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第七話《運命と暗黒の交錯》

 私こと大神院華音は目隠しをされている。たぶん私が所有している《運命の神眼》を警戒しての事だろう。

 事の顛末を話そう。

《暴食の魔眼》を持った男の人に誘拐された私を追ってカナちゃんが魔宮に飛び込もうとしたところからがいいかな。

 不謹慎だけどカナちゃんのあんな必死な顔を見たのは久しぶりだったな。私の事でもあんなに必死になってくれるんだね。私はカナちゃんの運命を壊しちゃったのにカナちゃんは優しすぎ。でも無茶はしてないといいな。

 そうだね、話を戻そうか。カナちゃんが撒かれて私は魔宮の中で目隠しをされた後、たぶんどこか違う場所に瞬間移動した。方法はわからないけどただ自然の匂いから人工物の匂いに変わったからそこは間違いない。手枷をされて女の人に手を引かれて歩いた。足から感じるに絨毯が敷かれている。しばらく歩くと着替えさせられた。和洋のドレスを着させられた。たぶんかなりいい物だ。

 そして私はある部屋に通された。

 顛末という程顛末はなかったね。


「こんにちは……大神院華音」


 青年の声だけど若い男の声、私より少し上くらいかもしれない。


「そのドレス凄く似合ってるよ。そういうの僕は疎いんだけど案外僕のお洒落度も悪くないね。でもやはり君の煌めく眼を隠すのは良くない」


 そう言って男の人は私の目隠しを取る。

 おそらく首謀者だと思われる人はやっぱり私より少し上くらいの男の人だった。学年でいうなら高三くらいでしょうか。率直な評価を下すとかなり美形さん、黒髪が神秘的で優しい印象を受ける。でもそれは私が《運命の神眼》を持ってるからかもしれない。なぜなら黒目と赤い紋様の眼、神眼や魔眼でも瞳の中に紋様現れる程度のものが多いからかなり珍しい。でもこの眼は図鑑で見た事ない。


「おやおや、あまり見つめられても恥ずかしい」

「あや、そういうわけでは……。じゃなくて、あなた誰ですか!?」


 そう、私は誘拐されてここにいるんだ。冷静に顔面品評なんてしてる場合じゃない。


「そうだね、これからの事を考えると僕の名前を知らないのは不便だ。僕の名前は裏都雪落、気軽に雪君とでも呼んでくれ」

「雪君、率直に聞くけどなんで私を誘拐したんですか? なんとなく私が所有する《運命の神眼》が狙いというのはわかりますけど」


 今まで私はこの眼のせいで色々な人に狙われた。誘拐はもちろん、眼を取られそうになった事もある。だからこそ私には精鋭の護衛が付いていた。


「まあ華音が《運命の神眼》を持っていたから誘拐したというのは合ってるよ」

「という事は《運命の神眼》で何かを命令させる気ですか?」


 雪君は私を観察している。何か気になる事でも言ったのか。


「確かに《運命の神眼》だから誘拐したというのは合っている。でもそれはきっかけに過ぎないんだ。別に僕は華音の眼でどうこうしようという気は全然ない」

「はぁ……?」


 じゃあ何のために私を拐ったのだろう。私から《運命の神眼》を取ったらただの平凡な女なのだけど。公爵令嬢という肩書きがあっても三女で五子だし、次期大神院公爵後継者でもなければ、次期皇帝近衛護衛でもない、凰司家次期当主の伴侶でもないし、ましてや天才でもない。良くも悪くも私はこの神眼と家族からの寵愛だけで今の地位にいる。


「僕の持つ眼は《暗黒の魔眼》という。千年に一人が開眼し祭り上げられる《運命の神眼》と違ってその凶悪性と歴史に残した凄惨さから歴史の闇へと葬りさられた魔眼だ。しかし運命と暗黒は今日までその眼を交差させる事はなかったという」


