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ナイトメア ~白銀の契約~  作者: 仲仁へび
第二章 流水の絆
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17 結末



 未踏鳥との戦いに決着がついた。 

 もしかして、死んでたりしないよね。


 なんて、小市民的な事考えておののいていたら、相手の意識が戻った様だ。

 良かった生きてた。


「……」


 気が付いた憮然とした表情のその男を、今度は俺の方から見下ろしてやる。


「水奈を道具扱いすんじゃねぇ」


 これで、先ほどとは逆の図だ。


「貴様、こんな事をして分かっているんだろうな」

「お前こそ自分の置かれた状況理解してんのかよ」


 顎で周囲を示す。牙の視線の先にはたくさんの来賓達がいた。


「……そういう事か」


 察しが良くて助かるぜ。


「約束してくれんなら、何とかしてやってもいいんだぜ」

「……」


 反応はない。

 言われて素直に首を立てに振る様なやつじゃないか。

 牙は集まった連中へ笑顔を向ける。


 まあ、好きにやらせてもらうとするか。

 それを借りだと思うか、勝手にやった事だと思うか、どっちになるのか分からないのは怖いが。


 何も知らない奴をビビらせたままにするのはちょっと違うよな。

 罪悪感が仕事しだすし。

 俺はとりあえず、集まって来た者達にかしこまった態度で、話しかける。


「あーお騒がせしましたみなさん、デモンストレーションは楽しめましたか」


 もともと静かだったのに、さらに静まりかえった気がした。

 こういうの緊張しない性格に生まれたのは、助かるよなほんと。


「当館はこのように盛大にやんちゃしても壊れない頑丈さを誇ってまーす。百人乗っても大丈夫なアレ的なあれだ。つーわけで、今後ともご贔屓よろしく。はい拍手」


 拍手はない、と思ってたが。何人かが応えた。

 あれだな。やっぱ未踏鳥って性格悪いんだろうな。

 学生時代とか、取り巻きとかはいても友達とかいなさそうだしな。

 ライバル会社とか、そこら辺がザマーミロとか思ってそうだ。


 説得力? 知るかそんなもん勝手に他の奴に考えさせればいいだろ。

 場をまとめてやっただけでもありがたく思えっての。

 未頭鳥の事ははっきり言って気にくわないが、表面上だけでも顔立てといてやった。本当に表面上だけだが。





「来ないな」


 そして、次の週末。

 俺は公園にいた。近くには理沙とアルシェの二人。

 今日はアレだ、色々関係者に礼とかしないといけない日だ。

 アルシェのゲートの力は分かってる。俺が頼んだんだしな。

 助力は必須だったし、そうでもしないと隙が作れそうになかったから。


 しかし問題は理沙だ。あの時、俺が最後に未頭鳥を殴った時、ほんのわずか……、瞬きほどの間だが、あいつの動きが止まった様な気がしたのだ。気のせいだって言われればそうなのかもしれないけどな、まあ俺がすっきりするためについでにお礼として、消化する事にした。作戦考えてもらった恩とかもあるしな。

 俺の財布持つかな。


 そんで今は、じれじれしながら最期の一人を待っていると言う状況。

 そんな中、理沙たちが俺を種にして会話し始める。


「まだ三十分も前なのに、どんだけ張り切ってるのよ」

「兄さん今まで彼女とかいなかったでしょ」

「うるせぇ」


 日差しの下で暇してるからって俺に的を絞んな。

 それを言うならお前等だってだろうが。


「私は、アンタの財布が目当てなのよ。アンタの要求がとうって、喜んでるとか勘違いしないでよね」

「理沙姉バレバレだよその言葉」

「はあ? そんな事言ってないわよ、もし聞こえたんだとしたら、それは幻聴。アンタの耳がおかしいんじゃないの?」


 アルシェの足を踏んづけようとする理沙だが、さっとかわされ痛い思いをしている。

 避けれるからアルシェはお前をつついたんじゃゃねーの?

 分かってたところで、我慢できそうな理沙ではないだろうが。


 そんな風に会話して時間を潰していると、視線の先、公園の敷地外に高級車が止まるのが見えた。

 その車から降りて来るのは水奈。運転席にいるのは未踏鳥(みとうどり)だ。


「あ? 何であいつが一緒にいるんだ」


 声が低くなるが仕方ない。だって俺二回もスーパーボールにされたんだぜ?

