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最強格闘家になろうシリーズ  作者: カカカカカ
真・最強格闘家になろう 第一部「最強強奪編」
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第十九話「桜庭数也 対 豊田一光 決着」

 「どんだけ~」


 豊田一光は感嘆の声をあげた。

 この男は幾度立ち上がるのか、不死身ではないのか。

 そんな思いが胸に去来した。そして、それと同時に感謝していた。誰に?外ならぬ戦いの神にだ。

 神よ、感謝いたします。このような男を私の前に遣わしてくれて。

 血に塗れても、尚立ち上がるた桜庭を豊田は愛おしく思った。


 豊田一光は飽きていた。常に勝ち続けることに。

 物心ついた時から身体能力で自分よりも抜きんでた人間が周りにはいなかった。

 どんなスポーツをしてもすぐ一番になってしまう。そんな苦戦することにも苦戦する日々に飽きていた。

 転機が訪れたのは高校生の頃だ。授業でやった柔道。それで体育教師になすすべもなく投げ飛ばされたのだ。

 人生初の苦戦。その日、豊田は柔道部の門を叩いた。

 しかし、柔道もすぐに豊田に敵うものはいなくなってしまった。

 高校3年生の頃には国体選手に選ばれた。

 オリンピックに出たとき、彼は予告KOならぬ、予告一本をマスコミの前で宣言した。

 全ての試合を大外刈りで決めると。そして、予告通り、豊田は大外刈りで勝利を重ね、金メダルに輝いた。4人目の講道館の鬼と言われ始めたのはその頃からである。

 しかし、豊田の胸にあったのは勝利の甘美な余韻ではなく虚しさであった。勝って当たり前、常勝の憂い。苦戦することにすら苦戦する日々。

 だから、乂門が現れたときには心が躍った。世間には知られていない強者達がいるのだと。しかし、彼らと相対する前に、加賀流が乂門をぶち倒してしまった。それからである。豊田が加賀流に固執し始めたのは。

 最強、なにするものぞ。その一心で加賀八明を追いかけていた。その過程で出会ったこの桜庭と言う男。

 この男は、豊田の常勝の憂いを吹き飛ばしてくれた。血が湧き、肉が躍る喜びを豊田は全身に感じていた。感謝しかなかった。だからこそ、


 「あなた、名前は?」

 「寿プロレス…桜庭数也」

 「数也きゅん…あなたのこと好きよ、だからこそ…だからこそ、次の技で死なないでね」


 そう言うと、豊田はもろ手を挙げて桜庭に襲い掛かった。桜庭の襟元を右手で、右手を左手で捕まえたと同時に、桜庭の右足を右足で蹴り上げた。

 桜庭の体が宙に舞う。豊田が選んだのは大外刈りであった。柔道の基本技にして、豊田がもっとも得意とし、信頼している技だ。その技術は神域に達していた。

 全ての動きに無駄がなく、それは正に芸術であった。

 

 体が宙で半回転し、豊田の剛力で地面に叩きつけられるその刹那、桜庭の脳裏に浮かんだのはこれまでの人生であった。死を感じ取った肉体が桜庭に見せた幻影である。


 目立つ少年ではなかった。平均的な成績、平均的な身体能力、平凡な少年であった。

 そんな少年に事件が訪れる。小学5年生の頃だ。

 テレビ放映された、寿プロレスの社長にしてエースのアントキノ猪狩とボクシングヘビー級統一王者、マリ・ナツキとの世紀の一戦である。

 試合が始まると同時に、マリ・ナツキの右ストレートがアントキノの顔面に直撃した。続けざまにボディ、アッパー、1.2のコンビネーションが閃光のようにアントキノの体に叩きこまれていく。しかし、アントキノは動じなかった。それどころか、顔に笑みを浮かべていた。その笑みにマリがたじろぐ。その一瞬の隙をついて、アントキノは弓なりに体を反り返らせ、ナックルアローをマリの顔面に叩きこんだのであった。

 その瞬間、糸が切れたように倒れるマリ、テレビ越しにも分かる、観客の熱狂。降り注ぐ歓声を一身に受け止め、右手を空高くつき上げるアントキノ。血みどろの顔面に不敵な笑みを浮かべていた。

 説明不要のカッコよさであった。桜庭少年はしばらく放心状態で動くことが出来なかった。

 強いとはここまでかっこいいのか、強いとはここまで美しいのか、強いとはここまで人を引き付けるのか。プロレスはここまで凄いのか。

 気が付いた時には細くて小さな手を床について、腕立て伏せをしていた。

 体が小さく震えた。その細い腕は全身を支えるには頼りなく、何回もしない間に床の上にだいのじに寝ころんでいた。

 強くなるとはこれほどまでに大変なのか。努力の人、桜庭数也の人生初の強くなる鍛錬であった。そして、桜庭の進路はこの時、決まった。

 親に頼み込んで家から自転車で3時間もかかるレスリング道場に通い始めた。そしてすぐに自分には才能がないことにも気が付いた。

 周りの少年達と比べて、自分の上達速度があまりにも遅い。スパーリングでは2歳も年下の少年に転がされる始末であった。

 桜庭は無口だった為に、道場に通う少年達からは馬鹿にされた。「カズヤくん、いつ辞めるの」「才能ないんだから辞めた方がいいよ」「女子と一緒に練習したら、それでも負けちゃうかもね」

