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シンクロナイズド・ダイバーズ  作者: 木天蓼 亘介
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第1話・宇宙《そら》と地球《ほし》の狭間で・・・

 


 星々が煌めく遥か天空の上、地球が丸いことを肉眼で実感出来る場所、衛星軌道に()()は浮いていた。

 それは、ピーピングトムと名付けられた巨大な宇宙ステーションだった。

  眼下に広がる地球を一望出来る底部には、何かを監視、もしくは観測するためのドーム状の施設が見える。

 その内部では、数多くの科学者や技術者、更には軍人たちが、モニターが捉えた地球のある一点の映像を凝視していた。

 そこは極寒の地だった。

 硬く分厚い氷の層に覆われた大地がどこまでも広がる場所、南極。

 その真っ白い大氷原の真ん中に、突如として現れた黒い点。

 それは、地上すれすれに浮かぶ、得体の知れない巨大な黒い球形の物体だった。

 更に付け加えると、それをぐるりと囲むリングのような形の巨大な建造物も見える。

 〝ビ~っ、ビ~っ、ビ~っ、ビ~っ、ビ~っ″

 突然鳴り響いた警報に、地上を監視するモニタールームにいた全員の顔に緊張が走った。

「エンジェルハイロウに反応。ヘルゲート境界面に歪みを感知。揺らぎの発生を確認しました」



  エンジェルハイロウ。

 それは、謎の球体を土星の輪のように囲む、地上から100メートルほどの場所に浮かぶ巨大なリング状の建造物だった。

 それを遠巻きにぐるりと囲むタワーマンションほどもある12本の巨大な円柱に支えられた超巨大な壁が見える。

 その円柱の上にある砲台の1つから、司令官の男性が双眼鏡を覗いていた。

 鋭い眼光が睨み付ける視線の先で、エンジェルハイロウと呼ばれるリングの中に浮かぶ巨大な黒球の表面にある変化が表れていた。

 何事もなく静かだった球の表面が、緩やかに波を打ち始めたかと思うと、それが規則正しく広がる無数の波紋へと姿を変え始めていたのだ。



「揺らぎが波紋に変わりました」

 そう叫ぶ科学者の視線の先には、リングの内側に浮かぶ巨大な黒球が映像処理され、CG化されたものが巨大なモニターに映し出されていた。

 その表面では波紋が広がり続け、それがゆっくりと渦を巻いていく様子がハッキリと分かる。

「出現率30%に上昇」

「全世界に警戒警報発令。GOTUNに出動要請」

「各国に電力の供給要請」

 モニタールールが一気に慌ただしくなり、言い様のない緊張に包まれていく。

 地球の周りに浮かぶ太陽光パネルから、極超短波に変換された太陽エネルギーを地上に送るためのアンテナが一斉に南極の方を向いた。

 それに合わせて、地表を埋め尽くしていた灯りが次々に消えていくのが分かる。

 電力が供給されなくなった為、世界中が停電したのだ。

 宇宙ステーションのモニタールールでは、天空の各所から、衛星を中継して南極に照射された極超短波が電気エネルギーに変換され、エンジェルハイロウへと送られる様が数値化され映し出されていた。

「エンジェルハイロウ、エネルギー供給率120%。出力上昇へ」

「了解。超電磁コイル出力最大」

 エンジェルハイロウと呼ばれるリング形の施設は、外側のリングと内側のリングが重なる二重構造になっていて、内側のリングが常に回転し続けている。

 それが更に回転速度を増し、そこから発生したプラズマが竜の如くリングの内側を走り回る。

 すると、その力に抑え込まれるかのように、黒い球が徐々に小さくなり始めた。

「ヘルゲート、収縮を確認。収縮率3%・・・5%・・8%を越えました。現在10%。順調に収縮中」

「よし、今度こそ成功してくれ」

 それを壁の上から見ていた司令官の男性は、自分自身に言い聞かせるように小さな声でそう呟いていた。

「収縮率、50%を越えます」

「おお~~」

 オペレーターから伝えられたその言葉に、モニタールール内でどよめきが起こった。

 もしかしたら、今度こそ本当に上手くいくかもしれない

 その場にいた誰もがそう思った。

 だが、人々のそんな願いを嘲笑うかのようにそれは起きた。

 〝ビ~っ、ビ~っ、ビ~っ、ビ~っ、ビ~っ″

 再び異常を知らせる警報が鳴り響き、

 モニターの数値が一斉に反転したのだ。

「ヘルゲート、膨張を始めました。膨張率、10%・・・15、・・20、・・25、・・30、・・40、・・50%を越えます」

「バカな」

 エンジェルハイロウの建造に関わったとおぼしき科学者が声を荒げる。

「何か他に打つ手はないのか?」

 今度は軍服に身を包んだ男が叫んだ。

 だが、その間にも黒球は情け容赦なく大きく膨らんでいく。

「膨張率200%、エンジェルハイロウの許容量を越えます」

「全世界に避難命令発令」

 その瞬間。エンジェルハイロウは、その内側で爆発的に膨らんだ黒球に押され、はじけ飛ぶように崩壊していた。

 〝ズズズズズウウウウウンっ″

 超巨大な建造物が落下し、大地に激突した衝撃で氷が爆風と共に舞い上がり轟音が響き渡る。

 だが、それで終わりではなかった。

「磁力振動を検知、出現します」

「くそ、場所はどこだ?ただちに出現ポイントを予測。避難命令の伝達を急げ」

「予想出現ポイントは・・・まさか?」

「どうした?早く報告しろ」

()()です」

「なに?」

 〝ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガっ″

 上官が驚愕の声をあげるより早くそれは起きていた。

 宇宙ステーションが激震に見舞われたかと思うと、観測ドームの3重構造の壁が隔壁ごと斬り裂かれ内部なかに居た人達は宇宙に吸い出されていた。

 そして、その突如として襲い掛かった激震によって床に叩き付けられ、なんとか立ち上がった人々の目に映ったのは、ネコ科の猛獣のような姿をしたそれが、宇宙ステーションの底部、観測用のドームに取り付いている様だった。

