第三十二話 「矢吹流武術」
ファぁぁぁぁあ!!!!
真島の雄叫びが会場に響く、さっきまでの真島とは別人のようだ。
その様は夭折したジークンドーの開祖でもあり、伝説の映画スターでもある、あの伝説の男に酷似していた。
真島の右足が跳ね上がる。
その足が晴男の顔面を捉えたかに見えたが、
晴男はふらつくように、大きな動作で反り返り、その足をかわすと、その体勢のまま、真島の腹に拳を打ち込んだ。その反則的な動きは酔拳に酷似していた。
これは、矢吹晴男が身につけた武術のひとつ、クレイジーモンキー笑拳法である。
真島は打たれた腹を気にするそぶりも見せず、晴男に打ちかかる。それを晴男はかわしつつ、また打ち込む。
激しい連打合戦となった。
2人の姿を観客席の1番奥、手すりにもたれかかりながら見ている1人の男がいた。
彼の名は加賀八明である。
「甘いな…矢吹…技に溺れている」
彼は一言ポツリと呟き、また2人を凝視した。
2人の拳のやりとりはほぼ互角に見えたが、その均衡はジリジリと崩れ、そして決壊しそうになっていた。
真島の拳が早すぎるのである。
まずい、矢吹がそう思ったと同時に、拳が顔面に突き刺さる。
それが合図だった。全身を真島の拳が、足が襲いかかる。
めったうちにされつつ、矢吹ができるのは、全身の筋肉に力を入れて、ガードに専念することだった。
打ち疲れた隙をつく、そう思い、亀のように丸々も、真島の隙を見つけられなかった。
まずい…倒される…
全身が腫れ上がっていく、痛みで全身の皮膚の感覚が麻痺していく、限界であった。
晴男の脳裏に浮かんだのは、これまでの戦いの歳月である。
加賀の元で修行を終えてから、晴男はひたすら戦い続けた。
それは修練の日々でもあった。
ひたすら敵と戦い、勝つ為に新しい武術を身につけ、作り出し、打ち負かす。
ひたすら繰り返してきた。
ある時は、真島に格闘技を教えた時期もあった。獄中で泣いた日もあった。
犬達と生活し、ラブアンドピースに目覚めた時もあった。
スティーピーワンダーに爆殺されかけた日もあった。
俺は強くなった。それでも勝てないのか?
武芸百般とは言わずとも、武芸七十一般くらいは修めた。
何故だ?あれだけ努力して、あれだけ犠牲にしてきたのに勝てないのか?
「それでは、魔門にはどのように勝てばいいのですか?」
矢吹晴男は加賀にそう尋ねた。
雨が降り頻る庭が見える。
「成熟した魔門に勝つことは不可能だ。しかし、まだ門が開き切っていない魔門には勝てる」
「どうすれば…」
「簡単だ、武芸百般を修めよ」
加賀はそう答えた。
「魔門の利点は見ただけで全てを模せること、しかし、弱点もまた同様。つまり、経験値が少ないってことだ」
「お前はお前の矢吹流武術を見つけろ」
あの日、夕日の中、師匠がそう言った。
つまり、つまり…そう言うことだったのか!?
「勝者!!!真島浩高!!!」
レフェリーが両手を広げ、そう告げる。
と、真島はその拳を打ち込むことを辞めた。
勝った…勝ったのだ…師匠に…!!!
涙が溢れそうだった。
うぉおおお!!!!真島は叫んだ。
と同時に倒れ込んだ。
真島の首に晴男の手刀が叩き込まれていたからである。
真島は完全に気を失っていた。
この試合、バーリトゥドルール。なんでもあり、決着はギブアップか失神のみである。
実は、先ほどのレフェリー、矢吹晴男だったのである。
晴男はこれまでいくつもの象形拳をマスターしてきた。
レフェリーの姿形を模すなど朝飯前である。
魔門に不慣れな真島は朦朧な状況でないと門を開けない。
そんな真島が一瞬でも晴男をレフェリーと勘違いするのは仕方がないことである。
「武芸百般を修れば、敵、環境、技によって1番最適な解を導けると言うことだ…それが、お前の武術だ…晴男」
矢吹晴男は片手を天高く突き出した。
晴男は「喧嘩凸トーナメント流武術」を生み出したのであった!!!