 それでも桜庭はやめなかった。桜庭には明確な目標があったからだ。

 稀代の大プロレスラーアントニオ猪狩になる。

 馬鹿にされようが、どれだけ歩みが遅かろうが、努力し続けている限り、毎日、ほんの少しずつアントキノに近づいている。そう思うと体が震えるほど嬉しいのだ。

 それだけが桜庭の支えだった。 


 中学生になっても身長はあまり伸びなかったし、レスリングでは小学生に負ける始末だった。それでも辞めなかった。

 中学二年生の頃、自分のことを馬鹿にしていた少年達は受験勉強の為、いっせいに道場をやめ、同年代の塾生は自分一人になった。それでも辞めなかった。

 中学三年生の頃、意地悪な先輩に練習中、顔面の骨が折れるくらい強烈な投げを食らわされた。その先輩はレスリング国体選手であった為にお咎めはなかった。それでも辞めなかった。

 高校一年生の頃、試合に出て、ぼろ負けした。相手は高校からレスリングを始めた自分よりも大柄な男だった。それでも辞めなかった。 

 高校二年生の頃、アルバイト代を溜めてジム通いも始めた。身長に恵まれなかった自分をせめて大きくするためだった。レスリングとジムに通う為に、朝は新聞配達。夜は工場でバイトした。遊ぶ時間なんてなかった。それでも辞めなかった。

 高校三年生の頃、周りに桜庭に勝てるレスリング選手はいなくなった。彼よりも上手い選手はいくらでもいた。才能のある選手もいくらでもいた。大きい選手もいくらでもいた。しかし、桜庭ほど努力した人間はいなかった。

 桜庭和也、18歳の春に寿プロレスの門を叩く。

 一発で入門テストに合格する。しかし、天下の寿プロレスは化け物の集まりだった。アントキノ猪狩を始め、カリスマナンバーワンの棚伏、剛腕の前田ヴァギナ、そして天才炎山キヨシ。彼らに追いつくために、入門後も血の滲む努力をした。

 楽しかった。夢にまで見た寿プロレスでの練習の日々は楽しかった。まったく苦にならなかった。俺の人生はプロレスでできている。プロレスがあったから今の俺がいる。


ありがとうプロレス。だから負けられない。


 大外刈りで地面に叩きつけた時、豊田の手にはいつもくる確かな勝利の手ごたえがなかった。

 桜庭が叩きつけられる際に、自分の頭から地面に落ち、頭を軸にブリッジをして持ちこたえていたからだ。

 ブリッジ、怪我をしないようにと、桜庭が初めて教えられた練習方法だった。

 以降、何千回?いや何万回?いや何億回繰り返しただろうか。

 その全身の筋肉は桜庭の危機に対して、刷り込まれた動作を自然とやってのけていたのであった。

 桜庭の体が持ち上がる。豊田は徐々に押し込まれて、その上体が上がっていく。

 豊田は桜庭のブリッジを見た時、その美しさに見とれてしまった。

 技ともいえない基本動作。しかし、それが雄弁に桜庭の人生を語っていた。

 一体、これまでどれほどの努力があったのか。それを思うと、豊田は涙すら出そうだった。この男とはさっき会ったばかりだ。なのに、ここまでいろんなことを語りかけてきてくれる。なんて男なの。。。惚れそう!!!


 豊田は掴んでいた手を放し、桜庭の胸を思い切り突き飛ばした。

 そして、バックステップを踏み、桜庭と距離をとる。

 

 二人は再び、向き合う。

 

 と同時に、豊田の体がぐらりと傾いた。先ほどの後頭部への一撃が効いているのだ。

 

 「一旦、今日は引き分けってことにしておいてあげる」

 「逃げるのか?」

 桜庭が息絶え絶えになりながら言う。

 「私も、結構ダメージあるみたい。これ以上続けたら、命をかけることになるわ。あたし、こんなとこで死ぬなんてやだもーん、それに」

 「それに・・・?」

 「それに、あなた見てたら無性に練習したくなっちゃったの。こんなのいつぶりかしら。ときめいたわ。ねえ、私が死ぬほど練習して、今よりももっと強くなった時、もう一度踊ってくださらない?」

 「寿プロレスはいついかなる時も、逃げない。来たいときにくればいい」

 「ああん、そんなこと言われたら濡れちゃう。なんだか、加賀とかどーでもよくなって来ちゃったわ。あたし、帰るね、またね、桜庭きゅん」

 

 豊田はそう言って、踵を返し、歩き去っていった。

 残された桜庭は歩くことが出来なかった。

  

 前田さん。言われた通り時間稼ぎました。炎山。約束通り、今向かうぞ。

 

 しかし、足は前に出ない。力が入らない。

 

 桜庭は立ったまま気を失った。

 


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