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最強格闘家になろうシリーズ  作者: カカカカカ
最強格闘家になろう第一部「目覚め編」
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第四話「コンビニは虎の穴」

坂道を1人の男が駆けていた。


肌の色は白く、ひょろりと細いその身体はいかにも発達途上の青少年といった風体であった。


目元まである長い髪を揺らし、その顔にはニキビが数個吹き出している。童顔であった。目は大きく、鼻が高い。愛嬌のあるその顔は柴犬を想起させる。


真島浩高は暗い夜道を1人走っていた。


周りは閑静な住宅街、その家々からは夕飯の旨そうな匂いが漂ってくる。


あの人が俺の目の前に現れてから俺の日常が変わった。


あの人が現れる前、俺の日常は灰色だった。




真島には信頼出来る人がいない。


裕福な家庭に生まれた。


幼い頃から英才教育を受けた。


勉強漬けの毎日。


それが幸せだった。テストでいい点を取った時、両親は嬉しそうに笑った。それだけで報われたのだ。


転機は中学2生の時にやってきた。


その頃、真島は自身の顔が女生徒を惹きつける魅力がある事に気がついた。


女生徒から注目されるのは気持ちよかった。しかし、要らぬ連中からも注目されてしまった。


クラスの中心グループの男子生徒たちから暴力を振るわれる様になった。


「調子に乗るな」そう言われ、人気のいない校舎裏で殴られた。


調子に乗るなと言われても、無論、真島は何もしていない。


それから暫くして、真島は学校に行かなくなった。両親はそんな真島を責めた。


「負けるな」


「落ちこぼれになってもいいのか」


そう言った。


真島は家どころか部屋から出ることも少なくなった。


誰とも会うことはなく、毎日パソコンの前で過ごした。


色のない生活、昨日と今日が入れ替わってもわからない毎日。そんな生活が3年続いた。




『ワイは身長190センチ、体重120キロ。ボクシングとブラジリアン柔術やっとるからお前らみたいな雑魚相手にならん!悔しかったら⚪︎×区の〇〇公園に来いや!!!そこで相手してやんで』と…


真島はタイプした文字を満足気に眺めた。


日本最大手掲示板7ちゃんねるの「喧嘩凸板」で喧嘩を売ることが真島のここ数ヶ月の楽しみとなっていた。


喧嘩凸板は腕に自慢がある7ちゃんねらー達が思い思いに自身の経歴について話したり、実際にアポを取り合うと言った使い方がされていた。


しかし、無論それだけではない。不毛な罵り合い、または実際にこの板で出会った者同士で暴行事件が起きたりと、血生臭い事も多かった。


この危険な板で、真島は虚勢を張る事に黒い愉悦を感じていた。


インターネットの世界では現実の強さではなく、口の強さが全てだ。


ここで人を打ち負かす事が楽しかった。


暴力により、自身の未来を閉ざされた真島が擬似的にとは言え暴力により相手を威嚇し、打ち負かすのは気持ちよかった。




『またヒロか…』


『嘘乙』


『お前、本当に場所に来たことねえじゃん、嘘つきヤロー、ぶっ潰してやるから絶対に来いよ』




真島が書き込みしてすぐに返信がいくつも来た。


『おう、やったるわ!!!絶対に来いよ』


と真島は打ち込む。無論その場には行かない。


自分の嘘に踊らされている人間がいる。そう思うだけで笑みが溢れた。




翌日、おかしな事が起こった。


喧嘩凸板が祭り状態になっていたのだ。


話はこうだ。


真島の嘘を真に受けた中学生が集団で公園に向かった。そこで、手練れの男に返り討ちにあったのだ。中学生の1人は顎を折られ、現在入院中とのことだ。




真島は1人部屋で震えた。


嘘が真になってしまった。一体どこの誰が中学生をのしたのだろう?もしも、刑事事件になった場合、自身はどうなってしまうのだろう。


想像すると、恐怖で身体が震えた。




しばらくすると、新たな情報が喧嘩凸板に流れた。


中学生を蹴散らしたのは、喧嘩凸板最強と名高い「ハッチャン」なのでは無いかと言うことだ。


ハッチャンの名を真島は知っていた。


ハッチャンは喧嘩凸板の名物男性だ。




この前、ハッチャンに板の上で喧嘩を売った、『現役傭兵ルシアン⭐︎軍隊格闘技専門』と言う男は板上でボコボコに攻撃された挙句、Twitterアカウントを特定され、本当は傭兵でもなんでもない、ただの牛丼屋の店員である事が晒された。


Facebookのアカウントまでハッチャンに特定され、ルシアンの顔写真と本名がが喧嘩凸板上に貼られた。


ルシアンこと本名、田中慎太郎はちょっとぽっちゃりとした、温和そうな中年男性であった。


『俺の負けだからこれ以上はやめてくれ』とルシアンは喧嘩凸板で敗北を認めた。


『ならば、ハンドルネームをルシアンから『牛丼田中丸✳︎アナル調教済』に変えろ、語尾にモーを付けろ、喧嘩凸垢に最低でも1週間連続で書き込め、それで許す』それがハッチャンが出した条件であった。


