第六十話 「軒下のモンスター」
ガンギマリ敬之。本名、柿原敬之。
彼は空手業界最大の団体『超進塾』の塾生だった。塾生時代、彼は天才の名を欲しいがままにしたが、ある日突然超進塾を去る。
その理由は涙なしでは語れないものだった。
彼は恋をしてしまったのであった。当時の師範代であった男に。
敬之はある日自分の思いが抑えきれず、師範代に告白をした。師範代は人格者であった。突然の告白にも関わらず、敬之が傷つかないように言葉を選び、敬之の思いを断った。
そして、敬之は師範代を殺した。師範代の首は今でも敬之の家の冷蔵庫の中に大事に保管されている。
敬之は狂っていたのであった。叶わぬ思いが彼をモンスターへと変えてしまっていた。
それからほどなくして、彼は超進塾を退塾。ヤクザの喧嘩師として生計を立てることとなる。
彼は惚れた相手を殺さずにはいられなかった。なぜならば、自分が性的マイノリティであり、彼の恋が叶うのは恋い焦がれる相手が物言わぬ死体になった時のみだったからだ…
『あなた方は、不義の者が神の王国を受け継がないことを知らないとでもいうのですか。惑わされてはなりません。
淫行の者、偶像を礼拝する者、姦淫をする者、不自然な目的の為に囲われた男、男同士で寝る者、盗む者、貪欲な者、大酒飲み、ののしる者、ゆすり取る者はいずれも神の王国を受け継がないのです』
~新約聖書 コリントの信者への手紙Ⅰより~
神に見捨てられ、人に見捨てられたこの男が心安らぐ時間が2つある。
それは家で死体をうっとりと眺めている時、そして、男と殴り合っている時だ。人を傷つけ、傷つけられているときだけ、このモンスターは自分が許されている気がしていたのだった。
藤浪ドラゴンは立ち上がった。
「お前と噛み合って、分かったことがある…お前は愛を知らないな」
「なぜ…そう言い切れる?」
ガンギマリ敬之が訝しげに聞く。
「お前は噛み合っているとき、舌を入れてこなかったからだ…普通、キスする時は舌を入れるだろう…お前は拒否されるのが怖くて舌を入れれないチェリー ボーイってことだ」
藤浪は構えた。
「お前に愛というものを叩き込んでやる」




