01 どっちかに決めないと駄目?
交代組織本部 訓練室
怒涛の新人参入から数日後。
とりあえず、三人は仲良くなったようで、時々一緒に街に出かけたりして、遊んでいるらしい。
身近な友達が少なかったらしい理沙と水菜にはきっと、良い経験になるだろう。
付き合いはそれほどないけど、二人の仲間である俺も近藤さんの存在は大歓迎だ。
俺も、ハードな訓練にも若干慣れて来てるし、
任務だって、そろそろもらえるかもっていう希望が芽生えてきたし。
で、そんなちょっとだけ刑期前向き修正、好景気継続中みたいな頃の事だった。
俺はある選択を迫られていた。
「ぐぉぉぉぉ、林間合宿か特別任務の二択。俺に決めろってぇのか」
究極の二択に俺は、悩んでいる。
腹筋しながら、考えるのは俺が学生であるが故。
青春の一ページを犠牲にするか、エージェントとしての任務を取ってさらなるランクアップを目指すか。
すっげぇ、悩ましい所だ。
特に、その任務の内容が、先日に理沙が濡れ衣を着せられた事件に関わるものだと言えば、なおさら。
直々に未踏鳥から話が来たときは五回くらい「なんぞ!?」と身構えたが。
「何馬鹿みたいに悩んでんのよ。さっさと決めなさいよね」
そこに厳しめに声をかけてくるのは、仲間であり先輩である理沙。
「貴方の納得できる方で良い」
優しめに声をかけてくれるのは、長い事関わっていた任務を終えて戻ってきたばかりの少女……同じく仲間であり先輩である水菜だった。
「水菜は甘やかし過ぎよ。餌なんかやったら、こいつはどこまでも思い上がっていっちゃうんだから、鞭を飛ばすくらいでちょうど良いのよ」
「ってぇ、本当に鞭飛ばすなよ。悩んでただけで俺、暴力振るわれんの? とんだ鬼がいたもんだな」
「鬼で結構。でも時間は立ち止まってくれないわよ」
「ぐぬぬぬ……」
ケツ叩くような事言ってくれるけどな、そういわれてすっぱり決められるようなら、ここまで頭を悩ませてはいねぇんだよ。
「だってあれだぞ、青春はもう戻ってこなかったんだぞ。帰宅部だけど、組織入ってから、放課後のイベントとか参加してないし。学生だったら、テーマパーク行きたい、観光地まわりたい、夜中に肝試ししたい……って思うじゃねぇか、ばっかやろう」
忘れもしない、あれは小学五年生の出来事の事。
前日に寒風吹きすさぶ川に飛びこんで馬鹿やったあげく、熱を出した俺は、楽しみにしていた遠足を休まざるを得なかったのだ。
その時の、クラスメイト達と同じ思い出を共有できなかった口惜しさと来たら……。
「お前、一人だけ翌日の教室で話に交ざれない寂しさ分かんない? ねぇ、分かんない?」
「そんなの知らないわよ。はぁ、女々しい奴……」
そういえば、目の前にいる美少女たちって、友達少なかったんだよな。
顔もしらない北海道支部の少女と、近藤さん。
分かってるだけで二名の存在しか把握してない。
「うぁぁ」
ちょっと無神経だったか?
でも女々しいと言われようがなんだろうが、これは俺にとって重要な事なのだ。
どれだけ悪態をつかれても構わない納得いくまで考えさせてもらうぞ。
そんな俺に冷静担当の美少女がアドバイス。
「組織内での地位を気にしているのなら、特別考える事ではないと思うわ。新人のエージェントに回される仕事としては確かに別格かもしれないけれど、それで評価が落ちる事はないはず。貴方は貴方の好きにして良いと思う」
水菜がそんな有難いフォローをしてくれるが残念ながら、組織のトップに歯向かった経験のある俺の地位は最底辺。
同じエージェントからは遠巻きにされるし、ひそひそ話をかれてしまうような扱いなのだ。
ここらで存在をプラス方向にアピっておかねば、仲間からこの先もずっとはぶられ続けるような気がしてならなかった。
「……ぐ、くそ。決めた! 決めたぞ。ええいままよ。俺は決めたからな! 伝えてくる!」
二つの選択肢の内、片方を選び取った俺は部屋を出て、その旨を然るべき人間へと伝えに走る。
行先は未踏鳥の執務室。
こいつが直々に任務を言い渡してくるとか、どんな罠だよって思うけどな、ありがたく受けといてやるよ。けっ。
 




