08 暗雲
戦闘面で、まったく当てにされていない、役に立たないなんて男にとっては地獄の様な状況を堪えつつも、避難誘導をこなして、理沙たちと合流した。
たまたま近くに他のエージェントがいたおかげで、怪我人は出なかったようだ。
その幸運には素直に感謝の気持ちだった。
前の時の悲惨な状況はもうこりごりだったし。
そんで、戦闘終結後。
記憶処置中(抗体組織メンバーにいるそういう専用の班が、ナイトメアの記憶を別の記憶とすり替える能力を発揮して)に、あいつらの姿を探していた。
本部からやって来た応援の、他の抗体メンバーが司会の中ではウロウロしているんだけど、ちょっと目を離したすきに、見知った彼女達を見失ってしまったのだ。
こんな時にどこにいるんだ?
疑問に思いつつもふらふらしていると、理沙がやって来た。
「お前か」
「私で悪かったわね」
「水菜は一緒じゃないのか?」
「それが……」
水菜と言えば理沙。理沙と言えば水菜。……みたいなツーセットでいるところを見るのが日常となっていたので疑問に思えば、理沙は一瞬口ごもった後に、信じられないような事を述べて来た。
一般人に被害を出したという事で、水奈は牙たちが手当を受けている最中に支部へと連れていかれてしまったという事らしい。
「何でだよ、被害なんて出てねぇじゃねぇか!」
戦力にならない思いを紛らわすかのように、それはもう一生懸命やったからな、この俺が。
逃げ遅れた子供とかもおんぶして走ったし、建物の中に人がいないかとも十分に確認して周った。
ジメジメしてるとキノコ生えそうな精神だったからな。くそ、ブーメラン!
「世の中には、成績の良い奴を妬む人間とかもいるのよ。抗体組織は一枚岩じゃないの」
「守るのが仕事なんだろ、よくやるぜ。何だよ……ほんとに」
正義の味方だと思っていたのに、最近は幻滅してばっかりの様な気がする。
「そういう人間ばっかりじゃないわよ。それよりまずいわ、事の真偽はともかく、あの人がいる間に水奈の失敗が耳に入ったりなんかしたら……」
「失敗なんかしてないだろ」
「どっちでもいいのよ、あいつには。組織のトップなら示しを付ける為に必ず対処しなくちゃいけない、必要なことでしょ」
「はぁ? 何でやってもいねぇことで、罰せられなくちゃならないんだよ」
「仕方ないのよ、それが大人の事情って奴なんだから」
分かりたくない事ばっかりだ。
弱い奴を守る正義の味方なんじゃないのかよ、お前らは。
何も悪い事をやってない水菜が犠牲になるなど、どうしても認めたくなかった。
「助けに行く」
「ちょ、何言ってるのよ。こんなのいつものことよ。絶対絶命のピンチでもないし、命を賭けた戦いでもない、余計な事をすれば……」
「いつもの事だって割り切れてないから、お前はそんな顔してるんだろ」
「え……」
今にも泣きそうな顔をしている里沙。
それを見れば、彼女がま平気になど思っていない事は、簡単に想像がついた。
平気じゃないくせに、大人ぶりやがって。ホント馬鹿だよな。顔に出てるし、説得力ねぇよ。
「お呼びじゃない場面だろうが活躍してやるよ。良い奴が泣くなんて、そんなの許せないからな」
俺が俺である為に、見過ごすわけにはいかないんだ。
船頭牙は、弱い人間の為に立つ。
そういう人間いずっとなりたかったのだから。