第六十八話「最終奥義サイコダイブ」
乂門により拉致された真島浩高。
目が覚めると、彼は鎖で全身を縛られ、天井から吊るされていた。
「な、身動きが取れない」
暗室であった。
一寸先も見えない。
しばらくすると、ぼんやりと部屋の中に明かりが灯った。
その明かりをじっと見るとそこに男が立っていることに気がついた。
その男の顔をよく見る。なんと、その男はトカゲの顔をしていた。
「ぎゃ」
と叫ぶ間もなく、トカゲ男は真島に飛び掛かった。そして、彼の体とトカゲ男の体がぶつかった瞬間。ズルリと彼の体内にトカゲ男が入っていった。
言うまでもなく、トカゲ男とはレプタリアン斉藤である。彼は遂にアモンの能力を持つ者と出会い。その力を奪い取ったのである。
今、真島浩高の体内にはアモンの力とレプタリアン斉藤の人格が入っている。
真島浩高はそれを収める器にすぎなかった。
2人の男は睨み合う。
「来るなら加賀八明かと思っていたが、まさか、お前だったとはな」
真島浩高、もとい、レプタリアン斉藤が言う。
「師匠は忙しいのでな。お前みたいな雑魚、俺で十分なのよ」
矢吹晴男が笑う。
次の瞬間にはレプタリアン斉藤の身体が弾かれた弾丸の様に、矢吹晴男に向かい高速で飛び掛かった。
レプタリアン斉藤の手刀が飛ぶ。
早い。躱せない。
矢吹晴男は覚悟を決めた。
ずぶりと、手刀は矢吹晴男の胸に深く突き刺さった。
「お前じゃ役不足よ」
レプタリアン斉藤が笑った。手を晴男から抜き取ろうとしたその時である。
手刀が動かない。そう、晴男は全身全霊の力を胸に集中させて、胸筋で手刀を固めて、抜き取れない様にしていたのだ。
「レプタリアン斉藤よ…これが俺の最後の打撃だ…必殺…サイコダイブ…」
そう言うと、晴男は身体を反らせた。反りきったところで一瞬止まる。まるで力を貯めているように…
そして、一気にレプタリアン斉藤の額に頭突きをくらわせた。
衝突しあった2人の頭が一瞬光る。
気がついた時、矢吹晴男は何もない空間にいた。
一面が白い。地面も、そして遥か遠くに見える壁も、なんと空まで純白である。
矢吹晴男がぶちかました奥義こそ、加賀流の最終奥義サイコダイブである。
これは、打撃を通して人の心の中に入ると言う技である。
もちろん、そんな神通力紛いのこと、普通なら不可能である。しかし、時にボクシングや空手などの打撃を伴う試合において、拳は口以上に雄弁に語る。
殴り合うことでお互いを理解し、まるで旧知の友の様に相手を感じることもある。
あの感覚を極限まで高めたのが、このサイコダイブである。
矢吹晴男はサイコダイブ習得の為に他の対抗戦メンバーの様な修行はせず、一心にその心技体を磨き続けていたのである。
矢吹晴男は少し離れた所に1人の少年がうずくまり泣いているのを見つけた。
「ヒロ…」
矢吹晴男は声をかける。
真島浩高は顔を上げた。
「あの、もしかして、ハッチャンの弟子の矢吹晴男さんですか?」
真島は立ち上がり、目を輝かせて矢吹晴男に語りかけてきた。
「俺、虐められて、学校行けなくなって…それで強くなりたいんです。矢吹さんやハッチャンさんみたいに!!!」
真島浩高は涙ながらに語っていた。
その姿は矢吹晴男に弟子入りを志願したあのコンビニでの姿を思い出させた。
そして、真島浩高の後ろに人影が見えた。その顔はトカゲである。レプタリアン斉藤である。
レプタリアン斉藤の姿はみるみるうちに大きくなり、この純白の空間を覆い隠さんとしていた。
それでも矢吹晴男は笑った。
「なれるさ、ヒロよ…世界で一番強くなれるさ。いつまでトカゲ野郎の言いなりになってやがる…俺と一緒に、最強格闘家になろう…」
真島浩高は笑った。
矢吹晴男も笑った。
2人はレプタリアン斉藤と対峙した。
決着の時は近い。




