06 オペレーター室騒動
普段めったに足を踏み入れない場所で行動するのってちょっと緊張するよな。
俺に、そんな事気にする繊細さがあるのかって?
あるに決まってんだろ、ばっか。
俺、北海道支部で、俺空気読んで大人しくしてたじゃん。
いや、ちょっと違うかもしんないけど。
牙さん、空気読める子だから。
そりゃ、あの時は色々ショッキング連発だったから、そのショックも影響してなくもなかったけど……。
……。
何か落ち込んでくるから、あの時の事は思い出さない方向でいこう。
一生で何か起こるたびに、あの出来事がものさしになっちまいそうだな。
もう手遅れです感が半端ないけど。
「どこに行ったんだよ。全然いねーじゃねーか」
そういう事で、しばらくウロウロしていたのだが、一向に見つからない。
影も形も何とかって奴。
オペレーター室は、そう広くもないはずなのに。解せぬ。
「見つかりませんね」
「何か見落としがあるのかもな」
たまたま同じ場所をしらべていた近藤さんとばったり会って、ため息。
何か根本的な前提を間違えているような気がしなくもない。
「つっても、見えるところにはいねーし……」
機会の隙間や、机の中も入念に見たのに、だ。
取りあえず、やみくもに捜していても意味はないので、手を止めて考える。何かまだ探してないところとは、どんなところなのだろう。
「人間を基準にして考えてるから煮詰まるのか? 機械だったら……。って分かるか、んなもん」
自分でいって、自分で突っ込み。
虚しくなってくるが、何か喋ってないとちょっとイライラしそうだ。
けれど、俺の言葉の内容について律儀に考えてくれた人がいたようだ。
「コンセントがさせる場所とか、好きそうですよね」
「んぁ?」
「だとしたら、どこだろう……」
言葉が途切れた俺の代わりに、近藤さんは思考を続けているらしい。
「近藤さんって、真面目なんだな」
俺の周りにはいない前向きな真面目タイプで、新鮮。
「え、そっ、そんな事は……」
近藤は、視線を向けられて事に気が付いたのか、少しだけ照れくさそうにする。
控えめな言動をしつつも、ちょっとしたことで大胆さをかいまみせる近藤さんは、そこがまた可愛らしく……。
はっ、いかんいかん。
ちょくちょく俺のツボついてくるな、この子。
俺にはいるだろ。
心に決めてる的な人が。
こう……。
うん、相手にされてるか分からないけど、無口でクールな才女さんが。
「あ、そうだ。ええと、ロボットさんがいるなら、クーラーが効いてる部屋? なんて関係ないですよね」
目の前の近藤さんは照れてるのか、話をそらすためか、そんな事を言ってくる。
そういや、図体のデカい機械を並べると、部屋の中が熱で大変なことになるとか聞いた事があるな。
まさか……。
脳裏に何かひらめいた様な気がした。
いくら探しても見つからないと言う事は、俺達が探している場所とは根本的に違うエリアに要る事になる。
人間のかくれんぼで考えるから、駄目なんだ。
俺は、部屋の中のある一画に向かっていく。
勝手に見ちゃうけど、許してね。
「ちょっと失礼」
ほいで、パカッと。
家庭用の物よりは若干小さめで、棚の上とかにおいても大丈夫そうなサイズのそれは、冷蔵庫だ。
こんな緊急事態に休憩するような奴いないわな。
中にはペットボトルが数本。
あとはのど飴だな。
これは、水分補給のために常設されている、冷蔵庫だ。
椅子に座ってるだけのイメージがあるオペさん達だけど、喋りっぱなしってのは意外と大変みたいで、のど飴だとか飲み物だとかが備えられてるみたいだ。
で、そういう冷蔵庫の中には。
「いたな」
アンテナ立てて絶賛稼働中の、小さなロボット発見だ。
動くと熱くなる気持ちは人間も同じだしわかんなくねーけど、そんな分かりにくいとこ入るなよ。
つまみあげて、指ではじいてやるとさすがアルシェ製。
インゲンみたいにびくってなって、のけぞった。
犯人採ったどー。
不思議そうにしていた近藤さんが俺の手元を覗き込んで感心した声を発した。
「牙さんすごい」
「それほどでも」
こういうとこで頑張んないと、俺の存在意義がなくなるもんでね。




