12 膝枕は嬉しいけど…
意識が覚醒してまず自覚したのは、体の痛み。
尋常じゃないほど、全身が痛いという感覚だ。
我慢できないほどじゃない。けれど、これを引き釣りながらの日常生活は正直きつそうだ。
そんな事を考えながら、おくれてやってきた、第二の感覚に首を傾げたくなる。
やらかい。あったかい。
「体はどう?」
声が聞こえて来て、視線を向ければ真上に……予想以上の近くに水なの声。
えっと、俺の横には水菜のお腹があるんだけど。それってつまり?
目が覚めたら美女に膝枕されていた。
「……えぇ!」
あ、膝枕って思ったより気持ちいいな。
じゃなくて、どういうアレだよコレ。
ダイジョウブ、オレ怪我人。コレ正当ナ権利。
いや、そんな風に割り切れたら動揺なんてしねぇよ。
場所は一応ベッドの上だ。
水菜さんベッドの上でなんでわざわざ?
「調子は?」
「平気、だけど。疲れねぇか? ってか、痺れてねぇか?」
「問題ない」
すごく近いところから水奈の声がするのに慣れない。
ひょっとしてこんな感じで今まで見られてた?
やだ、恥ずかしいっ。
手のひらで顔を覆って乙女みたいな事をやってると、無視わけ無さそうな声が降って来る。
やべ、振って来るとか新鮮すぎる。
「ごめんなさい」
「何でお前が謝るんだよ」
「ひどい有り様だった。もっと早く止めることも出来たのに」
「仕方ねぇよ」
相手は組織のトップでもあり、水奈に恩を売ってる人間だ。
そんなこと構わずに殴れるのは何も知らない第三者ぐらいのもんだろう。
俺みたいな右も左も前も後ろも分かんねぇような入りたての新人とかな。
それに、誰かに頼まれたからとかじゃない、自分の為でもあったんだし。
あの事を、水菜が気に負う事は一つもないのだ。
そう思っていると、柔らかな手で頬をなでられ、くすぐったい感覚に襲われる。
「ひゃいっ!」
いきなり何ですかもう、水奈サン。フラグですか? 勘違いしちゃいますよ?
「ひゃいって……?」
「何でもないです。」
気が済んだのか、水奈は手を離す。
あぁ、すりすりが……。
名残惜しい思いを堪えつつも、頭を上げる。
本音を言えば、もう一時間も二時間も一日中だて堪能していたい気分だったが、それだと相手に悪い。
「で、さっきの体勢の意味、聞いて良い?」
「デートの後、部屋で男の人はこうしてもらうのがいいって本で書いてあった」
「確かにデートの後だし、部屋ではあるけどな」
間違いではない。間違ではないが。
彼女の中の常識力、一体どうなっているんだろうか。
微妙に確かめるのが怖い。
間違いではないのに間違っているという事実に悶々としていると、水菜の手の平が赤くなっている事に気づいた。
「昼間の戦いで怪我したのか?」
水奈は首を振る。
「気にしないで」
「気にするなっていわれてもな。そういえばあの後どうなったんだ? 俺が倒れた後……」
「あなたは気にしなくても良い事」
「良いわけないだろ」
水奈の声が少しだけ固くなったような気がした。
くそ、そういう事かよ。
詳しくは分かんないけどやっぱ、結局水奈を苦しい目に合わせちまったのか、俺。
不甲斐ねぇな。
「良い奴が苦しむのはやっぱ間違ってる」
「……」
「俺さ、不公平な世の中とか弱肉強食とかって大っ嫌いなんだよ」
「……」
「だから特別な人間に憧れて、そんな奴にやっとなれたってのに情けないよな」
「……そんな事、ない」
水奈は顔を近づけて言う。
うわ、ちょ水奈サン。せっかく離れたのに、まだ急接近とか、俺の心臓持たないから。
髪がくすぐったいし、頬に触れてるし、息がかかるくらいの距離だし、鼻とかくっつきそうだよ!? 誰得? 俺得だ!
「心配だった。私のせいで傷つかないでほしいと思った。けれど、ほんの少し……嬉しかった」
「そ、そっか……」
力から体が抜けてしまった。
そこで満足しちゃ駄目なんだろうけどな。
かっこ悪いとこ見せたばっかりで、足りないばっかりだったのだが、自分のやった事が全くの無駄ではなかったと言われたようで、その言葉で報われたような気がしたのだ。




