11 新人研修かなんかで習うん?
視線の先では、車から降りた人物……スーツを着た男性がビルの中へと入っていく。
その光景を見て、こちらも移動。
裏口の扉の前へ。
しかし……。
「ここからどうやって侵入しよう、とか考えてたんだけど、何でそんなあっさり?」
漫画やアニメみたいなピッキングをするにしても、そんな知識はないし、いっそ窓を壊すか……とか考えていたのだが、杞憂だったようだ。
「こういうのも習うのよ、慣れときなさい」
鮮やかな手並みで鍵穴に針金を差し込んでまわし始めた水菜の手つきを、理沙が自慢げに述べる。
マジかよ。
組織、色々と詰め込み過ぎじゃね?
ナイトメア討伐組織なのに、どこ目指してるんだか。
「……、これで開いたわ」
「早っ! 抗体組織ってなに!? ちょっと怖ぇよ!」
「アホな事考えてないで、さっさと行くわよ、見つかったら面倒だわ」
アホとか言うな。
ちょくちょく人の心見透かすのやめれ。
ともかく、そう長い時間外に留まっていられないのも事実だ。周囲への警戒を怠らないようにしながらも、建物内に侵入。もれなくコソ泥の気分になれるのがオマケだろう。
「……って、嬉しくねぇよ」
背徳感でテンションが上がらない所が減点だな。
建物の中には、まだ物が運び込まれてない影響で殺風景だった。
かろうじてマットの様なものは敷いてあるが、それを考えても寂しい光景だ。
窓があるので、灯りなどは付けなくとも不便はしなさそうだ。
「で、こういう場合はどこへ行けばいいんだろうな」
「とりあえず上でしょ」
「偉い人間は大抵、上。どこでも同じ考えか」
「そうじゃなきゃ、下に示しが付かないじゃない」
まあ、それらしい理由も一応あるんだろうけどな。深く知りたいとは思えない。
足音を殺しながら上へと向かう。
警備がザルい。
予想以上の甘さに、腑に落ちないでいると遅れてやってくるパターンだった事に気が付く。
上階へと進む途中で、一人の警備員と鉢合わせしてしまった。
「げっ」
「侵入者だぞ!」
一言言った霧、奥へと引っ込んで行く。
とたんに、そちらの方から大人数が動く音。
どうやら待ち構えられていたらしい。
大勢の黒服達が出てくる出てくる。
「二人は隠れていて、私が囮になるわ」
「けど……、ずっと任務だったんだろ?」
長い間続いていた任務を曲がりなりにも終わらせてきたのが昨日だ。
疲労が蓄積してないのだろうかと思えば、理沙に腕を引かれる。
「いったん引っ込むわよ。水菜に任せなさい。見た所、それほどレベルが高いようには見えないから、大丈夫よ。ここで時間を使う方が問題だわ、いま機会を逃したら、次にいつ予定を掴めるか」
「ちくしょう。分かったよ」
こういう時、率先して「俺に任せとけ」って言うのは、男の役目なんだけどな。
肝心のその俺が使えないのだから、仕方がない。
「その為にも……早く一人前にならねぇとな。くそっ」
「あたしと一緒の時はやる気出さなかったのに。色気づいちゃって、やあね」
「俺の純情、そんな風に言わんでくれます!?」
男の子の固い決意をそんな風に言われると、何か色々台無しになりそうで嫌だ。