 まったくわからない。何を言ってるのこの人。


「そして運命の女神こそ闇の神帝の伴侶に相応しい」

「は?」

「分かりづらかったかな? 《運命の神眼》を持つ君は《暗黒の魔眼》を持つ僕とお似合いという事さ」

「あの……私、これでも婚約者いるんですけど」

「ああ、あのただ意味もなく無駄に血を受け継いだだけの次期皇帝様か」

「言いたい放題ですね」


 私には婚約者がいる。カナちゃんと同学年の次期皇帝の皇子様だ。その実態は皇帝の一族が《運命の神眼》を欲した政略結婚、私自身どうとも皇子様に対してはそれ以上の感情はない。


「君は婚約者にあまり思い入れがないのか?」

「ただの政略結婚ですよ? どういう思い入れがあるというんですか?」

「一理ある。政略結婚とは相手に対して利益以上の思い入れはないだろうね」


 雪君は興味深い様子で続ける。


「でも意外だ。君はもう少し潔癖というか悪口とか許容できない人かと思ったんだけど」

「どういう意味ですか?」

「いや、深い意味はないんだけどね。歴史上《運命の神眼》開眼者は眼の影響で聖人のようになると言われてたから。会ってみると意外と普通だ」

「ああ、そうみたいですね。《運命の神眼》を持つ者は聖人君子みたいな伝承はありますね。私自身は自分を聖人とは思った事ないですよ。むしろ《運命の神眼》を持ってるから私からすれば史実が怪しい気もしますけど。たぶん歴史上の《運命の神眼》を開眼した人は心が壊れたか結果的に聖人扱いされた詐欺師だと思いますよ」

「さらに意外の上塗りだけど毒舌だね」


 私だって年頃の女の子だ。お小遣いだっていっぱい欲しい、カナちゃんの部屋から勝手に色々拝借したり、エロい気分になって一人で楽しんじゃったりもする。カナちゃんに振り向いてほしくて媚媚したりもする。


「悪かったですね。愛想つきました? それでは私を解放してください」

「いや、むしろ気に入ったよ。本当に中身聖人だったらこっちが疲れそうだと思ってたからね」

「そうですか。そういうあなたも私を拐うなんてどんな極悪人かと思えば結構純粋な人なんですね」

「そんな評価を受けたのは初めてだ。参考までに聞きたいのだがどうしてそう思った?」


 興味津々に聞いて来る雪君に私は溜め息を吐いた。


「私は幼少の頃から色々な人を見てきました。それはこの眼のおかげと言ってもいいですかね? 私に近付いてくる人はみんな下心持ってるんです。《運命の神眼》にあやかろうとみんな私を甘やかして来ます。家族も例外ではないです。テストで七十点取った程度で褒めてくれるんですよ? カナちゃんなんて学校のテストで百点どころか全国模試で三位だったのに褒めてすらもらえないのに。みんな私が気分を良くすれば《運命の神眼》で加護を得られると思ってるですよ。《運命の神眼》で命令すればその通りの運命になるんですからね。みんなはいいですよね! 私なんか自分で努力しないといけないのにさ! しかもこの眼のせいでカナちゃんは私の事冷たい対応するし最悪! しかもなんで私が皇子と結婚するの!? パパもママもそんなのに仲人するくらいならカナちゃんとの仲直りに協力してって感じ!」

「お、おう……華音もストレス溜まってるんだね」


 雪君の苦笑いを見て咳払いで場を整える。


「失礼しました。前置きのつもりがうっかり熱が入って愚痴を吐いてしまいました。要するに雪君にはそういう下心がないって言いたいのです」


 たぶん雪君は《暗黒の魔眼》に相当自信持ってるからだと思う。カナちゃんみたいに自分の持ってるものに満足してるから。


「下心……ね」


 雪君が私の手首を掴み壁に押し付ける。

 えっ、これやばい?

