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今日、街でぐうぜん元カレと会った。四年ぶりの再会だった。
最初に気がついたのは、彼のほうだった。
「あっ」
短い中に、驚きと焦りが同居した彼の声だった。
おどおどしていた彼に、わたしのほうから話しかける。
「ひさしぶり。元気だった?」
自分でも驚くくらい普通の口調だった。まるで、時が四年前にさかのぼったみたいだ。
「うん。そっちこそどう?」
彼はまだ動揺している様子だ。そんなに怖い顔になっているのかな、わたし?
「まあまあかな」
そのあと、少しだけ世間話をした。
「こんど、結婚するんだ、わたし。来月に」
どうして彼にこれを話そうと思ったのかわからなかった。脈絡もなく、口が勝手にうごいてしまった。彼は少しだけ困った様子だった。
「そっか。おめでとう」
かろうじて、口にだしたような声だ。
「ありがとう。じゃあ、わたしいくね」
「うん、じゃあ、また」
「うん、じゃあね」
わたしたちは、そう言って別れた。彼は一度だけわたしのほうを振り返ったようだけど、わたしはそのまま前に進んだ。
別れ際、あえて“また”という言葉はつけなかった。
だって、話して、はっきりわかったのだ。彼という存在は、わたしの中ではもういい思い出でしかないということに……。