴回りに両手で抱きつき、そのまま持ち上げた。そして、万力の力でしぼり上げる。

 加賀の骨が軋む音が周りに響かんばかりの締め上げであった。

 プロレス技で言うベアハッグである。

 胴を締め上げることで肋骨と内臓にダメージを与え、更に相手を持ち上げる事で相手の体重も利用して締め上げをきつくする技である。



「今だ!!炎山!ボコ…」


ボコれ!!!そう前田は言いたかった。完璧に加賀を拘束した。めったうちにするチャンスは今しかない。経験値の浅い炎山は指示してやらねば動かない可能性がある。そして、それ以上に加賀に炎山の存在を意識させる事で、胴回りを固めている筋肉を少しでも緩めさせたいと言う思惑があった。


 しかし、ボコれ!!と最後まで会えなかった。加賀の人差し指が前田の鼻の穴に根元まで突っ込まれていたからである。

 エグい、非人道的な技である。だからこそ効く。加賀は涼しい顔をしていた。

 前田の鼻に激痛が走る。鼻元から鼓膜が破けるくらい、キーンと言う轟音が脳内に轟いていた。鼻血が滝のように流れ出す。

 普通の人間なら正気を保っていることすら出来ない怪我である。

 前田は笑った。もちろん、痛くない訳がない。出来るならばその場に倒れ込んで顔を押さえて叫び倒したい。

 しかし、前田は笑いながら、更に締め付けを強くする。加賀はならばと鼻に入れた人差し指を折り曲げ、鼻骨に引っ掛けて、メリメリと前田の鼻を引きちぎり始めた。



 それでも、前田は笑いながら締め付ける。

 前田ヴァギナ。人呼んで『不死身の男』である。



 その由来は今を遡る事、12年前である。

 マリ・ナツキをアントキノが完全に破壊したが為に、寿プロレスは世界中の格闘家から対戦の指名を受けることとなった。

 ほとんどが名を売りたい無名の格闘家であったが、しかし、超大物が打倒寿プロレスを掲げた。ホリス・クライシーである。

 権威ある総合格闘技の大会UFBの初代チャンピオンである。『クラシルやん柔術』の使い手であり、チャンピオンになって初会見での『俺の兄貴は俺の十倍強い』と言う発言は世間で注目され、一大総合格闘技ブームと一大クライシー一族ブームを巻き起こした男であった。

 彼が、アントキノ猪狩を対戦相手として指名したのであった。しかし、寿プロレスの返答は


『社長が出るまでもない。中堅レスラー前田ヴァギナで十分』であった。


 これには寿側とクライシー側の思惑があっての事であった。

 アントキノとクライシーの世紀の対決で興行を組むよりも、その前座戦を組み、クライシーがアントキノの懐刀である前田を撃破する事により、アントキノとクライシーの間で因縁とドラマが生まれ、より盛り上がるだけでなく、試合数も稼げて、その分売り上げも多くなる。

 つまりは八百長を一回噛ませる事で大儲けしてそれを山分けする事が寿とクライシー側で決定していたのであった。

 

 1ラウンド46秒、オモプラッタで前田がタップ。


それが両者の描いた図である。


 だから前田もセメントマッチ(真剣勝負)なんてするつもりは一切なかった。

 バッチリやられて、それで儲けさせてもらおう。その程度にしか思っていなかった。


 状況が変わったのは試合一週間前だった。

 ホイス・クライシーがファイトマネーの増額を寿プロレスに要求。

 拒めば、母国ブラジルに即刻帰国するとの事であった。

 

 その日のうちに前田はアントキノの社長室に呼ばれた。


 「で、どうしやした?クライシーの件」

前田が聞く。

 「飲んだよ。今帰られちゃまずいからな」

「だけど、相手の条件を飲んだとあったら、俺たち、同業者から舐められやすぜ」

「だから、相手の条件を飲む代わりに、こちらも条件をひとつ提示した。『前田、お前とホイスの試合をセメントマッチにすること』。それが条件だ」

「へぇ、だけど、いいんすか?俺、ブラジルの坊ちゃんを壊しちゃうかもしれませんぜ?」

「もちろん、それは困る。その後、俺ともやるんだからな。だから、条件に更にこう付け加えた。『尚、前田から攻撃することは一切ない』」

「はぁ、これはまた、一方が手を出さないセメントマッチって…これとんちみたいな話ですね」

「いいか、前田」

「はい…?」


「絶対に負けるな、お前はホイスの攻撃全てを受け切って、ホイスと引き分けろ。俺たちを舐めた罰として負けよりも屈辱的な、向こう10年間、日本に足を踏み入れられないような、自分のこれまでの努力が全て無駄だと思えるような、死の間際まで寿の名前に震え続けるような、そんな引き分けをホイスにプレゼントしてやれ」


