10 格の違い
未踏鳥の執務室に辿り着いた俺は、精一杯向かいに面する男を睨みつける。
本部に戻る道すがら理沙から聞いた情報を元に、俺は相手に対峙していた。
相手の能力は万有引力。
存在するもの全てを基点にして、重力を扱うことが出来るという力だ。
「いいだろう。そんなに死に急ぎたいのであれば、私が直々に貴様の墓を作ってやる」
相手が承諾の言葉を放つが否や。
先に手を打たせては勝てないという理沙から聞いた言葉を思い出し、即座に行動。
「先手必勝!」
能力を使った。
氷結の世界を作り上げ、冷気で相手の行動力を奪い殴り倒すつもりだった。
だが……。
最強の一撃をぶち込むつもりだった拳は届かない。
「愚かな、この程度の力で私に意見しようとは、適当に痛めつけて許してやろうかと思ったが気が変わった」
相手は、避けていた。
それに……。
部屋に満ちていた冷気が一瞬にして消失している。
見れば、氷の塊が相手の手の上にできただけだった。
まさか、冷気を集めたとでもいうのか。
そこまでできるなんて聞いてない。
「私に逆らった事を後悔するといい。生きたまま地獄を見せてやる」
「がっ……、うぐ……っ」
その後の展開は一言で言えば、最悪だった。
卓球のボールにでもなったかのような気分だ。
部屋中の壁や床の引力を操り、玩具の様に振り回された。
跳ねて楽しい玩具じゃんだぞ。なんて事しやがる。
文句を言いたくても、口に出す余裕がない。
遅れて部屋にやって来たらしい理沙が悲鳴交じりの声をあげる。
「牙!」
「止めてください!」
俺、そんなひどい事になってる?
床にべしゃっと倒れた姿勢から見れば、
全身が傷だらけだたし、あちこちに作った傷口から流れた血を部屋中にまき散らしていた。
なにこれ、こっわ!
そんな俺の横に、奴が歩いてきた。
ムカつくほど余裕のある足取りだな。
「小僧、謝罪の言葉はあるか」
「誰がお前なんかに……ぐぁっ!」
踏まれた。
どこを、とは明確には言わないでおこう。
俺にもプライドがあるんで。
あ、それじゃあ、分かんないですよね。
じゃあ、ちょっとだけ。
頭だよ、くそいてぇなテメェ! 現在進行形で、力こめてんじゃねぇ!
頭をあげて、立ち上がろうとするのだが、今までの力加減は序の口だったとばかりに、浮いたところを再度床にごっちん。
あ、やべ……。
一方的な暴力の後にトドメをさされた形となった俺は、徐々に意識が遠のいていく。
どうやら敵は、逆立ちしたって敵わない格の違いとやらを持っていたようだった。