 水奈は運転席にいる未踏鳥みとうどりに頭を下げ、二、三こと言葉を交わしたのちこっちに歩いてくる。奴はこちらを一瞥して、車を発進。視界から消え去った。


 目の前にきた彼女は不安そうにまず時刻を気にしてきた。


「待ち合わせ時間、間違えた?」


 ちなみにまだ予定の十五分前だ。

 その律義さ、嫌いじゃないけど、もうちょっと心にゆとり持って生きようぜ。


「水奈は普通だ。うっかりしたんだよ、俺が」


 詳しく聞かれたら寝ぼけてたとか言っておこう。


「ヘタレ」

「兄さん、ヘタレだね」


 うるせぇ。待ち遠しくて、なんて言ったら変態! とか言ってたくせに。


「で、何であいつと一緒にいたんだ? まさかまたイジメられてたとかないよな」

「違う。送ってくれただけ」

「ホントか?」

「本当よ」


 じっ、と水奈の顔を見る。するとなぜか、ほんの少しだけ動揺される気配。で、顔をわずかにそらされた。

 おいおい、何だよ。そんな反応されたら不安になるじゃねーか。


「あれから本当の本当に、何にもないんだよな」

「ないわ。あなたのおかげで。ありがとう。本当に……その、あまり見つめないでほしい」

「困ってないならいいけど」


 水菜は、今度は顔をそらさなかった。

 嘘を言ってはいないようだ。

 ふっと胸を撫で下ろす。


「姉さん、見た今の?」

「しっ、気づいてないままにしておくのよ」


 おい、外野うるさい。


 けどなんつーかあの野郎、もっとねちねちしてくると思ってたけど、意外と大人しいっていうか、拍子抜けなんだよな。

 ちゃんと条件守ってるみたいだし。


 あんなに嫌悪感示してたのに、一体どういう心境の変化なのやら。


「例の件なら、もう大丈夫だと思う。約束を破ったりはしないはず」


 まあ、水奈がそう言うのなら。

 あえて追及しに行こうとは思わないし、信じてやるよ、けっ。

 あんな野郎を信じるとか、かなりとても物凄く不本意だけどな、へっ。


 強引に納得した所で、あらためて水奈の私服を観察。

 白いシャツに、薄手の水色の上着。そして今日はズボンだ。

 頭にはつばのついた帽子があった。


「ラフな格好も似あうな」

「そう、……ありがとう」

「もうちょっと気の聞いた事いいなさいよ」

「理沙姉、あんまり言うとお姑さんみたいになるよ?」


 外野がまた何か行ってるがもう聞かない事にした。


「この帽子、昔あの人に買ってもらったもの。昔は……よくしてくれていた」

「マジか」


 あの陰険な態度しか知らない身としては、想像すらできない。


「心配いらない。最近は私が拾われた頃みたいにしてくれてる」


 そんな俺の内心が分かったのか、水奈は淡く微笑んだ。


「親子ではあるけれど、あの人は他の人の事も考えなければならない。ウイルスの抗体を作るために私の協力が必要だったから、苦しかったのだと思う。それで、立場もあって、少しづつ距離がひらいてしまっていたの」


 だからってなぁ。

 実際にあの場面を見てしまった俺としては、許容しかねるなかなかの暴言だったと思うのだが。


 しかし、そんな複雑な思いも、次の一言で吹っ飛んだ。


「父親として過ごすということが分からなかったのだと思う。私がエージェントとして以外の生き方を知らなかったように」


 父?

 ファザー?。

 え、何それ。

 どこかで聞いた事のある単語だな。

 いや、割と良く聞く言葉だけど。


 驚愕していると、理沙から補足の様にその事実を言われる。


「牙、あんた知らなかったの? 未頭取みとうどり組織長のことよ」


 な、何だとぉ!

 俺、水奈の義理のオヤジをどついたのかよ。


 いや、ちょっと考えれば分かる事か。

 水奈は組織に拾われたんだし、アイツは組織のトップなんだし。


「言ってなかった?」

「聞いてないです」


 ホント、びっくり。

 それ聞いてればもうちょっと、俺も考え……あ、やる事そんな変わんなかったわ。


 だが、そうだというのなら、最後のフォローはしておいてよかった。

 すずめの涙ほどだったが、俺のせいで仲間の親父が失脚とかなってたらさすがに困るし。

 組織の状況を見る限りは、大丈夫そう……だよな。


「丸く収める方選んでよかった。いやマジに」

「貴方のおかげ、ありがとう」

「いや、水奈が気にする事じゃねえって。俺が嫌だったからそうしてだけだし。船頭牙が船頭牙であるために、なんてな」


 勢いだ。すべては勢いが悪い。

 ガラにもない事を言ってしまった。


「格好つけ、似合わない」

「兄さんには似合わないね」

「お前等……」


 本人が一番良く分かってるよ!

 めっちゃ後悔したもん!


「お礼がしたい、何が良い」


 水奈さん顔近いですよ。

 俺そういうつもりで呼びだしたんじゃないよ!?

 ちょっとしたゲーム攻略のオフ会みたいなノリで行こうと思ってたよ!?


「別にそんなん気にすることじゃねーってさっき言って……」

「アタシは気にするわよ。牙、忘れないでよね」

「兄さん、僕には何か美味しいものおごってよ」


 そこの背景、少し黙ってろ。


「本で読んだことがある。男性と待ち合わせして、出かけたとき何をすれば喜ぶのか……」


 嫌な予感。

 いや、良い予感でもあるけど。相対的にみれば、その後の事も考えて嫌な予感だ。

 水奈は牙の腕をとった。


「ふぁおっ!!」


 そして、


「……!」


 頬に柔らかいものが押し付けられる感触がした。


「みっ、水……奈、なななななな」

「あーこれ、僕達邪魔?」


 背景が何か言ってるが耳に入ってこない。


「嬉しい?」

「うおああああっ!」


 俺はその場に無様にひっくり返った。

 耳元に息がかかる程の距離でささやかれてそういうリアル的な桃色的なソレに耐性のないので、何か色々限界だったのだ。



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