第五話《初めての魔宮》
カナ達は無事魔宮へ入る事ができた。
中は外観よりも遥かに広い。天井には呆れるくらい青空が広がり、出た場所はまるで森の真ん中。
平賀君が魔宮に入る前に言っていた事だけど、この魔宮は所謂初心者にも優しい下級の魔宮らしい。
ここで気になっていた事を平賀君に聞かなければならない。
「カナがさっきぶつかった透明な壁みたいなのって障壁だよね?」
「そうだな。本来は魔宮の中にいる住人、魔物がこっちの世界に入れないようにしてる門だ」
「たぶんだけどさっきカードのQRコードで読み取った情報にあった序列って魔宮に入れる資格みたいなものだと思うんだけど。序列が下級の人は下級の魔宮に中級の人は中級の魔宮にまで入れるって意味でしょ?」
「その通りだ。実際問題、大神院華音を誘拐した男が中級以上の魔宮に入ってたらちょっと面倒だった。中級以上の資格を持つ攻略者に協力を仰ぐ必要があったからな」
「でも華音は入れた。これはどういう事?」
「単純な話さ。大神院華音は既に攻略者証を持っていたという事だ。ただ、確かに解せないな」
平賀君も苦い顔を見せる。本当に変態じゃなければ顔いいな、絵になる。
「大神院の話を聞く限り魔眼男に大神院華音の攻略者証を探す余裕があるとは思えない。状況的に忍者と戦闘して大神院華音を誘拐しようして大神院が遭遇した。どこにあるかもわからない攻略者証をそんな短時間で探せるか、おそらくだが偽造だな」
「でもカナとさくちゃんのカードはすぐに作れたじゃん」
「いや、君達の場合は特殊な状況下であるけど受付施設にいたからね。攻略者証自体はどこの魔宮の受付でも作れる。第三者が作るには書類やら何やらの準備が必要でかなり時間がかかるはず、逆を言えばそれだけ誘拐の準備期間が長かった。しかも実行犯が魔眼の中でもかなり凶悪な《暴食の魔眼》持ち、さらに五大公爵家に喧嘩を売るくらいだ。黒幕は相当大きい組織だろう」
「もしかして他の五大公爵家だったりしてね」
「可能性としてはなくはないだろう。五大公爵家同士のいざこざならば他の公爵家でも口出しはできないはずだ」
カナは考える。
大神院家は五大公爵家の中では実は権力が低い部類に入る。序列で言うなら第四位かな? しかしこの序列を大きく変える出来事が数年前にあった。それこそが華音の存在だ。《運命の神眼》を持つ華音に皇帝の一族が目を付けた。当時の状況はカナには詳しくわからないけど、次期皇帝になる人物が華音と婚約した。このまま順調に行けば華音と次期皇帝様が結婚して五大公爵家間の勢力図は革命的に変わる。だからこそ昔から華音は家族から大切にされてカナと違って護衛が付いていた。
だけどあり得るかな? 先祖や次期後継者ともなるとカナもわからないけど、少なくとも現公爵の五人は温厚な人達だし、もしかしたらカナのパパが一番過激まであるかもしれない。
「でもその考え方は早計だよ。とりあえず今は華音様を助けよう」
さくちゃんがカナ達の議論を止め入った。
「それもそうだ。今のはあくまで五大公爵家の勢力図の視点から見た考察だ。そもそも《運命の神眼》自体が稀少の中でも最高位な稀少なんだから誰が狙っても不思議じゃない」
平賀君がこれ以上の議論は無駄と悟ったのかまとめという名の打ち切りに入った。
「それに僕達の声に釣られて魔物が出てきた」
周りを見ればあえてイメージすれば小鬼みたいな生物が原始的な武器を持ってカナ達を囲っていた。
「こいつらは《小魔鬼》だ。魔宮の中では弱い部類に入る生物だ。でも武器を扱う知性はあるし身体能力も人間と同程度だ。普通の人間では倒すのに苦労するくらいのは強い」
小魔鬼の大きさは個体差こそあれどカナ達人間と大して大きさは変わらないみたい。印象で言うなら獣に近いが平賀君の言葉通り知性自体は動物より有してるのか剣や盾を持ってたり自作したみたいな雑な作りの弓を所有してるのもいる。
平賀君は腰から銃身が刀身になったような剣の柄が銃みたいな剣を抜く。何かのゲームで見た事あるやつ。
「こいつは剣銃、参考にしたゲームの武器と違って銃弾を発射できるヒラガ団特製武器だ! 覚悟しろ、小魔鬼! うおおぉぉぉぉっ!」
