IF3 未踏鳥を倒すため?
「船頭牙、お兄さんの目的って何?」
アルシェが尋ねてきたその言葉に俺は間初入れずにこう言った。
ーー未踏鳥を、あいつをぶん殴る事だ
と。
そしたら、突然の急展開。
天井の板がぱかっと開いて、その奥にある闇の中から現れたのはパンチングマシーン。
ゲーセンとかに置いてありそうな、真っ赤なあれだ。
で、そんなもんが登場したなら、起きることは一つだろ。
「え?なにこれ」みたいな心境になってた俺は、避ける事もできず、赤い塊ににぶん殴らた。
風を切るような速度で、部屋の外にぶっ飛ばされたのだ。
理沙が驚いた顔して俺に駆け寄ってきた後、あいつがいた部屋の扉がどういう原理か分からないが、自動的に閉まった。
あのむかつくお子様にお灸を据えてやろうと思って、扉を叩いたけど、うんともスンとも言わない。
これはあれだ。
いくら凡人の俺でも分かる。
ーー選択肢、間違えた。
頭を冷やすために組織の建物から出て、適当にそこら辺をぶらついてたら、理沙がおまけでついてきた。
「ねぇ」
はぁ。
こういうのってあれだよな。
もうちょっと考えて動くべきだったよな。
いくら頭ん血が上っていたとはいえ、見失っちゃいけない大事な事があるよな。
「ちょっと」
俺はそこんところを間違えちまったらしい。
こんな体たらくんじゃ、水菜を助けらるわけがねぇ。
気合入れなおさねぇとな。
ほっぺぺちぺち。
「あんた。歩くの早いわよ」
「いや、ついて来てほしいなんて言ってねぇから。なんでついてきてんの?」
とりあえず後ろがやかましかったので、振り返りと理沙に「はあああ?」という顔をされた。
「あんた、人が心配してあげてるっていうのに、その言い方はないでしょ!」
「え? 心配してくれてんの? お前が?」
いやまあ、こいつがそんなに酷い奴じゃない事くらいわかってるけど。
あの流れで心配してくれるとは思わなかったから。
だって、ほらお前って水菜が大事じゃん。
「どうしてそこで信じられないような顔すんのよ。目の前でぶっ飛ばされたら誰だってびっくりするでしょ!?」
「ああ、なるへそ」
つまり怪我とかしてない?
的なそれか。
人類全員に共通に抱く隣人愛てきなものかな。
「だいじょびだいじょび。小さい頃は落ち着きがなさすぎて、しょっちゅう家の階段から転げ落ちてたから、受け身とか得意だし」
「……だからあんた頭がおかしくなったのね」
そこはほっとするところで、さげすむシチュエーションじゃないだろ。
理沙の視線を手で払いのけた俺は、歩いてきた道を指し示す。
「つーわけで怪我なんてしてねーから大丈夫だ。ほれ、回れ右」
今度は別の意味で、しっしって手を振ったら払い落とされた。
「人を犬っ頃みたいに扱うな! あんたってほんと、もう!」
今のはちょっと酷いかなとは思ったよ。
悪かったな、謝るよ。心の中で。
地団太ふんでる理沙を見てると、もうちょっとからかってやりたくなるけど、自重。
まがりなりにも心配してくれた奴だしな。
なんて思ってたら意外にけっこう理沙が善人してた。
「だ、大丈夫なのかっていうのは怪我の事じゃなくて、あんたの中身の事よ」
「え?」
「だから、どうしてそんな顔……、ああもう話が進まないじゃない! 部屋から追い出されたとき酷い顔してたから、気になって」
また脇道に逸れそうになったが、理沙がきばって進路を戻した。
俺は彼女の言葉を聞いて納得する。
一応エージェントとして頑張ってる身分だけど、出会いが出会い。
メンタルひよってるとこみられちまったからな。
俺は気まずくなりながら、頭を掻く。
今度こそもろもろの意味を込めてきちんと謝罪。
「えーと、その。悪かったよ。大丈夫だ俺は、心配かけちまったな。でも、今一番大変なのはきっと水菜だろ? だから落ち込んでなんてられないって思ってるからさ」
俺のために表情をゆがめていた、クールなはずの才女さん。
水菜の声や顔が、普段表には出ない細かな感情が、俺の心にとげを突き刺してくる。
きっと、たぶん俺たちが思っているよりも、何倍も悲しい思いをしているんだろう。
だから、水菜にもうあんな思いをさせたくない。
「またアルシェのところに行ってみる。そん時は、お前も協力しろよ。水菜の友達なんだろ?」
「……あったりまえじゃない」
俺の顔を見て、もう大丈夫だと思ったのか、理沙が胸をたたいた。
「はぁ、心配して損した。疲れたから、なんか奢りなさいよ。そこらへんの自販機のジュースでもいいから」
「えぇ? なんでだよ、追いかけてきたのはお前の判断じゃん。俺今月のお小遣いかつかつなんだよ」
「男のくせにケチ臭いわね、それくらいいいじゃない」
俺達はその後はぎゃーすか言い合いながら道端を歩いていく。
余計疲れちまったけど、ご愛敬だ。
でも、理沙のおかげで少しだけ元気は出たたかもな。
一人でいるよりはよっぽど良いはずだ。
へこんでられないって思っていても、それはマイナスがゼロになっただけで、プラスじゃないし。
そういう面では、理沙のやつに感謝してやらねーと。