02 来たった
そんな、青春の一ページと組織内地位を天秤にかけるような選択をしてから一週間が経過。
気に食わない未踏鳥の話を聞いて、正式に任務に取り掛かる事になった俺は、水菜と理沙と共にチームを組んで、廃棄された宿泊施設跡地に来ていた。
オペレーターとして異例の出世を果たした近藤さんの凄腕オペに助けられたり、地図片手に悩んだりしながら、道なき道を踏破。
俺達は、人目のない道やら、人気のない山林やらを延々と歩いて辿り着いた寂れた町の中の、まったく人気のない廃墟に到着した。
やんちゃした年頃の、やんちゃさん達が肝試しとかに来そうな場所である。
「こんなとこが目的地だなんてな、何か辛気臭そうだな」
「それに関しては同感ね」
「私は時に何とも思わないわ」
三者三様の感想を言いながら、先へと進む。
近藤さんにはお礼を言って、今まで指示を受け取っていた電話の通話を切った。
廃墟の中に入っていくと、放置された年月分だけの埃が積もっていた。
元は何かの商業施設だったのか、たまに通る部屋や廊下にはゲーセンにあるような機械が転がっていた。
「埃くせぇ」
「ちょっと、前を歩かないでよ。あんたが先歩いていったせいで、舞った埃があたしにつくじゃない」
「だったら、お前が前歩けよ。幽霊出そうとか、怖いとか思ってんの?」
「ななな、何でそれを。じゃなくて、違うわよ、そんな事思ってるわけないでしょ、大体幽霊なんてそんな非科学的なもの存在しているわけないでしょ!」
とか言ってるけど。
非科学的そうなナイトメアとか、抗体ウイルスとかは存在してんですけど。
幽霊とかもいるんだったら、化学で説明できたりするんかね?
「何よ馬鹿にしたような顔して!」
「そんな顔してねぇよ、人の顔何だと思ってんだ!」
「二人共静かに、この先に人の気配があるわ」
「すみません」
「ごめん」
いつもの調子で言い合いをしていて任務だと言う事を忘れそうになり、水菜に注意されて二人そろって謝る。
情けない限りだ。
途中まではちゃんと緊張感持ってたんだけどなあ。
やはり所詮船頭牙は船頭牙だったと言う事か。
って、そんなんで良いわけないから頑張ってるんだろ。
気を引き締め直す。
初任務なんだ。
しっかりやらねぇと。
静かに、と言われた手前再び口を開けるのは心苦しいが、どうしても確認しておきたい事があったので、小さい声で水菜に話しかける。
「ここに確か協力者のエージェントがいるんだった……よな。ええと誰だっけ」
「そう。若山瞳。透明化の能力を持っているから、情報収集などの任務を任されている」
理沙に「そんな事も覚えてないの」と言われたがぐっと我慢だ。
とりあえず若山という奴が、先にこの任務にとりかかっていたらしいので、合流して情報を引き継ぎ、実際の任務は俺達が行うというのが今回の流れだった。
この間の事件で濡れ衣を晴らしたものの、薬品サンプルは結局相手に渡ってしまったままなので、この任務で取り返すのが俺達の仕事だ。
「その子って、戦力に数えて良い感じ?」
「それは難しいわ。彼女は、戦闘向きではないから」
「そっか」
という事はやはり、この三人で何とかしなければならないと言う事だ。
それなりの時間、共に過ごしてきたので息を合わせる事は何となく大丈夫だろうと思っているが、戦力面では水菜に頼りきりになってしまうのが、不安だった。
「安心して、大丈夫」
そう思っていると、水菜に言われてしまう。
うーん、恰好悪いな。元気づけられてしまった。
こう言うの普通は逆なのにな。
やれやれいつになったら、頼もしくなれるのやら。
「貴方の積み上げて来た努力はいつだって無駄になっていない。だから今回も、上手くいくと思うわ」
「あ、おお。さんきゅな」
でも、結構うれいしいとこもある。
そんな風に言われると照れちゃうぞ。
優しいだけじゃなくて、期待してくれるから、まだ何とかせにゃならんって思えるんだよな。
言われたからには恰好つけないわけにはいかないよな。
「ふん。私だってちょっとくらいは」
何が気に食わないのか、理沙は横で鼻をならしている。
悪態の一つや二つ飛んでくるかと思ったが、先ほどの水菜の注意が効いてでもいるのか、結局何も言ってこなかった。
ぼそぼそと小声で何か言ってたが聞こえてこなかった。