その後の1週間は祭り状態であった。


田中の写真をウシとコラージュした画像が喧嘩凸板で大ブームとなった。


牛丼田中丸が板に出現すると、「降臨」と揶揄され、板の消費スピードは普段の5倍となった。




実際にハッチャンと出会った男もいた。


ハッチャンの噂を聞きつけた元関脇である琴春菊が喧嘩凸板に降臨した事もあった。


『お前、素人相手にしてて恥ずかしくないのか?俺が相手してやるよ』


琴春菊の書き込みに対してハッチャンはただメールアドレスを書き込んだだけであった。


暫くの後、琴春菊の書き込みがあった。


『ハッチャンと戦うことになった。場所は極秘。時間は明日の夜7時。終わったら書き込みます』


また祭りとなった。


琴春菊はそこらの腕自慢とは訳が違う。本当の強者である。


琴春菊は未来を期待された力士であったが、暴行事件を起こし、各界を追われ、今では総合格闘家として名を馳せていた。


総合格闘家としての戦績は7戦全勝。


喧嘩凸板の英雄ハッチャン対最強総合格闘家の決闘に板の住人達は皆注目した。


翌日の夜7時半の書き込みが住人達を戦慄させた。


書き込んだのは琴春菊ではなく、ハッチャンだった。


ハッチャンはただ、画像を一枚板に貼り付けただけであった。


そこには電柱に吊るされた琴春菊の姿があった。


何故か女性者の下着を上下に着せられた琴春菊。そして、画像の下には『淫乱ゼミ発見』とゴシック体で書き込まれていた。


ハッチャンが勝ったのだ。


その翌日、琴春菊は総合格闘家引退を表明した。


この一件以降、誰もハッチャンに喧嘩を売らなくなった。




「ネットでもリアルでも最強」それがハッチャンと言う男だった。






そんなハッチャンなら中学生相手に遅れを取る訳がない。


自分は故意ではないにしろ、中学生達を虎穴の中に放り込んでしまったのか…そう思うとまた震えた。




それからと言うもの、インターネット上でハッチャンに関する情報をかき集めた。


Twitter、Facebook、インスタ、SNS上でも同様にハッチャンを探し求めた。


興味が湧いたのだ。ネットでもリアルでも最強の男がどんな男かこの目で確かめてやろうと。




ハッチャンはTwitterをしていた。それはすぐに見つかった。「ハッチャン✳︎喧嘩凸垢」そこでハッチャンの日々の様子を追った。


「ラーメンなう」


「喧嘩なう」


「ボコした相手からお金貰ったなう」


「弟子から授業料を貰うなう」


「結構な額ぶんどれることが判明したので道場でも開こうか検討中なう」


「弟子と修行中なう」




弟子と修行中…?


ハッチャンには弟子がいたのだ。


弟子について調べるとすぐに分かった。名前は矢吹晴男。ハッチャンの一番弟子だそうだ。


しかし、結局分かったのは名前だけだった。




ハッチャンについて調べ始めてから数ヶ月が経ったある日、衝撃的な情報が喧嘩凸板で流れた。




ハッチャン逮捕である。




「残当」


「ヤバイ人だったからな」


「弟子達から金をぶんどっていた模様。可哀想だけど、こんなキチ○イに金払う弟子も馬鹿」




喧嘩凸板は祭り状態であった。


馬鹿な…そう思い、すぐ様、Twitterを開き、「ハッチャン✳︎喧嘩凸」のアカウントを見た。


そこには一言だけ。




「おわた」




とTweetされていた。


ハッチャン神話崩壊の日であった。




ハッチャンがいなくなっても、喧嘩凸板の血生臭さは変わらなかった。


相変わらず、やれ喧嘩だ、やれ最強だ、と罵り合っている。


そんな中、妙な情報が流れ始めた。


ハッチャンの弟子だった矢吹晴男が〇〇区で腕に覚えのある格闘家達を手当たり次第になぎ倒している。と言うものだった。


しかし、どうせハッチャン信者がでっち上げた嘘だろうと噂はすぐに治った。


無論、真島も信じなかった。あの日までは。






真島が暗い夜道を駆け、たどり着いた先はコンビニだった。


丘の上にポツンと立つコンビニは暗い街を煌々と照らしていた。


1ヶ月前からここで真島はアルバイトをしている。


pcが不調になり、修理代金が欲しかった。


親は出してくれるはずもなく、また、お金を催促するのも憚られた。


インターネットに接続できないストレスが部屋に籠る安息よりも勝った。


仕方なく、真島はこのコンビニでアルバイトをし始めたのである。


しかし、今ではそれが運命であったと、真島は考えている。


コンビニの自動ドアが開く、レジに立つ男が真島の顔を見ると破顔した。


いい笑顔だった。その男は背丈は175センチほど、胸も足も腕も丸太の様に太かった。


髪は坊主に近いほど刈り込まれていた。


温和そうな顔に不釣り合いの傷がデコから顎にかけて斜めに走っている。




「すいません!!!晴男さん!!!少し遅れました!!!」


「おう、来たか、ヒロ」


レジに立つ、その男の名は矢吹晴男と言った。

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