平賀君が小魔鬼に単身突っ込んで行く。振り下ろした剣銃は盾であっさり防がれる。しかし平賀君の無駄に気合の入った猛攻のためか小魔鬼は防御に徹している。あの盾雑な木製だからその内壊れるな。
だけど小魔鬼は平賀君が相手している一体だけじゃないわけだけど。はっきり言うと八体の群れだ。
小魔鬼の一体が金属製の剣と盾を持ちながら盾を構えてカナに近付いて来る。カナは一歩踏み込み距離を詰め、盾の平面を掴み振り上げて構えを崩す。小魔鬼はよろけて体勢を崩したところで懐に入り込み底掌をお腹部分に叩き込んだ。小魔鬼は地面に転がり死にかけの蝉のようにびくんびくんしている。
剣と盾を取るとそれをさくちゃんに渡す。
「これでさくちゃんもバッチリっしょ♪」
「確かに徒手空拳より剣の方が得意だけどね」
さくちゃんは早速剣と盾を装備した。様になってないのは剣と盾がダサいからだと思う。それじゃあ早速さくちゃんのために弓矢を奪うとしますか。
弓矢を持っている小魔鬼は木に上り弓矢でカナを狙っている。よく見るとカナを囲っているのは長い棒を持っているのばかりだ。どうやら距離を取って警戒しているらしい。一方、木の剣っぽいのと板みたいな盾を持ったのがさくちゃんに近付いて行く。
カナは四体、さくちゃんは一体、平賀君は一体を相手にしている状況だ。
「じゃあとりあえずそれぞれガンバロー☆」
カナは小魔鬼が突いて来た棒を躱しながら距離を詰めて底掌を頭に叩き付ける。手から離れた棒を取り倒れた小魔鬼を踏みつけながら近くにいた一体の小魔鬼の口の中に棒を突っ込んだ。うわっ、全然エロくない。
口に思いっきり突っ込んだ棒から手を離して、そのまま棒を奪い、一体の棒にぶつけて弾き飛ばし距離を詰めて手刀で首を折った。
残るは弓矢を持った一体。どうやら弓矢で狙いを定める前に仲間を倒してしまっちゃったらしい。矢を打たれる前に木を蹴って小魔鬼を落とす。落ちると同時に横蹴りで木の幹に叩き付けた。
弓と数本の矢を回収する。おもちゃの弓の方が完成度高いんじゃないの?
さくちゃんも小魔鬼が攻撃しようとした瞬間、剣で切り付けた。こっちも余裕みたいだ。
肝心の平賀君は続けていた猛攻をタイミング良く盾で弾かれて手元から剣が飛んだ。あっ、やばいなこれ。
カナは跳んで平賀君にこん棒を振り下ろそうとした小魔鬼に膝蹴りを放った。小魔鬼は人間ではあり得ない方向に派手に首を曲げて白目を剥いている。
「ありがとう大神院、このままじゃ頭が真っ二つに割れてたところだ」
「別にいいって。はいさくちゃん、弓矢」
さくちゃんは弓矢を受け取る。
「稚拙だけどないよりましかも」
さくちゃんは剣と盾、弓を背負う。うわっ、かっこいい!
「これで最低限の準備を整った。進もう」
一人だけ危機的状況だったのに生き生きしてますね。
こうして華音探索の魔宮攻略が幕を開けた。
☆☆☆
カナは今のさくちゃんを見て感嘆の言葉を出す。
「いや~、さくちゃんこんなに立派になって」
「立派というかいい装備を手に入れただけなんだけどね」
あの後二つの小魔鬼の群れと戦闘になったのだがその戦果に名刀級の日本刀とめちゃくちゃ射撃性能のいい弓を手に入れた。その二つはさくちゃんに贈呈しました。尚、盾はさっき壊れちゃった。
ちなみにあれから地下に三階くらい下りた。つまり四階だ。
「この魔宮は五階までだ。踏破するだけなら三時間かからない」
「あの男は魔宮から出た?」
「いや、出入口と出口に仕掛けたカメラはそれらしき男も大神院華音も捉えていない」
う~ん、という事は……。
「仮に華音のカードを偽造していたとするならここで受け渡し仲間と合流か受け渡しをする予定?」
「もしかしたら移動能力に長けた仲間がいるのかもしれない。あるいは隠密系か。流石に魔宮の中から別の場所に移動されたらお手上げだが」
「平賀君のカメラだけが頼りだよ。魔宮っていうのは自分がいる空間以外からの気配を遮断をするみたいだから」
なんか魔宮の中は特別な力が働いてるみたいで他の階から生物の気配を感じないんだよね。
「しかし、この魔宮は下級らしいけど小魔鬼も人間と同程度の強さでそれが集団で戦闘に挑んで来る。これで下級なの?」
さくちゃんが当然の疑問を平賀君に投げ掛けた。まあ、カナとさくちゃんがいるからここまで来れたけど平賀君一人じゃ一階で死んでたんじゃない?