「・・・ブロッケン」

 ブロッケン。

 そう呼ばれた巨大な怪物は、容姿はトラのようだったが、その身体は頭から尻尾の先まで無数の鋭利なつのが突き出た鎧のような外皮に覆われ、その外皮と外皮の隙間からは、揺らめく黄色い炎のような輝きが燃え上がるように溢れ出ているのが見えていた。

 そして、一際ひときわ目を引くものが、4つある目の中心にあった。

 目を守るように重なりあう外皮が、何故か中心の部分だけ菱形に開いていて、そこが太陽の如く炎を吹き出しながら、激しいまでの輝きを放っていたのだ。

 皆が恐怖に凍り付き、何も出来ずただ見つめる視線の先で、ブロッケンの頭部を覆う外皮が大きくスライドし始めたかと思うと、それに合わせて頭が一瞬にして風船のように膨らみ、口が大きく開かれていた。

「総員退避」

 それを見た人々は、ようやく我に返ったかのように、恐怖に怯えながら脱出カプセル目掛けて走り始めた。

 通路の各所に設置されたモニターの中で、巨大な花が咲くように割り開かれていくバケモノの口。

 それが、宇宙ステーションをも上回るほどの大きさになった瞬間。

 ピーピングトムは丸のみにされていた。

 〝ドガガガガガガガガガっ″

 その刹那、それは起きた。

 宇宙ステーションを飲み込んだブロッケンが、大口を開くように、その身体が突然、後方に向けて猛スピードで移動し始めたのだ。

【ギャヤヤヤヤヤヤヤヤ~~~~~~~っ】

 絶叫と共に遠ざかるそれは、丸飲みにしたはずの獲物を吐き出していた。

 かなり損傷してはいたが、原形を留める宇宙ステーションが見る見る小さくなっていく。

【ギャギャギャギャギャ~~~~~っ】

 もがき苦しむように雄叫びをあげながら遠ざかるブロッケン。

 よく見ると、その上顎から2本、首を挟んで下顎に1本ずつ、更には背中からも2本、計6本の紐状の物が伸びているのが見えた。

 それは、巨大な身体に撃ち込まれた6本のアンカーにつながれた特殊合金製のワイヤーだった。

 そして、背後から伸びるピンと張られたワイヤーの先には3つの飛翔体の姿があった。

 それぞれ姿形が違う3つの、いや、3機の飛行物体が、それぞれ2本ずつワイヤーを引き、つまりはその先端が捕らえたブロッケンを引っ張る格好で宇宙空間を飛行していたのだ。

「こちらチーム36。ブロッケンをピーピングトムから引き剥がしました。目視で損傷を確認。至急救護班を送ってください」

 3機のうち、先頭を飛ぶ機体のコックピットに収まるパイロットがインカム越しに呟く。

 そのコックピットは、他の戦闘機と比べると、かなり異質な形状をしていた。

 パイロットたちはパワードスーツを着用し、そのスーツごとコックピットに収まっていたのだ。

 〝ビッ、ビッ、ビッ、ビッ、ビッ″

 だが、その言葉を遮るように警報が鳴り、機体後方のカメラが捉えたブロッケンの映像がパイロットの眼前に投影された。

 そこに映し出されていたのは、変形を始めたブロッケンの姿だった。

 その身体からタコのような無数の触手が生え、それらが間欠泉のごとき勢いでピーピングトム目指して伸びて行くのが見える。

「あいつピーピングトムを」

「ハルカ、あれを見て」

 インカム越しに飛び込んで来た声と共に、ハルカと呼ばれた人物の前に後方を捉えた映像がカットインされる。

 ブロッケンは、触手を伸ばしながらスライムのように、別の()()()変姿を変えつつあった。

 その身体からアンカーが抜け落ちかかる。

 だが、

「スパイクアンカー、エレクトリックサンダー」

 その瞬間。3機から伸びる6本の特殊合金製のワイヤーを通じてアンカーへ、つまりはブロッケンの体内へ超高圧電流が流されていた。

「どう?一億ボルトの味は?」

「これでもブロッケンの活動は10秒しか抑えられない、ハルカ」

「みんな、オーバーブースト」

「了解」

 ブロッケンの動きが止まったその隙を突いて、3機の飛行体は各所のバーニアから青白い光りを放出しながら爆発的に加速していた。

【ギャギャギャギャギャギャギャギャ~~~っ】

 だが、ブロッケンはすぐに息を吹き返していた。

 しかし3機は、その時には雄叫びをあげるブロッケンを引っ張るように大気圏に突入していた。

 ブロッケンがピーピングトムを攻撃するために伸ばしていた触手を一瞬のうちに縮め、超高温の摩擦熱から自らを守るために、身体を覆うように巻き付けようとした。

 が、3機は後方に向けて60ミリバルカン砲を浴びせて触手を狙い撃ちそれをゆるさず、そのままブロッケンもろとも真っ赤な炎に包まれながら落下して行った。


                             〈つづく〉

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