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第四話《いざ魔宮へ》

 カナが目を覚ますとそこは医務室だった。病院と違って室内に器具がごちゃごちゃしている。


「起きたかい?」

「はっ、平賀君?」


 なぜかカナが寝ているベッドの側で平賀君がスマホを見ていた。というかなぜコートを羽織ってるんだこの人。


「ひ、平賀君なぜここに?」

「ん、目覚めたかい大神院。いやね、魔宮周辺で情報収集をしていたら入口の障壁へ盛大に激突したギャルみたいな娘がいるって聞いたから見に行ったら大神院が倒れてたから付いてたんだよ」

「ありがとう……ってこんな事してる場合じゃない!」


 ベッドから起き上がり靴を履こうとしたけど裸足で来た事を思い出した。


「まあまあ、大神院そんな焦っちゃだめだ」

「ごめんね平賀君、今カナ忙しいから」

「大神院華音の件だろう?」


 平賀君から華音という名前が出た。それにまるで事情を知ってるみたい。


「君が気絶してから約9時間が経っている。そして朝の速報で大神院華音が誘拐された旨が流れた。色々合点が行ったよ。あまり魔宮探索に乗り気じゃなかった君が魔宮にいた事、それに魔宮出入口の見えない壁にぶつかって気絶する程速く走っていた事もね。なるほど、大神院は大神院華音を追っていたとわかった。だから君が起きるまで僕も情報を集めた、君が追っていた大神院華音を連れ去った者のね。これを見たまえ」


 平賀君はスマホを投げて寄越した。画面を見ると建物の出入口などが映っている。


「これは……」

「それは僕が発明した監視カメラ付きドローンだ。それで魔宮の出入口と最深部から戻って来る出口を監視している。カメラに条件を付けた対象がそこに映ると知らせがなる。無論、知らせが鳴る対象は大神院華音あるいは黒ずくめの服を纏った人間だ」


 言葉を失った。まさかそこまでの情報を手に入れてるなんて。


「ちなみに二人ともまだ魔宮から出た形跡はない」

「凄いね平賀君」

「友達を助けるのは当然の事だからね」


 そう言いながら平賀君は荷物から色々取り出した。靴下、靴、指が開いた手袋。


「一応聞くけど……大神院は大神院華音を助けに魔宮に潜るんだろう?」


 そうだ、今までは魔宮に入る理由がないから魔宮に入らなかった。でも今は緊急事態、魔宮に入る理由がある。


「当たり前じゃん。」

「そう言うと思った。僕も協力しよう」


 本来ならあの魔眼野郎の強さを実感する限り平賀君は足手まといになるだろう。だけど今は魔宮に関して知識ある者の協力が必要なのだ。


「お願い平賀君、カナと一緒に魔宮に潜って」

「わかってるって、とりあえずその服と靴を着て」


 カナは平賀君が用意した装備一式を着用する。ふくらはぎまである黒い靴下、白と桃色を基調とした靴、手の甲に薄い金属が仕込まれた手袋。


「ごめん、本当は色々買う予定だったんだけど僕には靴下しか買う勇気がなかった!」

「いや、別にいいんだけど」


 たぶん下着とかの事だと思うけど確かに男子高校生が女子の下着を買うのは難易度高いかも。


「それよりこの手袋と靴は何?」


 平賀君はにやりとした。


「よくぞ聞いてくれた。これは僕が君のために製作した武具だよ! その手袋と靴には市場で出回っている魔宮にある素材《精霊の織物》から作ったんだ。それは熱さや冷たさを遮断し燃える事なく、電気も通す事もない。さらに手袋には同じく魔宮から手に入る《常温鋼》が仕込んである。君は元々強いからね、攻撃性能ではなく防御性能に重き置いた武具になっている。どうだい、きつかったりしないか?」


 手足を適当に振る。なるほど、かなり軽いし圧迫感もあまりない。


「大丈夫、むしろしっくり来るくらいだよ。ありがとう」

「どういたしまして」


 平賀君のイケメンスマイルが炸裂した。いつもの変態スマイルとのギャップでイケメンさが跳ね上がってるんだけど。綺麗な方の平賀君は一味違いますね。


「それで平賀君って魔眼とか神眼には詳しい?」

「まあ調べてるからそこそこだと思う」

「じゃあ、瞳が赤く渦巻く魔眼って何かわかる?」


 平賀君は少し考え込む。


「たぶんだけど《暴食の魔眼》だね。見た者から体力や霊力、妖力を奪えるんだ」

「確かに魔眼っぽい」

「でも《暴食の魔眼》が魔眼と呼ばれる由縁は能力じゃない。大神院は何かわかるかい?」

「さあ……」

「これは魔眼だけじゃなくて神眼もそうなんだけどね、魔眼も神眼も開眼した者に特性というか性質というか思考というかそういうのを変質させる物があるんだ。これは魔眼神眼の区別をする大きな要素の一つになる。区別の例として大神院華音の《運命の神眼》なんて能力だけなら魔眼に近いよね?」


 華音の神眼は相手に命令を実行させる遵守の力だ。言い方を変えれば相手を操る能力と言える。


「でも《運命の神眼》は神眼と呼ばれる。その理由は能力を発動させるのに善行や徳など必要とされるからだ。だから文献などによれば《運命の神眼》を持つ者は聖人などと記されている」


