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シンクロナイズド・ダイバーズ  作者: 木天蓼 亘介
13/27

第13話・終わりの始まり

 


 “ビ~、ビ~、ビ~、ビ~、ビ~”

 その時、けたたましいサイレンがガリレオ内に鳴り響いた。


 〔緊急警報、ただ今南極と北極の両極点で磁力震が観測され、GOTUNよりブロッケン警報が発令されました。繰り返します。ただ今、ブロッケン警報が発令されました〕

 〔コードアルファを発動、第1種戦闘配備〕

 〔了解、コードアルファ発動します〕

 サンドラに続いてオペレーターの少女の言葉が聞こえてきたのと同時に、マイの前からスクリーンが消えていた。

「司令」マイが叫ぶ。

 だが、その声はもうサンドラに届くことはなかった。


 その頃サンドラには、オペレーターの少女たちから次々に報告が入っていた。

「司令、両極点の磁力震なおも増大中」

「ヘルゲートは?」

「映像、メインスクリーンに出します」

 メインスクリーンに映し出された両極のヘルゲートは、内側から押し寄せるように渦巻く漆黒の何かを必死に押し留め、押さえ込もうとしていた。

「ヘルゲート出力最大。ですが、このままでは長くはもちません」

 オペレーターの少女の言葉通り、圧倒的過ぎる力によってリングが内側から押し広げられていく。

 そしてヘルゲートは呆気なく崩壊し、そこに出現したのは“穴”だった。

 そしてその中から、何かが姿をあらわした。

 それは、穴の大きさからは想像が出来ないほど不釣り合いな、超巨大な物体だった。

「あれは、まさか?」

 穴から上に向けてひたすら伸び続けるそれにサンドラは見覚えがあった。

 それは、大きすぎることを除けば、つい数日前にガリレオを串刺しにした、あの蜘蛛の脚のようなブロッケンにそっくりだった。

「今度は何をするつもりだ?出撃可能なギアを全て出させろ。あれを破壊する」

「司令、ブロッケン急速接近、迎撃間に合いま・・・」

 “ドガガガガガガガガガガガっ”

 次の瞬間、オペレーターの少女の悲痛な叫びを掻き消すかのように、何かに掴まらなければ立っていられないほどの激しい揺れがガリレオを襲っていた。

「現状報告、映像出せ」

 メインスクリーンに次々に映像が映し出されていく。

「なんだこれは?」

 サンドラが驚くのも無理なかった。

 地球の両極から伸びる2つの超巨大な塔が途中で枝分かれしながら無数の蜘蛛の脚のようになっていた。

 しかもその全ての先端には鋭く湾曲する鈎爪があり、まるで獲物を捕らえたかのようにガリレオに深々と突き立てられていたのだ。

「被害状況を報告しろ」

「ブロッケンの脚の数は計666本。その全てが5つある装甲隔壁を貫通しガリレオ内に到達したもよう」

「また小型のブロッケンが来るぞ。

 爪が到達したエリアの隔壁を全て閉鎖し衝撃吸収ジェルを注入しろ」

「司令、まだ避難が完了していません」

「そんなことを言ってたら手遅れになる。ためらうな、隔離閉鎖だ。

 民間人の脱出船への避難も急がせろ。ギアの出撃はまだか?」

「司令、ギアの格納庫と連絡が取れません」

「なに?」

「監視衛星のカメラで確認しました。8ヵ所あるギアの格納庫全てにブロッケンの脚が突き立てられています」

「格納庫内を映せるか」

「映像、切り替えます」

「!?」

 そこに映し出されていたのは最悪の結末だった。

 天井や壁を貫いて格納庫内に突き立てられた脚から、数え切れないほどの小型ブロッケンが涌き出るように姿をあらわしたかと思うと、それらが融合しながらアメーバー状になって、待機していたギア、ギアアイン、AIギアを次々に飲み込み侵食し、ブロッケンに変えていく。

 そして、それらのブロッケンが格納庫内を破壊し始めていた。

「バカな!ヤツらパイロットもなしでどうやって?コックピット内を映せるか?」

「やってみます。・・・映像出ます」

 映像が切り替わり映し出されたコックピットの中には、人の形をした2体のブロッケンだった。

 ブロッケンが身体を重ね合わせるように立ち、ギアを操っていたのだ。

「そうか、そういうことか」

「司令?」

「この前の戦闘でパイロットの脳を深層心理まで侵食したのは、ギアの操縦をマスターするためだったのか。・・・くそっ。」サンドラはイスの肘掛けを握り拳で叩いていた。

「司令」

「格納庫内に衝撃吸収ジェルを注入、ブロックごと宇宙に射出し自爆させろ」

「了解、全格納庫、隔壁閉鎖。衝撃吸収ジェルを注入、更に射出、自爆モードにフェーズを移行します。・・・司令、ブロッケン化したギアが次々に隔壁を破壊、姿を変えギア搬入用トンネルやリニアトレインのトンネルを通り、他のブロックへ侵攻しています。ジェルの注入が間に合いません」

