06 何か面白いもんでもある?
それにて、色々あった普段とは意外買い物タイムは終了だ。
ショッピングモールから出て、本部へと向かうのだが、その道すがら、ふと理沙が足を止める。
「ん、何だ?」
「何でもないわ」
理沙が見ていたのは、仲が良さそうな男女の姿だ。
けれど、よく同年代の少年少女がイチャイチャしてるバカップルを見て騒いでいるが、そんなようなものではなく、彼女の視線の先にあったのは中年の夫婦だった。
じっと見つめてみるが特に変わった事をしているわけでもない。
視線の先にいるのは、ただ日常の話をしていて、ただ普通に笑い合ってるだけの人達だ。
「何だよ。気になるだろ」
「うるさいわね。詮索しないで」
「お前が気になるような事するからだろ」
「気になる? いやらしい事いわないでよ」
「そういう意味で言ったんじゃねぇよ、お前の脳みそどういう構造してんの!?」
まったくの濡れ衣と、とんだ誤解である。
憤慨して問いかけるが、理沙は口を尖らせたまま撤回する気はないようだった。
「男ってなんで、馬鹿ばっかりなのかしら。あんたも馬鹿の一人なの?」
「何だよいきなり藪から棒に、意味分かんねぇ罵り方だな」
せっかく見直しかけたというのに、やはり理沙は理沙なのか。
彼女は全力で通常運行だ。
急激な方向転換は、一体どこから飛んできた話題なのか、皆目見当がつかない。
それだけにこっちの口調も自然と荒くなる。
「お前のその口、治んねぇの?」
「人を病気みたいに言わないで」
「そうかい」
「……はぁ、世の中には子供と好きだった人も置いてっちゃうような馬鹿な人間ばっかりなの?」
「んぁ? なんか言ったか」
「別に」
だが、最後に呟かれた言葉がどういう事なのか分からない。
首をひねっていると、ふいにどこからともなく数人の男女が表れた。
黒服で統一した集団だ。
そいつらは、あっという間に前方の道を塞いで俺達の行く手を阻んでみせた。
「何だ一体」
「こいつら……」
何かを察知したらしい理沙は己の武器である鞭を、どこからか(本当にどこからか分からない)出して構えた。
「そんなに殺気をもらして、何なのかしら。予定が詰まっているから手短に尋ねるわ、私達に何か用?」
「抗体組織、東京本部所属。エージェント止芽久理沙。貴様を、交代組織の情報を漏洩させた容疑で処罰する。抵抗するのなら、やむおえない。上層部は、連行できなければ始末しろとの事だ」
「これはアンタ達に驚いて武器を出して見せただけだけど……っていう言葉は聞き届けてもらえないわよね、何て言ったって、あんたたち最初っから殺気を隠しもしてなかったもの」
唐突に始まった、物騒な会話。
先程までの日常が嘘のようで、その急激な展開にこちらはついていけない。
「おいおい、どういう事だよこれ」
「嵌められたのよ、誰にかは知らないけど。罪をかぶせられて、正当な理由で私を殺そうとしてる人間がいる」
自分が罪を犯してないって事は、微塵も疑わない理沙に驚嘆するべきか、呆れるべきか。
とにかく、まずい状況だという事は理解できた。
「殺すって……。それってやばいんじゃないか?」
「ヤバいに決まってるでしょ、だから……」
理沙は、何か筒状の物を取り出して、目にいる集団へと投げつける。
「今は、逃げるわよ!」
瞬間に閃光。
目がくらむ様な光が発せられた。
間抜けにも目つぶしを正面からくらってしまった俺だが、その腕をおそらく理沙が掴んで引っ張って走らせた。
「アイツ等に話してたって無駄。反撃するだけの時間をまずは稼がないと」
化物との戦闘で生き延びたと思ったら、上司に目を付けられて、今度は仲間に殺されそうになるとか、非日常って冷静に考えると怖ぇな。