 そういえば華音もかなり優しいような気がする。


「話を戻すけど、《暴食の魔眼》が魔眼に分類されるのはこの魔眼に開眼した者は人食い嗜好と危険思想を得るからだ。歴史上この魔眼開眼者は――――」

「そんな事はどうでもいいや。まあ要するに見られずに倒せばいいんだね」


 カナは伸びをする。久しぶりに体を動かす事になりそう。というか平賀君に無化粧見られてしまった。恥ずかしい。とりあえず髪型だけでも可愛くしておこう。

 金髪をツインテールにする。


「簡単に言うな君は……わかった、今から僕は魔宮へ潜る準備をする。大神院が魔宮に入るための手続きもいるし。何か必要な物はあるかい? 準備するよ」

「ありがとう。それじゃケータイを貸して」


 平賀君がスマホを渡してくる。


「後、とりあえず巴桜子の手続きもしといて」


 念には念を、ってね。



 ☆☆☆



「お待たせカナちゃん。言われた物持ってきたよ」

「ありがと~♡」


 さくちゃんが持ってきた下着と化粧道具を受け取る。

 平賀君がさくちゃんをじとじと見つめている。いつもはカナの足がどうこう言ってるのに所詮は顔か。


「知らない電話番号からかかってきてびっくりしたよ」

「ごめんごめん、手元にカナスマなかったからさ♪」

「ふ~ん、だから昨夜全然ライン返さなかったんだ。そういえばカナちゃんなんで制服なの? 今日学校休みだよね?」

「色々やばい事があって制服のまま夜の街中に飛び込んじゃったわけですよ」

「あっ、もしかして華音様が誘拐された件?」

「よくわかったね」

「いや、だって……ねぇ?」


 さくちゃんは平賀君に同意を求めるように見る。


「まあ、たぶん大神院が思ってるより世間は大騒ぎだ。この事を知らない人日本にいない説あるぞ」


 こういう場合お上は情報を徹底的に隠匿するか大々的に報道するかになる。どうやら大神院の一族ひいては五大公爵家と皇帝は大々的に報道する事に決めたらしい。しかしまあ僅か八時間でよく腹を括ったものだ。謎の組織に特上の人質を取られた状態で宣戦布告なんてカナは恐くてできないんですけど。まっ、カナが付いていながら華音を連れ去られて文句言えないけど。生まれてここまでの失態は初めてだよ。


「それより巴……」

「何?」

「ずっと気になってたんだけど、君は弓矢を持って来てないのかい?」

「えっ? 別に今日は弓道する予定とかないから持ってないけど」


 あっ!

 平賀君はカナを見る。


「大神院、君は巴に協力してもらうために呼んだじゃないのか? そう思って大神院と巴の魔宮攻略者の登録をしたんだけど」

「化粧道具とかのついでに弓矢も持って来てもらおうとしたんだけど……忘れてた☆」

「いや、まあいい。弓矢くらいなら魔宮の中で調達できるだろう」

「そう? 本当にうっかりしてた」


 ガチで忘れてた。


「それじゃあ、さくちゃんの弓買って来てよ。お金は後で払うから」

「そうしたいのは山々だが生憎僕も魔宮に入る準備でお金が飛んでしまったんだ。初期投資というやつだ」

「わかった、これは連絡忘れたカナの責任だ。カナが魔宮で弓矢を調達するよ」


 電話かける前に素顔なのがやっぱり恥ずかしくて化粧道具の事で頭いっぱいになっちゃってた。馬鹿過ぎる。


「まあ僕達は学生だ。初期投資と言ってもたかが知れてる。今回はともかく次回からはお金を稼ぐ目的も含めて攻略するからね」


 なんか次回の予定まで決められてるけど平賀君には世話になったし恩は体で払っちゃうよ。労働的な意味で。

 平賀君はカードをカナとさくちゃんに一枚ずつ渡す。


「そしてこれが攻略者の情報が詰まったカードだ」


 白いカードには名前と生年月日など簡素な情報が記されている。右下にはQRコードがある。


「スマホでQRコードを読み取るとさらに詳細な情報が画面に映る」


 カナ達はスマホで自分達の攻略者情報とやらを見る。


攻略者《大神院花奏》

種族《人間》

職《格闘家》

序列《下位》

所属団体《ヒラガ団》


 細々色々書かれているし空欄のところも多々あるが特に使いそうな情報が目に入る。


「カナちゃんのも見せて見せて」


 さくちゃんが横からスマホを覗き見る。カナもさくちゃんの情報見よう。


個人的者《巴桜子》

種族《人間》

職《弓術師》

序列《下位》

所属団体《ヒラガ団》


 他はカナと同じく謎パラメータやら何やらが記載されている。


「ちなみにこれが僕の攻略者情報だ」


攻略者《平賀蘭太郎》

種族《人間》

職《発明家》

序列《下位》

所属団体《ヒラガ団》


「いらねー(笑)」

「笑わなくてもいいだろう!」


 聞いてないのに見せるなって話だよ。


「そんな事よりこの職って何? カナは格闘家じゃなくて女子高生なんだけど」

「私も高校生だよ」

「いや、それは役職だから。攻略者の特技とかを一目でわかるようにしてるだけだから」

「カナは意外かもしれないけど料理がめっちゃ得意なんだけどなあ」

「カナちゃんのアップルパイとかいう洋菓子は本当に美味しいんだよ!」

「わかったから! さっさと行くぞ」

「「は~い!」」


 こうしてカナとさくちゃんと平賀君で魔宮へ入る事になった。

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