 雪君と私の唇が触れ合った。軽くじゃない、結構ねっとりと。だけどそれ以上の事はせず唇が離れる。

 きっと今の私はかなり赤いと思う。だって顔だけ極暑みたいに熱い。


「ろ、ろりこんですか!」


 雪君は密着していた体も離す。この人も顔が赤い。流石に部屋が暑い……なんて事ないよね。


「ロリコンだと? 失敬な。僕は君より一つ上だよ」


 雪君は私から顔を背けて言った。


「私より一つ上って事は数えで十六歳ですか!? 通りで自分の事を《闇の神帝》とか痛い事言ってると思ってました! それに何ですかその初々しい反応は? 恥ずかしいならやらないでください!」

「うるさいな! というか僕の事痛いと思ってたのか!?」


 今の接吻で私より恥ずかしがってません? そっちからしといてその反応はあまりにもあんまりだと思うんだけど悪者さん。そもそもいきなり接吻って何考えんてるのこの人?


「何で君はそんなに落ち着いていられるんだ?」

「これでも恥ずかしいですよ。初対面の人にいきなりなんて痴漢的なあれですよ。それに接吻自体は初めてじゃないですし」

「何だと……相手は皇子か?」

「誰でもいいじゃないですか」


 相手はカナちゃんです。幼少の頃の私はカナちゃんガチ恋勢だったんです。姉妹だからと言って当時私以上に純情少女だったカナちゃんを丸め込んで接吻しちゃったんです。後悔はしてない。


「ふん、所詮はキスだ。どうという事はないね」


 声震えてるよ雪君。そんなにショックだった?


「それにしても君は誘拐されたというのに余裕そうだね。恐くないのか?」

「少なくともさっき私を誘拐した人より恐くないです」


 それにカナちゃんが助けに来てくれるもん。全然恐くない。


「君は……」

「はい?」

「その眼で……いや、その目にはどんな希望が映っている」

「意味がわからないです」


 雪君は私の顎に手を添えて無理矢理上を向かせて私の眼を見詰める。何かされると直感して《運命の神眼》を開眼する。


「初めて僕の前で《運命の神眼》を見せたね。僕はその眼を持ってないから想像でしか語れないが、普通なら誘拐されればその眼で悪者に命令するんじゃないか? 『私を解放してください』とか。でも君はしない、むしろ魔眼を前にしてあろう事か今になるまで神眼を開眼する素振りすら見せなかった。僕の《暗黒の魔眼》の性質上相手の感情を読み取るのに長けているんだ。君が《運命の神眼》を使うのに善行や徳が必要なように僕の魔眼は絶望や恐怖などを必要とする。だからわかるんだ、君が希望に縋りながら恐怖から目を背けているのがね。華音がぶっ壊れた聖人じゃないというのは今までの会話でよくわかった。だからここでその眼を危機回避にその眼を使わないのはおかしいんだ」


 雪君の言葉が終わると私の視界が暗闇に包まれた。


「何も見え……なく」


 私は崩れ落ちて確かめるように床に手を着いた。


「今僕は華音に魔眼を使った。でも君は僕に神眼を使った感じがないね」


 確かに今私は雪君に《運命の神眼》を使わなかった。


「その眼を使うのがトラウマになってるだろう」


 私はそれを言われてびくりと反応してしまった。


「そんな事……ない」

「わかるよ。華音が神眼を開眼した時、僕の魔眼が恐怖に反応した」


 今まで隠して来た事がこうもあっさりと見破られるなんて。

 私はかつてカナちゃんにこの眼を使った事がある。それはおやつが足りなくてチョコレートをもらうためという理由、他人から見たら些細なものかもしれない。それからカナちゃんの私を見る目が変わった。幼いながら他人を操る意味を理解してしまった私はそれ以降一度も神眼を使ってない。


「まったく、別に神眼の事で君が気負う必要は何もないのにね。人間というのは自分の力に溺れていいんだ。人間の歴史は自分の力に溺れる歴史なのだから」

「何が言いたいかさっぱり意味がわからないんですけど」

「過去の人間がそうして来たように僕も力で力を捩じ伏せる。そして日本を落として僕がこの国の頂点になる。満を持して僕という歴史の闇に葬られた存在が日本に復讐する時が来た」


 今までとは打って変わって邪悪の笑みを浮かべた雪君はまるで無邪気な子供のように言った。

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