「ここは確かに下級の魔宮でも攻略が難しい方ではある。魔物が集団で襲い掛かって来るからな。だけどここは魔物が罠を作っても魔宮自体に罠はないんだ。それに魔物が群れを為していても魔物との遭遇率は低い。どっちにしてもこの程度の魔宮を攻略できないようじゃ中級以上の魔宮は攻略できない。それに僕達は魔物達と遭遇して戦闘をしたけど、逃げる事も見付からないように隠れる事もできる。そこを含めて考えて踏破するんだ。ゲームと違ってターン制で動くわけじゃないんだから」
そうか、わざわざ戦闘をしなくてもいいのか。それもそうか。よく考えるとこの魔宮は深い森の中、隠れる所もたくさんある。仮に魔物が近くにいても隠れてやり過ごせばいい、もっと言えば爆弾を仕掛けてまとめて殺すのも立派な作戦。武器や道具だってわざわざ魔物を倒す必要もなく隠れて盗んでもいい。魔宮で必要なのは強さだけじゃないって事ね。
しばらく歩くと少し先から小魔鬼より大きい気配を感じる。というかこっちに来る。さくちゃんと平賀君を制止する。
「どうした大神院」
「しっ、何かいるって感じ。ちょっと隠れよう」
カナ達は近くの茂みに身を潜めた。こうして地面に体を付けると震動が伝わって来る。相当大きい。
やがてその存在が見える。
やって来たのは鬼と形容できる魔物だった。しかし小魔鬼と違って人間より並外れている。ぱっと見小魔鬼の三倍くらい大きい。建物の二階くらい?
その時、スマホが震える。ラインから通知?
『大魔鬼だ。見ての通り小魔鬼とは比べ物にならないくらいの怪力を有してる』
平賀君からそういうメッセージがあった。
大魔鬼はまるで小太刀のように剣を持っている。
ラインで平賀君にメッセージを送る。
『あれを倒して来る』
荷物を置いて音を立てずに回り込み木に上る。乗っている枝の高さと大魔鬼の目線の高さがほぼ同じだ。カナはジャンプすると片足を頭より高く振り上げる。木葉が擦れる音に大魔鬼がこっちに顔を向けてカナに気付く。しかし剣を振るよりカナの踵が大魔鬼の顔に落ちる方が速い。
大魔鬼は簡単に頭が地面にめり込み動かなくなる。案外弱い。ぶっちゃけると魔眼の男の方が強い。
「まさか大魔鬼を一撃必殺とは凄いな。上級攻略者でもそうそういないんじゃないか?」
平賀君がそう言いながら茂みから姿を現す。さくちゃんも安心したような顔だ。
「でも安心した。この階から先は大魔鬼が出てくる。情報によると小魔鬼の群れの首領としてね。どうやらこれがこの魔宮の鬼門らしい」
「そうなん? でもこいつは単独行動してたみたいだけど」
少なくともこの大魔鬼の近くに小魔鬼の気配はない。
「だとしたら僕達の前にこの大魔鬼が属していた群れと交戦してこいつだけ生き残ったんだ」
「魔眼の男?」
「どうだろう。こいつらの交戦した場所を見てないからわからないな。もしかしたら他の攻略者が罠か何か張って一網打尽にしたところをこいつだけ死ななかったとかもある。大魔鬼は小魔鬼より力も生命力も強いから」
推測の域を出ないって事ね。
「まあ何にしてもさっさと階段を探そう。ここには気配がないんだろう?」
「うん、まだ魔宮から出てないなら次の階にいるはず」
「次は最後の階層だ」
カナ達はすぐに階段を見付けた。
カナが階段に足を踏み入れると家で遭遇した胸糞悪い邪悪な気配が漂って来る。
「いる……あの男がいる」
「そうか……」
「いよいよなんだね」
まるで今までの魔宮とは違うおどろおどろしい雰囲気。戦いの時は近い。




