07 美少女さん、それおこですね?
で、オペレーター室突発発生事件を解決した数十分後。
俺は訓練室で正座していた。
させられたわけじゃないよ?
自らしてるんだよ?
ココ大事。
「なるほどね、色々あったってのは分かったわ」
新米の面倒見てる場合じゃなかった。
自分の事できてないよ、船頭牙。
近藤さんを案内した後に、訓練があったのに忘れてた。
目の前では、理沙が仁王立ち。
水菜は無言だけど、いつもより静かで無口だ。
つまり、当然のように、待ちぼうけしてた美少女たちが怒っていた。
「こっちより、新米の方が大事だって言いたいのね」
「いや、そういうわけじゃ」
「言いわけ無用!」
「ひぃっ」
目の前の床をだんっ、と踏みしめられた。
すごい音したよ。
床、凹んでない?
「まったく……どうりで帰りが遅いと思ったら」
「そう……。問題が起きていたのね」
分かりやすく怒ってくれる理沙はまだ大丈夫だ。
でも、淡々とした口調で見つめてくる水菜がちょっと怖い。
瞳の中にこう、静かに燃える煉獄の炎がゆらめいているような。
やめて、そんな無感情な瞳に映した炎で俺を焼き焦がさないで!
ほら、もうちょっと、馬鹿とか人でなしとかなじってもいいのよ?
そういう趣味があるわけじゃないけど。
日ごろのストレスとか発散しちゃってください。
サンドバックにしちゃってもおっけーです。
むしろそっちの方がまだマシだ。
だけど、戦々恐々としていた俺に向けていた怒りを解いたのは、
「まあ、いいわ。トラブってたんなら人手が欲しかったんでしょうし」
意外にも、理沙の方だった。
「時間がもったいないもの。さっさとはじめましょ」
「そうね……」
そこで水菜さんもようやく同意。
今日ばかりは、残念美少女に感謝だ。
今なら拝める気がする。
でも、水菜のセリフに語尾に三点リーダー二つ分の無言の空気がぶら下がってるようでやっぱ怖いな。後でぐさっとか、どすっとかされたりしない?
「あなたはそろそろ任務を貰えるはずだから、頑張らなければいけない」
ゆっくりのったり、おそるおそる立ち上がっていると、そんな俺に水菜が意外な事を告げて来た。
え、俺任務もらえんの?
うっそー。
張り切っちゃうよ俺。
でもなんでかな、水菜が無言でそれ以外の行動をしないように、念押ししている様に聞こえても来るんだけど。
「貴方は一生懸命、頑張らなければならない」
気のせいじゃなかった!
ええー。まだ許してくれてないの?
淡々と怒んないで。
どうしていいのか分かんなくなるから。
取りあえず冷や汗をかきながら、再土下座をし続けていると、ふいに訓練室の扉が開いた。
その顔は、つい先ほど見たばかりの少女の顔だった。
律儀な彼女は、お家に変える前に俺に挨拶しにきたらしい。
「牙さん、今日はありがとうございました」
そういってぺこりとおじぎ。
あらま。
こういうところ、水菜にはない丁寧さだよね。
なんて思ってたら近くから冷気のようなものが、視線と向けると水菜がちょっとだけ微笑んでいた。
え、微笑……水菜が?
「ふーん、あれが例の新人? ちょっとついでに鍛えてみようかしら」
と思ったら、こっちも笑ってらっしゃる!
理沙も、何なの?
何がそんなに面白いの?
もういやぁ。
俺悪くないもん。
「親睦を深めるって大事なことよね。ねぇ水菜」
「ええ、新人の能力の把握は大事。チームワークの面から見ても有益」
何かをさっしたらしい近藤さんが、視線の先で「あれ?」となって、若干腰が引けている。
「あ、あの……」
「いいからいいから、遠慮しないで、オハナシするわよ」
「情報の共有をするべき」
近藤さんは二人に挟まれてあれよあれよという間に、クモの巣にかかったちょうちょさんのようにいずこかへ連行されてしまった。
閉まったドアを前にして、立ってるだけの俺はもうどうしていいのか分かんない。
一応言うね。
あのー、俺放置?
後日、連行されていった近藤さんと理沙と水菜が、ラグナロックで宿敵同士で最終決戦……してるなんて事はなく、なぜか仲良くなって「あんたも大変ね」「気持ちは、少しだけ分かる」みたいに打ち解け合ってるのを見た。うーん、解せぬ。
 




