第四十二話 「進化」
試合前、晴男は夢を見ていた。
宇宙空間でドラゴンと戦う夢だ。
夢の中で晴男は何度も何度も焼かれ、噛まれ、打ちのめされた。
「やはり、人がドラゴンに勝つことなど不可能なのか…」
「違う!!!」
叫び声がする方を見る。そこには犬がいた。
「晴男、なんで恐竜が絶滅したかわかるかわん?」
「それは…隕石かな?」
「違うわん、環境に適応できなかったからだわん、適者生存説だわん、所詮ドラゴンも生命体。生命体である以上、進化の流れの中では無力だわん。力がある者が強いのではなく、適応する者が強いんだわん…」
「お前の矢吹流武術はまさに適者生存説に適っているんだわん」
「ドラゴンの弱点は進化!?」
「そう、46億年の前では所詮ドラゴンも無力だわん!!!」
「なるほど…わかったぞ!!!」
試合会場、2人は再度向かい合った。
矢吹晴男は拳を無造作に打ち込んだ。
中国拳法特有のしなるような打ち込みだ。
ムチがうなり、藤浪の胸にぶち当たった。
「哺乳類拳法のひとつ猿拳である」
晴男は打ち方を変えた、正拳突きである。
「哺乳類拳法のひとつ人が編み出した空手道である」
藤浪はダメージを気にせず、恐れることなく踏み込んだ。その両腕で晴男を捕まえた。
即座に藤浪は晴男の顔面を腋に抱え、締め上げ、身体を反り返りらせた。つまり、これは、ドラゴンスリーパーである。
「進化がなんだって?」
藤浪は締め上げながら晴男に聞いた。
晴男が微かに震える。藤浪は痙攣していると思った、しかし、その実、藤浪は笑っていたのだ。
「藤浪…痛い…」
晴男は藤浪に聞こえる程度の小声で言った
「…?当たり前だろ?」
不審そうに藤浪が言う。
「痛い痛い痛い!!!これはパワハラじゃないですか?訴えるぞ!!!」
晴男が叫ぶ。
「は?」
藤浪は呆気にとられて思わず声を漏らした。
「それに、お前の腋は臭い…とんでもない精神的苦痛だ…」
晴男がくぐもった声で続ける
「民事裁判を起こすぞ」
「馬鹿が、格闘技の試合で有罪になった例はないぞ」藤浪が怪訝そうに言う。
「馬鹿はお前だ、だから民事なんだよ。勝算は低いし、金もクソほどかかるが、お前の社会的地位と時間を抹殺してやる」
「ふざけんな!!!」藤浪が叫ぶ。
「ところで…ところで藤浪よ、力緩まってるぞ」
するりと、晴男はドラゴンスリーパーから脱出した。
晴男が使った技は哺乳類拳法の更に進化系である、整合性は一切無視して自分の不当性のみを声高に主張する、「新人類拳法」である。
「いくら強くても馬鹿じゃ仕方ねえな、これが進化だ」
そう言うと、晴男は藤浪の股間を蹴り上げた。
「P…ペニス!!!」
藤浪が苦悶の表情を浮かべる。例え銀メッキで加工していようと急所を蹴り上げられれば痛い。
「D…ディック!!!」
また股間を晴男が蹴り上げた。藤浪は歯を食いしばり耐える
「C…ちんちん!!!」
更に晴男は股間を蹴り上げた。藤浪は目を白黒させて前のめりにに倒れる。
「ラストだ!!!A…アナル!!!」
晴男が藤浪の肛門に向けて蹴りをぶち当てた。
その瞬間、晴男は違和感を覚えた。
堅いのだ。ありえないほど堅い。
そして、足が抜けないのだ。
その時、晴男の足は藤浪の尻の筋肉により拘束されていた。
恐るべし、藤浪ドラゴン。
全身をくまなく鍛えた彼は尻の筋肉まで鍛えていたのである。
藤浪は蹴りの瞬間、尻の筋肉で彼の足を止めたのである。
「真剣白尻取り」である。
尻に足を絡め取られ、身動きができない晴男の片足を藤浪は捕らえた。
そのまま、きりもみ回転して、晴男をブチ倒した。ドラゴンスクリューである。
「強かった…本当に…今までの相手で一番強かった…」
藤浪は息を切らしながらそう言った。
晴男は全てを悟り笑った。ここまでは読み筋ではなかった。
藤浪も笑った。
藤浪は晴男の顔面に拳を打ち込み、それが決着の一撃であった。
晴男は失神してマットの上に転がった。
勝者!藤浪ドラゴン!




