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11 制止
船頭牙はもう、明らかに意識がない。
だと言うのに、未だに暴力は続いていた。
「こんなのひどい」
血痕の飛び散る部屋の中。
遅れて部屋にかけつけた理沙は目の前の光景にただ圧倒されている。
彼女では組織長を止めることはできないだろう。
ならばそれば水菜の役目だった。
いつもならば、敵対する勢力や他の企業の人間に嫌みや小言を言われたところで、眉間に皺をよせるのにで全く動じない目の前の男。
その男を何とかできる可能性があるのは、曲がりなりにも書類上だけでも家族関係にある水菜だけだ。
一向に終わる気配を見せないその暴力を止めるために声を張り上げる。
「組織長! もう止めてください」
だが、目の前の暴力の嵐は止まない。
「止めて……下さい……っ、…………もう、止めて!!」
張り上げる様に部屋に響かせた声に、未踏鳥はようやく手を止めた。
天井に叩きつけられていた牙の体が床へと落下する。
水奈は走り寄ってそれを受け止めた。
「医務室へ運ぶわ」
「し、失礼します」
理沙と共に急いでその部屋を退出していく。
背後は振り返らなかった。