その言葉を聞いて、前田は嬉しそうに笑った。


 試合当日、本当に前田は手を出さなかった。身長185センチ、体重100キロのホイス・クライシーの打撃を全て真正面から受け止めた。

 血と肉でドロドロになった顔で前田は笑った。笑いながらこう言った。


 「ヒットミー、ヒットミー、もっと殴れよ、ブラジル青年」


青ざめた顔ではホイスは審判を見る。

 審判は止める様子はない。審判は何が起ころうと試合を止めないよう、寿に買収されていたのだ。1万人を超える観衆の声援も怒声も、全てはホイスの耳には入ってなかった。この化け物を、早く退治しないと…


 そう思い、更に打撃を重ねる。しかし、効かない。ならばと飛びつき膝十字固めを前田に食らわせる。

 想像と打って変わって、前田は素直に倒れ込み、ホイスは股間に前田の腕を挟み込み、締め上げる事に成功したのであった。

 思い切り、締め上げていく。流石に審判が止まるだろうと、ホイスは審判の方を見る。しかし、審判は一向に動く気配がない。


 いいのか?いいんだな…わかったよ…オーケー、そう言う試合なんだな。これはなら、ねじり折ってやる。


 バキッッッ…と嫌な音が会場に響き渡った。ホイスが前田の腕を折ったのである。

 ホイスは前田の顔を覗き込む。


 前田はまだ笑っていた。そして、折られていない方の手をそっと、誰にもバレないように、静かに、ホイスの股間まで持っていくと、ホイスの睾丸をねじり上げた。

 ガガガ ッッッと獣の様な声を上げて、ホイスは立ち上がり、股間を押さえて飛び跳ねた。

 

 「はは、痛がりなんだな、あんた」


前田が涼しい顔で立ち上がった。折れ曲がった腕がなんともミスマッチな冷静な表情だった。

 痛みは怒りに変わり、ホイスはお返しに、と鋭い蹴りが飛び上がり、前田の股間に蹴りを叩き込んだ。

 が、それでも、前田は倒れないし、表情を変えない。

 

 「ダメだな。お前、運悪いよ、とっくの昔に右のキンタマは潰れてんの。うちの社長に潰されちまってね…昔。そっちに当たっちゃったね。だからね、痛くないの」


そう言って、ホイスに笑いかける。無論、ホイスに日本語は伝わらない。しかし、どう言う内容なのかは伝わった。痛くないのだとこの男は言っている。

 ホイスは恐怖した。もういい、もうこの男とは戦いたくない。

 残りの試合時間、ホイスはただ気力のない、試合が終わるまでの時間稼ぎのパンチを打ち続けた。観客は今見た事がなんなのか理解できずにいた。攻撃しない前田、一方的に攻め、途中でやる気を無くしたホイス。


 この試合は十数年間もネット上で考察され続ける程の格闘技七不思議の一つとなった。

 そして、この試合が元でついたあだ名が

  『不死身の男』である。


 前田ヴァギナにもちゃんと痛覚はある。しかし、異常な、最早狂気とも言える、気合と決意でそれを無視する能力に異常に長けているのである。

 だから、加賀に鼻に指を突っ込まれようが、鼻を千切られようが耐える事はできる。無論、痛い、死ぬほど痛い。しかし、常軌を逸した精神力で耐える事は出来るのだ。


 ならばと、加賀は指を引き抜き、代わりにその人差し指のいく先を、目に定めた。

 いくら前田でも目に指を突き立てられて、耐えれるものなのか、分からない、前田自身にもわからない。

 だからこそ、前田は燃えた。


 上等!!!来やがれ!!!


 すっと、加賀が指を突っ込もうとした瞬間である。狙いが大きくそれる。

 炎山が加賀を後ろから思い切り蹴りつけたからだ。背面の大きな筋肉ではなく、炎山は足の爪先で、思い切り加賀の肛門を蹴った。

 もしも、爪先が肛門に入り込めば、肛門は裂け、大怪我を負う。今考えうる炎山が繰り出せる一番エグい技であった。

 しかし、武芸百般を納める加賀八明である。当然の様に肛門括約筋も鍛え上げている。

 一度の強烈な蹴り程度では肛門は裂けない。

 だからこそ、炎山は何度も蹴り上げた。

 

 いいぞ、炎山。殺せ、やっちまえ


 前田は心の中でそう叫んだ。


 炎山がそれを見たのは、5度目の蹴りを加賀の肛門に叩き込んだ時である。


 巨大なダンプカーが三人のいる狭い小道に突っ込んできたのである。

 両端の壁をエグり、削りながらダンプは3人に突っ込んでくる。

 そして、運転席に乗っているのは矢吹晴男であった。


 「さぁ、ようやく2対2のイーブンになったな」


前田の腕の中で加賀は前田に笑いかけた。

 この日、初めて、前田の頬に汗が流れ落ちた。

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