「他の脚からも次々に小型ブロッケンがガリレオ内に侵入しています」

「ブロッケンが侵入した箇所をエリアごと封鎖、衝撃吸収ジェルを注入しつつパージし、宇宙空間で自爆させろ」

「エリアごとですか?」オペレーターの少女は、驚きを隠せない様子でそう聞き返していた。

「そうだ、急げ」

「司令、大変です」間髪入れず、もう1人の少女が叫ぶように声をあげる。

「何事だ?」

「ガリレオが地球に引き寄せられています」

「なに!?」

「ガリレオを掴む脚状のブロッケンが、ガリレオを地球に引き寄せています。ほんの僅かですが、ガリレオは地球に向かって移動を始めています」

 オペレーターの少女がそう言いながらキイボードを操作すると、蛛の脚に引っ張られて地球に向かう、ガリレオの予測軌道がCGでスクリーンに映し出されていた。

「ガリレオを地球に落とすつもりか?逆噴射」

「了解、逆噴射」

 ガリレオから無数の青白い炎が噴き出し、降下速度が落ち始めた。

「各ステーションに要請したギア部隊はまだか?」

「司令、各ステーションから返信、ギアはブロッケン化される恐れがあり、これ以上パイロットを失うリスクは避けたいとの理由で、援軍はAIギアしか出せないと言っています」オペレーターの少女の悲痛な声が響いた。

「バカな!!このままガリレオが衝突したら、地球上の生命は間違いなく滅亡する。

 いや、地球そのものが消滅するかもしれないのに、なにを悠長なことを・・・」

 “ドゴォォォンっ、ドゴォォォンっ”

 その時、あらたな爆発音と共に細かな振動が指令室に伝わってきた。

「何事だ?」

「司令、ブロッケン化したギアがガリレオの外に出て逆噴射用のスラスターノズルを次々に破壊しています」

「くそっ」

「司令、大変です」もう1人のオペレーターの少女があげたその声は、叫びと言うよりも、悲鳴に近いものだった。

「今度はなんだ?」

「最高評議会がガリレオの自爆を決定しました」

「なに?」

「自爆コードが承認され、起爆装置が2つとも既に作動しています。カウントダウンタウン進行中、ガリレオは650秒後に自爆します」

「バカな、そんなバカなことが、・・・」

「最高評議会のメンバーはすでにガリレオを脱出し月に向かっています」

「くっ、非常事態を宣言」

「了解」オペレーターの少女が赤い大きなボタンを押すと、非常事態を知らせるアナウンスが流れ始めた。

『緊急警報、緊急警報、ただ今、ガリレオに非常事態が宣言され、自爆装置が作動しました。ガリレオは600秒後に自爆します。まだガリレオ内に残っている人はただちに脱出用シャトルに搭乗してください。ガリレオ内には多数の小型ブロッケンが侵攻しています。避難の際には必ず武装してください。これは訓練ではありません。繰り返します・・・』

「司令・・・」あまりに絶望的な状況に、不安に駆られたのだろう。

 オペレーターの少女の1人が今にも泣き出しそうな顔でサンドラを見つめていた。

「そんな顔するな。医療エリアと拘置所はどうなっている?」サンドラはいつもと変わらぬ口調でそう聞き返した。

「はい、医療エリアは脱出船に収納されガリレオを離脱しました。拘置所はこれから移動を開始します」

「分かる限りでいい、ブロッケンの脚が突き立てられた箇所の被害状況を報告。

 それから、マイ・スズシロが隔離されている爆発物処理室のジェルを排出しろ、大至急だ」

「司令、ツルギとハーケリュオンはどうしますか?」

「ハーケリュオンをリニアカタパルトに移動させ、月に向かって射出しろ。

 ツルギは後回しでいい。今はマイが最優先だ」

「司令、拘置所の区画エレベーターが作動しません」

「なに?しかたない、拘置所を開放し全員徒歩で脱出船に避難させろ」

「司令、大変です」

「どうした?」

「爆発物処理室との回線が途絶、通話もジェルの排出も出来ません」

「なに?ということはマイの生死も分からないのか?」

「はい。どちらにしてもジェルを排出するには直接処理室まで行き、手動でポンプを作動させないと・・・」

「分かった、私が行く」

「え?」

「もう時間がない。キミたちは早く脱出船に行きなさい」

「司令、月で待ってますから・・・」

「ああ、必ず生きて会おう、約束だ」

 サンドラはそう言うと腕時計の文字盤を囲むリングを右に回した。

 すると、壁がスライドし奥から何かがせり出てきた。

 それはパワードスーツだった。

「A装備を追加、それとパイロット用のスーツをプラグインして」

 〔了解〕

 そう命令しながら彼女がスーツを装着している間に、穴の奥から全身に兵装を備えたフレームと、もう1機のスーツが姿をあらわし、それぞれがサンドラのスーツに合体して、全身に武装を施した大きなスーツが誕生していた。

「私はこの後ろのスーツにマイを回収し脱出船に向かう、もしそれが不可能な時は、そのままガリレオから脱出する。キミたちも急げ」

「「はい」」

 そう返事したオペレーターの少女たちは既にスーツを装着し、前後から合体する工程に入っていた。

 2人のスーツがプラグインしたのを確認すると、サンドラは扉を開け通路に飛び出して行った。



  〈つづく〉







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