第七十話 「俺たちの明日」
対抗戦から1年が経った。
日本は乂門により荒らされていたのが嘘のように復興し、人々は日常へと戻っていった。
とある地方都市のビル壁面にある大型液晶モニタでは、とあるニュースが流されていた。
宇宙人にさらわれていた、吉岡清一郎(34)と山口・ヴィクトロヴィッチ・タッカーシー(25)が山中で見つかったとの事だった。
2人は命に別状はないが、ひどく混乱しているとの事だった。
ニュースが終わり、広告が始まる。
世界的なシンガー、スティーピーワンダーがサングラスをかけて笑顔で踊っている。彼は胴着を着て、道場にいるようだ。
「ニホンヲスクッタカガハチメイカラカクトウギヲオソワロウ!!!」
そう言うとサムズアップしてニッコリと笑った。
『加賀八明道場!!!入門者募集中!!!』
と言う文字が浮かび上がる。
ところ変わって、ここはとある地方都市の駅前。巨大なビルが立ち並ぶ中に、一際大きなビルがある。
ビルの屋上には『加賀八明道場』の文字が踊っている。
「声出せぇ!!!」
黒ずくめの男が道場の中で叫んでいる。
この男、シャツもズボンも靴も、そしておそらくは下着まで、真っ黒な衣装で身を包んでいた。
その男の目の前には、ざっと見ても50人近い男達が等間隔に並び、正拳突きを繰り出している。
乂門を打ち破った加賀八明は英雄として祭り上げられ、それに便乗した八明は入会費100万円、月謝30万円で道場を立ち上げた。
なんとこれが大成功。門下生100人を超える巨大組織となった。
「安め!!!10分休憩」
加賀の一言で皆姿勢を崩しガヤガヤと雑談を始めた。
「先生!!!」
中学生くらいの塾生が加賀に声をかけてきた。
「ここで修行していれば、矢吹晴男さんみたいになれますか!?」
塾生は純粋なつぶらな目で加賀を見つめる。
「なれるさ、そうなる為にも、君には月謝60万円のスペシャルコースを紹介しよう」
やったーと塾生はジャンプして喜んだ。
全く、あの野郎、どこに行きやがった?
広告塔として利用しようと思ってたのに…
加賀は心の中で毒づく。
乂門戦後、矢吹晴男はまた新たな戦いを求め何処かへと旅立っていった。
ならばその弟子、真島浩高はと言うと…
とあるボクシングジム。そこに少年が1人駆け込んできた。
サンドバッグを殴っていた青年がトレーニングを止めて少年を見つめる。
「俺、強くなりたいんです…強く…」
少年が来ている学ランはボロボロだった。そして、顔は傷だらけで血と彼の涙で濡れていた。
その姿を見ただけで、真島浩高は全てを察した。
「なれるさ…世界最強にだってね…」
真島はそう言って笑った。
さて、今頃、世界最強の格闘家はどこにいることやら…と真島は思った。
ここは、とある街の暗い路地裏。
2人の男が向かい合っている。
「名を名乗れ…」
胴着を着た恰幅のいい男が呟く。
それを聞いた男が笑う。
「俺の名前は矢吹晴男。世界最強の格闘家だ」




