03 仲間ってお嬢ちゃんだった
そんな何の利益にもならない言い合いやら、力強く励まされた一幕がありながらも、俺たちはこの廃墟で待ち合わせしている人物との合流場所へと向かった。
「ここね」
「この先にいるのか」
男か、女か。
諜報って言ったら女ってイメージだけどな。
あと、名前的にもそんな感じ。
それにしても……と、扉を前にして、改めて思う事だが、
俺にとっては、今回の任務が正式なエージェントとしての初めての任務となる。
それが通常のものではなく、特別な物だという事は……。
「つまり、俺向きの、俺の能力が必要とされるやつって事か?」
船導牙の持つそれは、威力以外は目立たない応用性のかけた、ダイヤモンドダストだ。
薬品サンプルを盗み出したという相手は、一体どんな荒れくれものの巨漢なんだろう。
未踏鳥から聞いた情報によれば、俺がやりたいだろうと思ったからよこした依頼だとか、恩着せがましく言われたが。
あいつに言われるくらいだから、よっぽど俺の力が状況に合ってるんだろう。
『本来は私が自ら出向いて縛り上げるべきところだが、特別に貴様の様なぼんくらに回してやった』
思い出したらなんか腹立ってきた。
ありがたく思え、みたいな言葉が顔に書いてあるような奴の表情を思い出して、自然とムカムカしてくる。
「ちょっと、何頭抱えたり、百面相したり、拳握ったりしてるのよ」
「そろそろ開ける?」
「あ、すいません大丈夫です」
色々考えていた時間があったのは、どうやら俺待ちだったようだ。
改めまして準備オーケーですというゴーサインをだして、扉を開ければ、その先には廃墟の一室。
休憩室かなんかだったその部屋には、畳が敷き詰められていたのだが、長年の放置のせいで台無しだ。
で、そんな部屋の真ん中に立ってこちらを見ていたのは……。
「まったく、基本も知らぬ小僧が童の仲間を気取りに来たとは、人選決めた奴に文句いってやるのじゃ」
そんな古風な口調で喋る、女の子だった。
小さな、小学生くらいの女の子。
くりくりとした真ん丸の瞳が小動物っぽくて、愛嬌のある顔立ちが可愛らしい。
お父さん可愛い娘のために奮発して買っちゃったぞー、みたいなフリルドレスを着ていると、子供向けの人形みたいだ。
「まいご?」
とりあえず見るからに荒事に向いて無さそうな少女に向けて、素直に思った事を呟けば、少女が猛烈な勢いで走って来て、飛び蹴り食らわしてきた。
「ぼふっ!」
いい位置キマった。
体をくの字に折っていると、頭上からこちらを見下ろしているだろう少女の言葉が降って来る。
「失礼な奴なのじゃ。人を見かけで判断してはならんと、ママさんに教わらんかったんかのう」
ママさんですか。
じゃあ、父親はパパさんかな。
また、キャラの濃いやつが出てきたな。それも女の子。
俺の周りって、芯の強い女性キャラ多いなってこの頃思ったばっかだぜ?
いやいやそれより。
確認の方が先だ。
俺は理沙と水菜に視線を向ける。
「え、この流れ、ひょっとしてこの子が例の待ち合わせ相手なん?」
しかし、二人が何か喋る前に、お嬢ちゃんが強烈なセリフを放ってきた。
「当たり前じゃろうが、このボンクラめ」
「さっきの言葉そっくりそのまま返してやんよ。教育のなってないお嬢ちゃんだな、おい」
腕を組んで不遜な態度をとるその人物の名前は、若山瞳。
れっきとした抗体組織のエージェントだったらしい。




