第五十八話 「デジャヴ」
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朴斗。時代が生み出した悪魔。
彼は第三試合開始の合図を告げるドラが鳴ったと同時に懐からカレーライスの載った皿を取り出した。おそらく、そのカレーライスは毒入りであろうことは容易に想像できた。
「お前に食わせてやる…」
にやりと朴斗が笑い。カレーライスを誕生日のサプライズパイ投げよろしく、山口の顔面に向けて放り投げた。
「危ないわん!!!」
その時である。主人を守るべく、山口の飼い犬、本郷太郎が飛び出した。彼はそのカレーを顔面で受け止めてセーブした。
カレーを顔面で受け止めた本郷は地面に倒れ込み、何度か痙攣したのちに動かなくなった。
本郷太郎、享年26歳。あまりにも早すぎる死であった。
「本郷…」
山口は本郷太郎の亡骸を抱き上げた。
そして、死体の柔らかな腹に顔を埋めた。すると、なんと、山口は本郷太郎の腹を食いちぎったではないか!!!
バグバグと本郷太郎の血と肉を喰らいだす山口。
「気が狂ったのか!?」
控室にいた原が思わず叫ぶ。
「違う!!!あれは、本郷を食べることにより、食物連鎖の輪の中に組み入れ、彼の死を無駄にしないと言う思いやりの心!!!」
藤浪ドラゴンが叫んだ。
その通りであった。山口は本郷太郎をカニバリズムすることにより、命の尊さを観客に見せつけようとしていたのである。まさにこれが食育と言わずして何と言おう。
山口は本郷太郎の臓物を全て平らげた。
そして、立ち上がり、血塗れの顔で朴斗を見つめた。
「お前にこれができるか?サンボというのはね!!!格闘第一主義なんですよ!!!俺は愛する格闘家のためならその血肉すら食らうぞ」
山口と朴斗はコロシアム中央で睨み合った。
その時であった。山口の顔面がみるみる内に青ざめていき、その場に倒れ込んでしまった。
彼は地に伏せ、何度か痙攣したのちに動かなくなった。
説明しよう。本郷を食べたはいいものの、死体の臓器にはまだ毒入りカレーが残っており、それをそのまま食べてしまった為、山口は悶絶。死に至ったのであった。
山口・ヴィクトロヴィッチ・タッカーシー。享年24歳。あまりにも早すぎる死であった。
第二試合!!!勝者!朴斗!!!
「あのデブ普通に負けてるじゃねえか!?」
原が叫ぶ。
コロシアムの中央では山口が大の字で倒れていた。審判が朴斗の勝利を宣言しようとした、正にその時であった。
「ちょっとまったぁ!!!」
加賀八明が叫んだ。
「まだ山口は生きているぞ!!!」
そう、山口はまだ生きていた。震える手で自分の胸を揉んでいた。
「あれは…一体!?何をしているんだ?」
原が不思議そうに呟く。
「あれは自分で心臓マッサージしてるんだ!!!きっとそうだ!!!」
藤浪ドラゴンが叫ぶ。皆、なるほどなぁ…と頷いた。
「お前らは間違っている…あれは心臓マッサージではない」
加賀が藤浪ドラゴンの意見を一蹴する。
「あれはチクニーをしているのだ」
加賀の言う通りであった。毒に犯された身体を回復する為に、山口はチクニーをしていた。
大観衆の面前でチクニーをする事で性的興奮が最大限に高まり、その為心臓がドキドキする。そのドキドキ具合と言ったら、心臓マッサージの比にならないのであった。
山口の全身に血が巡り、山口の身体は死の淵から蘇った。
山口はヨロヨロと立ち上がり、そして朴斗を見据えた。
「お前が毒カレーを使うことはわかっていましたよ!!!いいですか!!!今から、俺がしたいのはですね!!!できっこないをやらなくちゃなんですよ!!!」
山口は笑った。朴斗はその笑みに気圧されそうになった。
音楽業界の癌細胞と言われた俺が!?ふざけるな…山口…ぶっ飛ばしてやる。
2人は駆け出していた。お互い固く握った拳を相手に叩き込む。それだけを考え、それだけの為に動いた。2人の間に火花が散った。教育業界を背負う二大巨頭が今ここにぶつかろうとした!!!
その時である!!!山口の身体を光が包んだ。一体何が起こったのか!?
会場中の人間に理解ができなかった。
なんと、山口の頭上には巨大なUFOが現れたのであった。そのUFOから山口に向けて光が降り注いでいた。
山口の身体が宙に浮かぶ。みるみるうちにUFOに吸い込まれていく山口。
これはアブダクションと呼ばれる現象である。
宇宙人による連れ去り事件のことをこう呼ぶのだ。
1975年、アメリカでこんな事件が起こった。
トラビスという名の森林作業員が失踪した。警察が彼の同僚に事情聴取を行うと同僚は怯えたようにこう言うのであった。
「トラビスは宇宙人にさらわれた」と
数日後トラビスは見つかった。彼が言うには、UFOの中に拉致された彼が見たのは3人の宇宙人であった。世に言うグレイタイプと呼ばれる目が大きく、幼児のような体型をしているエイリアンだ。
彼はエイリアンからさまざまな検査を行われたのちに解放されたとのことだった。
このようなエイリアンによる人類拉致事件は全世界で行われている。
しかし、こんな大観衆の前で拉致が行われたのは前代未聞の出来事であった。
皆、試合のことを忘れて空を見ていた。吉岡がUFOの中に入ってしまうと、光は消えた。
そして、次の瞬間、UFOは空高くとんでもない速度で飛び去っていったのであった。
「あ…あれは一体!?第二試合と同じ展開じゃねえか…」
原が驚きのあまり、口をあんぐりと開けボソリと呟いた。
「遂に動き出したから…作戦コードミームが…」
加賀はUFOが飛び立っていった方向を見つめ笑った。この笑みの理由が分かるのはだいぶ先のお話…