出会い
雨宮は、ヘイスロー空軍基地と呼ばれている基地に連行され、エプロンに駐機させられたF-2のコックピット上で待機していた。周りには、小銃を持った軍人達が雨宮とF-2を囲っている。
「普通に考えればこうなることは予想出来たよな……」
約30度リクライニングされたシートに体を預けながら雨宮は呟く。
F-2の隣には、雨宮を連行してきたパイロットが搭乗していた戦闘機────F-30と、パイロットが呼んでいた戦闘機が停められている。
「なんか……爺ちゃんが乗ってた戦闘機みたいだな……」
雨宮の祖父は、20歳の時に海軍航空隊の操縦士として南洋で終戦を迎えた。そして、復員したのち航空自衛隊の前身である警察予備隊に入隊し、アメリカ合衆国から供与されたF-86F セイバー戦闘機を駆るパイロットとして、今の雨宮の生活に多大なる影響を与えた人物である。
銀色の戦闘機から格納庫の方に目を移すと多くの整備員が自分の作業を中断して、雨宮とF-2を遠巻きに眺めていた。その中には、翼端に装着されているAAM-3を指差しながら何かを熱心に話している様子も見られた。
「ミサイルの事について話してんだろうな……。それにしても、いつまでこの状況が続くんだろう」
そう呟いた途端、2台のジープらしき車が雨宮とF-2が待機させられているエプロンに向かって走り出してきた。2台の車は数分も経たずにF-2の前に停車すると、先頭に止まったジープの助手席から降りてきた人物の姿に雨宮は目を見開く。
「サザーランド共和国空軍ヘイスロー基地の司令を務めているルビー・レンフィールド中佐だ」
レンフィールドはF-2に近づきながら大きな声で名乗る。
「じ、自分は日本国航空自衛隊第8航空団第8飛行隊、雨宮 千暁2等空尉です」
雨宮は機上で答える。
「2等空尉? 聞き慣れない階級名だな」
「一応は中尉と同等の階級です」
レンフィールドは雨宮の言葉に耳を傾けながらF-2に近付くと、機首に手を触れたり、エンジンノズルや翼端のミサイルをじっくりと眺める。F-2の周りを一周し、コックピット脇まで来たレンフィールドは雨宮に何かを告げると乗ってきた車の助手席に乗り込み、管制塔が隣接している建物ではなく、幾つもある格納庫の一つへと向けて移動していった。
「捕虜としては扱わない……か」
雨宮はレンフィールドから告げられた言葉を反芻した。
「おい、中尉さんよ。機体を繋げてもいいかい?」
声を聞き、目線を下に戻すと、青色のつなぎを着た大柄の整備士がトーイングトラクターの運転席で声を上げていた。
「お願いします。って、繋ぎ方分かりますか?」
「こんな物は見りゃ分かる。チョーク外すぞ」
青色の整備士は機体の下で作業をしながら雨宮に向けて声を張り上げる。
直後、F-2がトラクターに引かれてゆっくりと動き出す。数分でトラクターとF-2は、前面に5という文字が大きく書かれた格納庫へと収容された。トラクターが外され、改めてチョークが全ての車輪に装着される。すると、1人の女性の整備士が搭乗梯子を持ってF-2のキャノピーに寄ってきた。
「すいません! ステップつけてもいいですか?」
青色のつなぎの袖を捲っている女性の整備士はニカッと白い歯を見せながら雨宮に聞いた。
「あ、お願いします」
雨宮はキャノピーの縁を触りながら答えた。F-2にステップが付けられる。が、雨宮は自分の体を固定しているハーネスが自分では外せないため、待っていた整備員に声をかける。
「あの……ハーネスを外すの手伝って貰えますか?」
「あっ、はい!」
整備士はするするとステップを上がり、雨宮の説明を受けながらハーネスを外した。
「形は違うけど、中身は似てるんですね」
女性の整備士は雨宮が降りたあとのコックピットの中を見渡して呟いた。
「F-30って戦闘機もサイドスティック式の操縦桿を設けているの?」
雨宮の質問に女性の整備士は首を横に振る。
「ううん、違います。F-30は座席の真ん中に操縦桿があるんです。似てるのは計器の配置とかですね」
女性の整備士は明るい表情で答えた。
「あ、名前言ってませんでしたね。あたしは、サリー・アルバトロスです。よろしくお願いします!」
サリーは笑顔を見せながら右手を差し出してくる。
「僕は雨宮 千暁っていいます」
雨宮もサリーを見ながら手を握り返した。
「雨宮中尉! 早くこちらに来い!」
途端、格納庫の入り口から声が飛んでくる。振り返るとそこには、数名の部下を伴うレンフィールドが立っていた。
「い、今行きます!」
雨宮は《RAIN》というTACネームがペイントされたグレーのヘルメットをコックピットに置いたまま、オリーブグリーンの飛行服でレンフィールドの元へと駆け出した。
どうも時雨です。
普段より文字数が少なくなってしまいました。
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